掲示板回:氷雪の英雄①


俺はしがない商人。


今は――ラロシアアイス最難関ボス、氷雪の亡霊と対峙していた。



『――!』


「――うっ!!」



《貴方は死亡しました》

《黄金の蘇生術を使用しますか?》

《サクリファイスドールを使用しますか?》


 

「……『使わない』」



《ラロシアアイス・非戦闘フィールドに移動します》



「ああああああー!もうこれで何回目だよ!」



あれからもうかなりの時間が経っただろうか。

あの商人の最前線達に、カッコよく?宣言して氷雪の亡霊へ立ち向かうも撃沈。


亡霊の残りHP三割すらも切れる事も無く――俺は毎回死にに行っていた。



「……あー、マジでクリア出来る気しないぞこれ……」



あの杖と弓の同時攻撃から、無理ゲーに近い。

まずはアレを完璧に避けて――そしてそこから近接戦に持ち込まないと。


ただの凡人の俺には本気できつい。

ニシキなら、アレぐらい余裕なんだろうか?



「あーあ、もう行っちまうか――いやいや!駄目だ」



項垂れながら、俺は掲示板を開く。


商人スレッド。

ここには――俺と同じく、苦しんでいる奴らが沢山いるからな。



「……お、もう新スレか」





【G大好き♡】RL商人専用スレ 三十九G目 【ゴキじゃないよ】



1:名無しの商人


話題のVRMMOファンタジー『RL』の商人専用スレッドです。


過酷な状況ですが、見習いから熟練の商人まで情報共有しながら頑張りましょう。

商人専用とありますが、他職の皆様も書き込みOK(むしろ来て)


【RL公式】htp://reallifeonline/members.html


【RL公式ブログ】htp://rl-no-blog.livedria/baz


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前スレ・関連スレッド



【そのGを一撃に変えて】RL商人専用スレ 三十四G目【設定額に注意】


https://ncode.syosetu.com/n8329gj/



【オールラウンダー】魔法剣士スレ☆17☆【器用貧乏】


https://ncode.syosetu.com/n8329gj/



1:名前:名無しの商人

立て乙 毎回要望のとこ運営煽るのもテンプレだな……


2:名前:名無しの商人

もうすぐ四十!!!


3:名前:名無しの魔法剣士

お疲れ様です


4:名前:名無しの魔法剣士

こっちのスレ消費はえ~w


5:名前:名無しの商人

>>4

そっちの伸びのがヤバイんじゃねえのwもう17じゃんww


6:名前:名無しの商人

やっぱ最前線達が頑張ってるしな


7:名前:名無しの商人

ニシキとかもう何処まで進んでんだろw


8:名前:名無しの商人

もう上位職辺りには手付けてそう!


9:名前:名無しの商人

あ、確かに

商人の上位職って何なんだろうな


10:名前:名無しの商人

アイツ、全く掲示板とか見なさそうだわw最前線達が情報落としてくれる事に期待


11:名前:名無しの商人

実はずっとここ見ててひたすらニヤついてたりして


12:名前:名無しの商人

>>11

だとしたら怖えわ


13:名前:名無しの魔法剣士

ニシキ様はそんな事しません><


14:名前:名無しの冒険者

>>13

うわきっしょwwwコイツあんなののファンか?

あんな気味悪い商人なんかより冒険者の方がレア泥落とすし『こっち』に来いよ笑


↓↓↓


【パーティ必須職】RL冒険者スレッド㊿【戦闘も出来る】


https://ncode.syosetu.com/n8329gj/



15:名前:名無しの商人

コイツ対立してる職業スレに誘導してどうすんだよwww


16:名前:名無しの商人

別に対立してないけどなwただあっちにも迷惑だしやめとけ


17:名前:名無しの商人

NGしました


18:名前:名無しの魔法剣士

……そういや、お前らどんな感じ?(クソ遅)


19:名前:名無しの商人

>>18

俺は最近レベル35になった


20:名前:名無しの商人

>>18

レベルは35!だがボスには……


21:名前:名無しの魔法剣士

>>18

レベル35行きましたぁ

ですがボスが突破できませぇん……><;


22:名前:名無しの冒険者

>>21

なあ、冒険者の俺が協力してやってもいいぜw

ありがたく思えよ、確認だけど君♀プレイヤーだよな?こんなスレッド何て居ないでこっち来ようぜ


↓↓↓


【必須職】RL冒険者スレッド㊿【戦闘も出来る】


https://ncode.syosetu.com/n8329gj/



23:名前:名無しの魔法剣士

>>23

リアル年齢30越えの♂だけど良いカナ……?<●><●>


24:名前:名無しの商人


25:名前:名無しの商人

おい連れてけよ


26:名前:名無しの魔法剣士

……話途切れたけど、まあ最前線達が何とかなる事証明してくれたし


何とか協力して王都まで行きたいよな


27:名前:名無しの商人

だな!


