氷雪の英雄④




決闘の条件。

『消費アイテム使用不可』、『復活不可』。


これが俺の提示だった。


……正直に言えばリーダーの方が消費アイテムの扱いが上手いし、復活手段も商人だからある。だからこの条件なんだ。


それでも、彼は断る事なくそれを受け入れた。



《決闘を開始します》



「さて、やるか!ユウキ」


「……おう」



俺は、決闘なんてほとんどした事が無い。

もっと言えば対人戦闘も……お遊びでそうきゅう達とやったぐらいだ。


でも。

自分には――この、上位職の力がある。



「……『ウィンドドレス』!」



そう唱えると同時に、俺の身体と魔法剣は緑色の風のようなエフェクトを纏う。


魔術剣士の新たな力の一つ。

それは――『属性付加エンチャント』だ。


回復や攻撃スキルのほとんどに、水や火といった魔法属性が追加される。



「へえ!良いなそれ――」


「――行くぞリーダー!!」



ウィンドドレス。

それは――AGIを上昇させるスキル。


でも、それだけじゃないんだ!



「――早いな!」


「っ――『ウィンドブレード』!!」


「!?ぐっ――」



そして俺は彼へと接近――と見せかけそのまま剣を振り下ろす。

下ろされると同時に、剣を纏っている風が飛ぶ刃となってリーダーへ襲った。



「……はは、そりゃ厄介だな」



ダメージを受け、距離を取り呟くリーダー。


……当たり前だが、俺は上位職。しかも――『戦闘職』の。

ステータス諸々が調整されるとはいえ、『差』は大きいんだ。



「でも、負けねえぞ――」


「っ!」



リーダーは体勢を整え俺へと接近。


――まともにやり合えば、対人戦闘では彼が上のはず。

彼らは――『行商クエスト』という、PK職が出没するクエストに挑んでいるから。



《――「リーダーが凄い所は、アレからPK職にも三割ぐらいの確率で勝ってる所だよな」――》


《――「な!俺なんて未だ黄金の一撃のラッキーパンチに祈るぐらいだよ」――》


《――「……話聞いてたら商人ってもう色々『商人』らしからぬ事してんな……」――》



思い出すそうきゅう達の会話。

そんな修羅場をくぐって来ていない俺は……この『魔術剣士』の力で、彼に対抗するしかない!



「――『スラッシュ』!!」


「……っ、『武装変化』――『アイスシールド』!!」



タイミングを合わせ、そう唱えると同時に――魔法剣は『盾』へと形状を変える。

この盾の属性は、『氷』だ。



「――っ!?う、うおお!何だこれ――」



何とか攻撃を盾で防ぐことに成功。

斧の一撃は跳ね返り……まるでスローモーションの様に、彼の動きは遅くなる。


これも『属性』により、得た盾の力。

この氷盾に触れた敵は――三秒間、状態異常『速度低下』に陥るのだ。



「『武装変化』っ――おらあああ!」



瞬時に元の剣へと戻し、俺は刃を振るう。

避けようとするリーダーだが……ゆっくりと動く彼にそれは簡単に当たった。



「がっ――!」


「――はあ、はあ……見たかよ、リーダー」



今のところは、俺は彼を圧倒している。

HPにしてもうリーダーの体力は残り七割。


このまま行けば――



「――『パワースロー』」


「!?ぐうっ!」


「はは、ちょっと気が抜けてんじゃないか?」



不意の投擲。

避ける間もなくそれを食らった。


俺へ暇を与えることなく、インベントリから斧をもう一本取り出すリーダー。



「行くぞ、ユウキ――」


「っ!……『武装変化』、『アイスシールド』!」



俺は、接近する彼へその盾を構える。


でも――



「――甘いな、『スラッシュ』!」


「!?くっ――」


「――らあ!」


「ぐあっ――!」



フェイントを掛けたそれに、俺は簡単に引っ掛かる。

彼の武技は直撃、そして追撃の通常攻撃も加えて当たった。


……やっぱりリーダーは強い。

でも――このまま負ける訳にはいかないんだ。



「まだまだ行くぞ、ユウキ」


「っ――望む所だ!」





あれから決闘は続いて。


対人戦闘に慣れているだけあり、リーダーは容赦なく俺のHPを削っていく。

でも――その『装備』はただのNPC品のスチールアックス。防具も同じ鋼等級だ。

対する俺は、それなりに揃えたプレイヤーメイドの防具で受けている。


結果……かなりの劣勢であるはずの俺は、体力残り三割。

リーダーも同じく三割と――互角の勝負になっていた。



「……だから言っただろ。これが良い証拠だって」


「はは、まだ俺は負けてないぞ?」



嘆くように俺はリーダーに言えば。

彼は――軽く笑ってそう返す。


……住人の為にゴールドを消費した事を、今になっても後悔していないんだ。

上位職になった俺が彼に会いに行っても、嫌な顔一つせず祝福してくれた。


そんな彼だからこそ、俺はリーダーを――



「――覚悟しろよ、次で決める」


「へえ。来いよ!」



剣を構え、リーダーに刃を向け――



「――『ファイアーヒール』」



詠唱後、俺の身体を暖かい火が纏っていく。

属性は『火』。このファイアーヒールは通常のヒールとは異なる。

十秒間、じわじわとHPを少量回復し続けていく。所謂『リジェネ』だ。



「っ回復だと!?逃すか――『パワースロー』!」



攻撃すると見せかけての回復……不意をついたつもりだったけど、瞬時に対応された。

当然の様に、リーダーは俺の隙を逃さない。


飛んでくる何本目かのスチールアックス。



「がっ――」


「――『スラッシュ』!!」


「ぐ……はあ、はあ――」



リーダーの連撃から、何とか走って逃げて距離を稼ぐ。


投擲武技と片手斧の武技を食らうものの――ファイアーヒールの回復で二割までの減少に留まった。

そしてファイアーヒールの効果時間は残り三秒。


……傍から見れば、これは意味のない行為かもしれない。

でも――この『ファイアーヒール』は、ただの『前準備』なんだ!




「『魔力変換』――『オールマジック・フレイムソード』!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る