氷雪の英雄⑤
「『オールマジック・フレイムソード』!!」
俺がそう唱えると同時に、半分近くあったMPは全て消えて。
それを食らうかの様に――俺の身体の火は増大、増大。
そしてその炎は、やがて剣へと移動していく。
「――はは、こりゃあ凄えわ」
近付いて来ようとしたリーダーは、その足を止めた。
無理もない。今――俺の手には、轟々と燃え盛る巨大な魔法剣が握られているから。
『オールマジック』シリーズ……当然それにも『属性付加』は適用される。
この場合は『炎』。
ファイアーヒールの効果時間中に魔力変換を行う事で創られるそれ。
「――これが『魔術剣士』の新しい力だよ、リーダー」
「!ああ。これはマジで勝てる気しないな……」
炎剣を振り、刃を前に向ける。
当然、これの攻撃に少しでも当たれば――彼の残りHPは簡単に吹き飛ぶだろう。
出来るなら俺は、この手でリーダーを倒したくない。
降参してくれるのならそれが一番だ。
「このまま倒されるのが嫌なら、今の内に――」
「――なあ、ユウキ」
俺の言葉を遮って彼は言う。
その、頼りない安物のスチールアックスを握りながら。
「良いから。つべこべ言わずにかかって来いって」
左手――挑発の、ハンドサイン。
……そりゃそうだよな。リーダーならきっと、諦める訳が無いんだって。
「見てろよ――っ!」
俺は走り、その勢いのまま振りかぶる。
この炎剣のリーチは間違いなく斧より上。
そして何より『当たれば終わり』。
圧倒的に優位なはずなんだ。
なのに――どうしてアンタはまだ、そんなにもデカく見えるんだ?
「っ、らあああああ!!」
「――ぶっねえ!」
燃え盛る魔法剣を――彼へと横薙ぎに。
ギリギリで避けるリーダー。
「くっ、まだまだ――おらああああ!」
「焦りすぎだぜ、ユウキ――『パワースロー』!」
「!こんな攻撃――」
プレッシャーを掛けながら――大剣を彼へと振り下ろさんとする。
その最中、リーダーは斧を俺に向けて投擲。
投擲とこの魔法剣の一撃じゃ、お互い食らって生き残るのは間違いなく俺だ。
でも――彼の表情は、負けるなんて思っていないモノで――
「――!?」
一瞬遅れて気が付いた。
狙いは、俺じゃない。
魔法剣の取っ手部分――俺の手目掛け飛来する斧。
「ぐっ!?あっ――」
そして衝突。
迫る彼の気迫に押され……避ける事も出来ず、手にもつ魔法剣を衝撃で離してしまった。
《『オールマジック・フレイムソード』が解除されました』》
地面へ落ちる炎剣。
そしてその火は消えていく。
あっけなく――その勝機は途絶えてしまった。
「やっぱり、手から離れたら解除されるんだな」
「っ、フレイムソードが……」
「実は『これ』亡霊との戦闘で練習してたんだよ。上手く決まって良かったぜ」
そのまま俺は、魔法剣を回収しながら距離を取る。
前を見れば――平然と立ち、俺へと言うリーダー。
「なんで、そんな簡単に……」
「――簡単?おいおい、一週間どれだけ俺が『これだけ』の為に死んだと思ってる」
「っ!」
「はは、毎日毎日亡霊にやられまくってるからな。それも瞬殺で」
「……じゃあ、なんで諦めないんだよ。良い所まで行ってるならともかくさ!」
笑って言いのけるリーダーに、俺は理解が出来なかった。
たかがゲームの一ボスに、固執する彼の思惑が。
「そりゃ諦めた方が楽なのは分かるぜ」
「じゃあ、なんで――」
「――もし俺がココで亡霊をスルーしたら……多分、一生後悔するからだ」
「一生って!大袈裟過ぎだろ!?」
「はは……そうだな、今から超恥ずかしい事言うぞ。心して聞け!」
「は、はぁ?」
彼は、構えを解いて向き直る。
「俺は――『ニシキ』になりたかったんだよ。ユウキ」
「皆から注目されて、応援されて、憧れみたいなのを抱かれるような」
「けど、やっぱ『無理』だった。自分はPK職を圧倒出来るPSも無いし、亡霊にも一週間経って……この様だ」
そんな台詞とは裏腹に、彼の声は低くなかった。
むしろ――何かを楽しみにしているようなモノ。
「……意味分かんないって。じゃあ、尚更なんで――」
「――どうしても、そんな『届かない存在』にさ……言ってやりたい事がある。亡霊を倒せたその時に」
「な、何だよそれ」
彼は笑う。
そして――
「――『俺は、ここまで強くなったぞ』って……真正面から、アイツに言ってやりたいんだ」
「っ!」
「そしてそれが出来なかったら、冗談抜きに一生悔いが残る気がしてな」
リーダーが見つめるのはRLの空。
なぜかその表情は、不思議と今の俺を見ている様で――
「――以上!お前だけだぜ、こんな事言うの」
「っ、分かったよ」
「はは、そうかそうか!あー恥ずかしー!!」
笑う彼。
そして、手に持つ斧を構え直して。
「さて――まだ決闘は終わってない。俺を倒して考え直させるって言ったよな?」
「!分かってる……!」
「はは、それじゃ――お構いなく。こっちも商人として『お返し』だ」
リーダーは、俺へと刃を向ける。
「――今からお前に、俺の『全財産』をぶつけてやるよ!」
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