エピローグ:商人スレの英雄達(掲示板回)
《決闘は中断されました》
《ラロシアアイス・非戦闘フィールドに移動します》
俺は、しがない商人。
名前はアスパイア。
ちなみにこれは好きなゲームから取った。呼びにくいから皆リーダーって読んでるけどな。
……そしてさっきの決闘で所持金はゼロ。
商人の名が泣いてる。
でも――それは大した事じゃない。
「リーダーがユウキ泣かした……」
「うわマジかよリーダー最低だな」
「もしかしてボッコボコにされたのか?ユウキ。かわいそ~」
「いや違うって!引き分けだわ!」
いつの間にか集まっていた『最前線達』。
あらぬ誤解だ。
というか俺、あの炎の剣見た時はマジで焦ったんだぞ……。
「……滅茶苦茶にやられた……」
「えっ、いやいや違う違う!いい勝負だっただろ!?」
「うわっ」
「そんな目で俺を見ないでくれ……ってかお前今笑ってんだろ!」
囃し立てるそうきゅう。
俯きながら嘆く様にいうユウキ。
でもその口角が僅かに上がっているのを、俺は見逃さない。
……まあでも、あの時の号泣は演技じゃないよな。
だとしたら怖いぞ!
「……ははは、ごめんってリーダー。冗談冗談」
「なんだ冗談か」
「ガチだと思ったぜ……」
「あ、そうだリーダー」
《『商人一号』様からトレード申請が届きました》
「え?」
「良いから受けてみなって」
「あ、ああ」
《トレード申請を受諾しました》
《『商人一号』様から5000000Gが譲渡されました》
「……はぁ!?」
不意に渡される巨額のG。
額にして五百万。それは俺がRLで持ったほどの無い金額だ。
「なんでこんな――」
「――リーダー。商人スレ見てみな。サプライズだぜサプライズ!」
「うらやましいなあ」
遮って言う一号。
正直訳が分からなかった。
こんないきなり大金貰っても怪しいんだが。
「は、はあ?何でだよ?」
「良いから」
「あ、ああ……」
俺は、久しぶりにその掲示板を開いた。
◇◇◇
【商人上位職】RL商人専用スレ 四十一G目 【情報求む】
803:名前:一号
商人一号だ
無事託されたゴールドをアスパイアに渡した
image/37485
804:名前:名無しの商人
>>803
おう、まあ勝手に持ち逃げなんてしないとは思ってるけどw
805:名前:名無しの商人
>>803
サンクス つーか五百万も集まったのかよwww
806:名前:名無しの商人
実際黄金の一撃も蘇生術も使いまくってくれてただろうし……
これでも足りなかったらスマン
807:名前:名無しの商人
まさか亡霊に挑んでるなんて知らなんだ
808:名前:名無しの商人
ごめんなさい、マジであの時のパーティーリーダーだったとは
そりゃあんだけ強い訳だわw
809:名前:名無しの商人
みんな、ありがとう
810:名前:名無しの商人
>>809
え、本人?
811:名前:名無しの商人
>>809
このゴールドで装備でも買ってくれ!!!!!!れれ
812:名前:名無しの魔法剣士
>>809
マジでありがとう 王都に辿り着いたのはアンタのおかげだ
813:名前:名無しの商人
ニシキに続いて、二人目の亡霊討伐が俺は見たいです
頑張ってください
商人最強!商人最強!商人最強!!!
814:名前:名無しの商人
がんばれよーーーー
815:名前:名無しの商人
うおおおおおお商人最強!商人最強!
頑張れ!!
