氷雪の英雄④
☆
決闘の条件。
『消費アイテム使用不可』、『復活不可』。
これが俺の提示だった。
……正直に言えばリーダーの方が消費アイテムの扱いが上手いし、復活手段も商人だからある。だからこの条件なんだ。
それでも、彼は断る事なくそれを受け入れた。
《決闘を開始します》
「さて、やるか!ユウキ」
「……おう」
俺は、決闘なんてほとんどした事が無い。
もっと言えば対人戦闘も……お遊びでそうきゅう達とやったぐらいだ。
でも。
自分には――この、上位職の力がある。
「……『ウィンドドレス』!」
そう唱えると同時に、俺の身体と魔法剣は緑色の風のようなエフェクトを纏う。
魔術剣士の新たな力の一つ。
それは――『
回復や攻撃スキルのほとんどに、水や火といった魔法属性が追加される。
「へえ!良いなそれ――」
「――行くぞリーダー!!」
ウィンドドレス。
それは――AGIを上昇させるスキル。
でも、それだけじゃないんだ!
「――早いな!」
「っ――『ウィンドブレード』!!」
「!?ぐっ――」
そして俺は彼へと接近――と見せかけそのまま剣を振り下ろす。
下ろされると同時に、剣を纏っている風が飛ぶ刃となってリーダーへ襲った。
「……はは、そりゃ厄介だな」
ダメージを受け、距離を取り呟くリーダー。
……当たり前だが、俺は上位職。しかも――『戦闘職』の。
ステータス諸々が調整されるとはいえ、『差』は大きいんだ。
「でも、負けねえぞ――」
「っ!」
リーダーは体勢を整え俺へと接近。
――まともにやり合えば、対人戦闘では彼が上のはず。
彼らは――『行商クエスト』という、PK職が出没するクエストに挑んでいるから。
《――「リーダーが凄い所は、アレからPK職にも三割ぐらいの確率で勝ってる所だよな」――》
《――「な!俺なんて未だ黄金の一撃のラッキーパンチに祈るぐらいだよ」――》
《――「……話聞いてたら商人ってもう色々『商人』らしからぬ事してんな……」――》
思い出すそうきゅう達の会話。
そんな修羅場をくぐって来ていない俺は……この『魔術剣士』の力で、彼に対抗するしかない!
「――『スラッシュ』!!」
「……っ、『武装変化』――『アイスシールド』!!」
タイミングを合わせ、そう唱えると同時に――魔法剣は『盾』へと形状を変える。
この盾の属性は、『氷』だ。
「――っ!?う、うおお!何だこれ――」
何とか攻撃を盾で防ぐことに成功。
斧の一撃は跳ね返り……まるでスローモーションの様に、彼の動きは遅くなる。
これも『属性』により、得た盾の力。
この氷盾に触れた敵は――三秒間、状態異常『速度低下』に陥るのだ。
「『武装変化』っ――おらあああ!」
瞬時に元の剣へと戻し、俺は刃を振るう。
避けようとするリーダーだが……ゆっくりと動く彼にそれは簡単に当たった。
「がっ――!」
「――はあ、はあ……見たかよ、リーダー」
今のところは、俺は彼を圧倒している。
HPにしてもうリーダーの体力は残り七割。
このまま行けば――
「――『パワースロー』」
「!?ぐうっ!」
「はは、ちょっと気が抜けてんじゃないか?」
不意の投擲。
避ける間もなくそれを食らった。
俺へ暇を与えることなく、インベントリから斧をもう一本取り出すリーダー。
「行くぞ、ユウキ――」
「っ!……『武装変化』、『アイスシールド』!」
俺は、接近する彼へその盾を構える。
でも――
「――甘いな、『スラッシュ』!」
「!?くっ――」
「――らあ!」
「ぐあっ――!」
フェイントを掛けたそれに、俺は簡単に引っ掛かる。
彼の武技は直撃、そして追撃の通常攻撃も加えて当たった。
……やっぱりリーダーは強い。
でも――このまま負ける訳にはいかないんだ。
「まだまだ行くぞ、ユウキ」
「っ――望む所だ!」
☆
あれから決闘は続いて。
対人戦闘に慣れているだけあり、リーダーは容赦なく俺のHPを削っていく。
でも――その『装備』はただのNPC品のスチールアックス。防具も同じ鋼等級だ。
対する俺は、それなりに揃えたプレイヤーメイドの防具で受けている。
結果……かなりの劣勢であるはずの俺は、体力残り三割。
リーダーも同じく三割と――互角の勝負になっていた。
「……だから言っただろ。これが良い証拠だって」
「はは、まだ俺は負けてないぞ?」
嘆くように俺はリーダーに言えば。
彼は――軽く笑ってそう返す。
……住人の為にゴールドを消費した事を、今になっても後悔していないんだ。
上位職になった俺が彼に会いに行っても、嫌な顔一つせず祝福してくれた。
そんな彼だからこそ、俺はリーダーを――
「――覚悟しろよ、次で決める」
「へえ。来いよ!」
剣を構え、リーダーに刃を向け――
「――『ファイアーヒール』」
詠唱後、俺の身体を暖かい火が纏っていく。
属性は『火』。このファイアーヒールは通常のヒールとは異なる。
十秒間、じわじわとHPを少量回復し続けていく。所謂『リジェネ』だ。
「っ回復だと!?逃すか――『パワースロー』!」
攻撃すると見せかけての回復……不意をついたつもりだったけど、瞬時に対応された。
当然の様に、リーダーは俺の隙を逃さない。
飛んでくる何本目かのスチールアックス。
「がっ――」
「――『スラッシュ』!!」
「ぐ……はあ、はあ――」
リーダーの連撃から、何とか走って逃げて距離を稼ぐ。
投擲武技と片手斧の武技を食らうものの――ファイアーヒールの回復で二割までの減少に留まった。
そしてファイアーヒールの効果時間は残り三秒。
……傍から見れば、これは意味のない行為かもしれない。
でも――この『ファイアーヒール』は、ただの『前準備』なんだ!
「『魔力変換』――『オールマジック・フレイムソード』!!」
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