シークレット・ダンジョン③



「ちょ、ちょっと……何よこれ!?」



《ストーンスライム LEVEL40》

《ストーンスライム LEVEL40》

《ストーンスライム LEVEL40》


見えたのは、モンスター。


『だけ』。


つまり――彼らは、モンスターを倒さず放置して先に先に進んでいるのだ。

普通こういうのは全部倒してからじゃないと進めないと思っていたが、案外行けるらしい。

もしくはそういうスキルがあるのか?



「……腹が立つわね。『掃除』はやっとけって?」


「大丈夫なのか?これ」


「良くないわよ!何かの拍子で急に襲ってくる可能性だってあるんだから」


「そりゃ駄目だな」


「ええ。ボスステージで一斉に……何てなったら目も当てられないわ」



今はアイツらを追っていない様だが、確かにこのモンスター達が向かっていけばタイミングによっては『終わり』だ。



「なるほどな……それじゃクマー、早速補助頼む」


「へ?」


「速攻で、彼らに追いつくぞ」


「――!ま、任せなさい!」


「はは、頼りになるな」



普段通りの声に戻っている彼女を見て、少し安心する。


……こっちも、やっと自由にやれるな。





「『対象増加』――『弱点分析』!」



クマーがそのスキルを唱えると、三体居る茶色のスライムに赤い印が表示される。

『対象増加』……そのスキル名が表す通り、三体同時に弱点を見つけられるらしい。速攻で終わらせるには最適だな。



「あ。ちなみにこの『対象増加』……使ってる間私動けないから」


「えっ」


「ふふん、『信頼』してるわよニシキ。私を守ってね」


「あ、ああ……」



サラッとそういう事を言うクマー。まあでも、元からそのつもりだから問題ない。


ストーンスライム、見た目はスライムなのに石の様にゴツゴツとしていて、見るからに堅そうだ。

ただ――クマーのスキルのおかげで……



「――『パワースウィング』!」


『ピギィ!?』



動きを読んで――赤い印、ど真ん中に武器を当てる。

面白い程に吹っ飛ぶストーンスライム。


印があるというだけで、攻撃に迷いが無くなるのは嬉しい。




『ピギ!』『……ピギィ!』



そして迫る二体のストーンスライムが、石の塊を俺へ射出。

……魔法で言えば、『ストーンボール』だろうか。

当たれば威力は高いんだろうが、これは――



「――『スラッシュ』、らあ!』



《Reflect!》

《Reflect!》



先に発射されたストーンボールを武技で反射。

武技が終わった斧を振り上げて、後から来た二発目を反射。


ゆっくりと迫るそれは、タイミングが合わせやすくて気持ちが良い。



「――『パワースロー』!」


『ピギィ!?』


「……っ、らあ!」


『ギィ……』



《経験値を取得しました》



怯んだ一匹の赤い印へ投擲、命中。

その後魂斧を拾って攻撃すればスライムは倒れた。


……見た目は堅そうなのに、豆腐の様にHPが削れる。


これは、思っていたよりも早く追いつけるかもしれない。



「……ニシキを相手にする魔法職は悲惨ね、これ」


「え、何か言ったか?」


「別に。スライムちゃんが可哀想だと思っただけ」


「そう言われると倒しずらいな!」



軽口は程々に。

残りのスライムも片付けていく。





アレから、結構ダンジョン内を進んでいた。

横に居る彼女のおかげで、敵のHPが解けていくからな。


モンスターで言えば最初のストーンスライム、ミニガーゴイルにブラックウルフ。

クマー曰く初めて見たらしい。やっぱりあの昇進クエストは、特殊なだけあってモンスターを先取りしてたんだな。



そして――今俺達が闘っているのは。



《ハイゴブリン LEVEL42》

《ハイゴブリン LEVEL42》

《ハイゴブリン LEVEL42》



どこかで見覚えが無いだろうか?

そう、あの餓鬼王からの挑戦状の時のゴブリンの上位種だ。


正直……三体程度なら雑魚同然。

それに今は、強力なパーティーメンバーが居るわけだしな。




「『パワースウィング』」


『ギギャァ……』



《経験値を取得しました!》



「終わった、滅茶苦茶楽だな」


「……驚いた。さっきから凄いじゃない!本当にベアーの言っていた通りだわ!」


「はは、ありがとう。クマーのスキルのおかげだよ」


「謙遜し過ぎよ……でもその魂斧の効果、鑑定士のスキルとシナジー大ありね」


「シナジー?」


「お互いにその効果を高め合ってるってこと。単体で発揮するよりも何倍にもそれがあるわ」



歩きながら話す。

確かに、弱攻と弱点分析だ。

凄まじくダメージが稼げるのはそういった理由があるからか。



「……さて、そろそろあのおバカさん達に会えると良いのだけど」


「はは――っ!?クマー!」



殺気。

それも――無機質な。


俺の丁度、左から。



「きゃっ!び、びっくりした……何よ――って矢!?」



途端に感じたそれ。

歩いていた脚を瞬時に戻し、同時に斜後ろを歩いていた彼女を手で制した。


……そして横に目をやると、壁に刺さっている矢。



「罠か……完全に油断してたな」


「ふふ、面白いわよコレ。この床にスイッチがあるみたい」



タイル状のそれをクマーはポチポチと手で押す。

目の前を連続で飛んでいく矢。



「凄い凄い!ダンジョンっぽいわね!『シークレット』だからかしら?」


「ははは、そうかもな」



珍しくはしゃぐクマー。

……彼女が楽しそうで何よりだけど。


モンスターが居ないからって気が緩んでいた、危なかったな。



「――さて。もしかしたらこの先、『そういう』エリアなのかもしれないわね」


「ああ。だとしたら――」



先には、モンスターの影は見えない。

ずっと先行しているあの三人は――



《スイカ様が死亡しました》




「……え?」



『気を付けて進まないとな』――そう言おうとした時。


聞こえたのは、そんなアナウンスだった。

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