◇◇◇
「……この通り。納得したか?」
「あ、ああ」
「一応説明しとくと、王都には商人ギルドって場所があってな……そこで色んな商人や魔法剣士に会ったんだ」
「そこで初めて俺達もリーダーがそんな事やってるって知ったんだけど」
「王都に辿り着けた礼として、お前に渡して欲しいって奴らが大量に居たんだよ」
まさか、そんな事が起きていたとは。
別に良いってのに――
というか五百万Gって、元の所持金より多いぞ?装備も含めて。
「あーあ、これで商人スレにもリーダーが亡霊に苦戦してる事が知られちゃったな」
「……はは、勘弁してくれ」
「なあ、あんた――まだ、『一人』で頑張るつもりなのか?」
魔法士のカトーがそう言う。
それは、優しさなんだろう。
これまでの俺なら――イエスと答えていただろうが。
さっき、ユウキと約束しちゃったんだよな。
《――「俺達は――アンタの仲間なんだ。一人じゃなくて、俺達の力も頼ってくれよ」――》
《――「でも、それじゃお前らに迷惑じゃ……」――》
《――「良いから。約束してくれリーダー。答えはすぐ分かるから」――》
決闘を中断する前。
彼は涙を拭いた後、俺にそう言ったのだ。
「それなんだけど――『最前線』のお前らに、頼みがあるんだ」
「え?」
「リーダーが頼み……?」
「おいおい珍しいな」
ユウキ以外が俺を不思議そうな目で見る。
……俺は、そのまま頭を下げて。
「――正直、一人じゃ限界なんだ。亡霊を倒す為に……手伝ってくれないか」
そう、地面を見ながら言った。
返って来る言葉は――
「えっ――お、おう!当たり前だろ!」
「リーダーが俺達を頼ってる!」
「ここまで来たって事はそういう事だっての!練習相手にでも何でも喜んでやるぜ!」
「はは」
口々に快答する仲間達。
だから言ったろ、と言いたげに笑うユウキ。
「……ありがとう」
色々と溢れてくるモノはあるが。
俺の口からは、その言葉だけが自然と出た。
冷やかしでもなく様子見でもなく。ユウキの言うように……今『彼ら』が俺を助けに来てくれた事実が、何よりも嬉しかったんだ。
「――よーし!俺達は亡霊に挑めねえけど……一緒に考えるぐらいは出来るし考えるぞ!」
「確かあのボスの狂暴化は両手で攻撃するんだろ?なら二人でリーダーに攻撃すれば良い練習になるはず」
「まあ、まずは皆でボスの動画見よう! 久々にラロシア喫茶にでも行くか!」
「あ、ああ」
「んじゃ行くぞ!」
「楽しくなって来たな」
「亡霊とか動画でも始めて見るわ……」
怒涛の勢いに押される。
そのまま歩いていく三人。
……そんな楽しいもんか?
「なあ、リーダー」
「な、何だ……?改まって」
横に居たユウキが、俺に声を掛ける。
「……早くしねえと、俺が『リーダー』になっちまうぞ?」
「何だと!?お、おいユウキ待て!この座は死んでも渡さな――おい待てってのー!」
呟く様にそう言って、彼は走って三人に合流。
止める間もない。
というか、さっきから考えが追い付かない。
《――「――え、お前らも『ドール』使ったのか!?って持ってたのか!?」――》
《――「ん?な、何だこのスキル……ってうるせえ!『あんな』の見せられて黙ってられっかよ!」――》
《――「本当にな、お前だけ頑張りすぎだっての」――》
「……そういえばあの時も、一人じゃなかったな」
それは、初めて行商クエストをクリアした時の事。
絶対に無理だと思っていたPK職を倒したのも、彼らが居たから成し遂げられた。
『今』の、俺にある
何時からか――それを俺は忘れてしまっていたのかもしれない。
《――「こんな事言ってからアレだけど。お前とのクエスト楽しかったぜ、ニシキ……それじゃ!」――》
思い出す――ニシキと行商クエストに行って案の定失敗した時の事。
『楽しかった』なんて言ってたけど……心の底では悔しくて仕方なかった。
あの時。もっと早く俺達が強くなろうとしていれば――彼と今、仲良く遊んでいたのかもしれない。
「ま、今は今か……ありがとなニシキ」
この台詞を言うのはもう何回目だろうか。
それでも俺は、彼に感謝しても仕切れない。
なんせ……このRLを『また』心の底から楽しいと思える様にしてくれたから。
《ニシキ 武器商人 LEVEL45》
「で……はは、コレはアイツらには黙っとこ」
フレンド欄。
もう上位職となっている俺の憧れ。
そんなお前を必死に追っているだけなのに、俺の周りには色んな人が集まっていって。
……そしてこの者達を、いずれお前に紹介出来る時が楽しみで仕方ないんだよ。
「――おいリーダー!何やってんだよ!!」
「早くしろよ~」
「……ラロシア喫茶奢ってもらうぞ、そのGで」
「おっ、そりゃ良いな。一番の金持ちだし」
「――ははっ、おいおい勘弁してくれ!これは亡霊の為の資金だっての!!」
遠くの方から掛かる、暫く聞けなかった仲間の声。
俺はそれに思わず笑って……もう一度、このラロシアアイスを駆けていった。
↓作者あとがき↓
……と、いうわけで今章は終わりとなります!お付き合いいただきありがとうございました。
そして更新も一時停止となります。
コミカライズ単行本は10月に出ます!……その為の単行本作業や本編続きを書いている最中でありまして、夏の暑さもあり筆が進むのが何時もより遅いです(すいません)。
次の再開は単行本で出る時期ぐらいに目標を定めてます、これに関しては今の時点では分かりませんが活動報告の場で勿論随時報告はしていきます。
しかしながら丁度ニシキのダンジョン編(大体三万文字ぐらい)がほぼ完成してますので、この夏休み期間中にそれだけ更新はしようかなと。
夏の終わり頃に、またフラっと見に来ていただければ幸いです。
本当に皆様の応援のお蔭でここまで来れました。誤字報告やご感想本当にありがとうございます。コミカライズ版の無料分は8月の終わり頃に公開終了となりますので、そちらも是非!
それではまた。
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