28:名前:名無しの商人

まあ、やっぱニシキとか最前線達みたいにプレイスキルを磨かなきゃダメなんだが


29:名前:名無しの商人

未だにアイスベアーにやられてる俺(レベル35)


30:名前:名無しの商人

がんばろう!!!(ヤケクソ)(レベル20)





「……それでもやっぱり、皆レベル上がってきてるな」



見ていたら、スレの商人や魔法剣士達も俺と同じくレベル35に近付いてきている。


でも――やっぱり、彼らも苦戦しているようだ。主にボスに。



「ちょっと安心しちゃったな……」



このラロシアアイスに取り残されているのは、俺だけじゃないのだと。

人としては駄目だと思うが、心の支えにはなる。

氷雪の亡霊を倒せるまで……は流石にいないだろうけどさ。


そういえば王都でまたニシキがワールドメッセージを飛ばしたらしい。

まだ俺はラロシアアイスだから聞けなかったけど、その時もスレは荒れてたな。


……アイツは、本当に凄いよ。



対して俺は――



「――ああ駄目だ駄目だ。はあ、もっかい行くかな」



適当に雑魚を倒しながら向かおう。

いつまでも突っ立ってても始まらない。



《しお 商人 LEVEL35》

《ジーマ 魔法剣士 LEVEL35》

《おかねだいすきすき君 商人 LEVEL35》



「うはーやっぱ無理い……」

「オールマジックシールド、使い所難しいよな」

「いやあでも盾あるだけでも違うって!」



掲示板を閉じ、立ち上がろうとした時――そのパーティが居た。


どうやら何かに苦戦しているらしい。

……もしかしたら、ボスかもしれないな。



「……」



何時もなら――迷わず俺は彼らに声を掛けていた。


でも弱い自分がそれを止める。

もし声を掛けて、そのまま一緒に……それでクリアでもしてしまったら。

『また』、自分は取り残されてしまう。



「はは、まあ何回かいってたら行ける行ける」

「『商人最前線』の動画も見ただろ?」

「……確かに。もうちょっと研究してみるか、消されちゃったのが残念」

「いや俺ら三人だからニシキさんの配信の方じゃね?大鹿だし」

「そっちは無理!」

「だな……あと一人足りねえんだよ」




遠くからの声。

ああ、聞こえない聞こえない――



「――はは、バカかよ俺は」



踵を返す。

気付いたら……そのまま彼らの方へ走っていた。





「――なあ!アンタ達ボスに挑むのか?俺も入れてくれよ」






『氷雪の大鷲』。

俺は――それに対して向かっていた。

さっきの彼らと共に。



『『『――GAAAAAAAAA!!』』』



上空。

体力を二割まで減らした大鷲が舞い上がる。


久しぶりに、『トリプルアタック』のサインだった。



「『ジーマ』!ここでアレ発動だ!!」


「ああ!『魔力変換』――『オールマジックシールド』!」


「ナイス、これで二発耐えてくれ」


「任せろー!」



『――GAAAAAAAAAAAAA!!』



懐かしく感じるその魔法剣士の大盾が、その一撃を防ぐ。

この盾を見ると、アイツを思い出す。。

……ユウキもあっちで頑張ってるらしいからな。



「ぐっ……」



『GAAAAAAAAAAAAA!』



二撃目の後、盾の効果が切れる魔法剣士。

予定通り。

俺は――彼らの前に出た。



「うへっ、やっぱ2発で切れた!」


「ああ。後は任せろ――」



『GAAAAAAAAAAAAA!!!』



「ぐっ――」



《貴方は死亡しました》


《黄金の蘇生術を使用しますか?》


《黄金の蘇生術を使用します》


《130000Gを消費しました》



『GAAAAAA…………』



「――行くぞ、お前ら!!」


「ああ! 」

「う、うおおおお!」

「『スラッシュ』!!」



俺が最後の一撃を死んで耐えて、黄金の蘇生術を使用。


そのまま四人で硬直している大鷲へ向かう。



「――『パワースウィング』!」


「『マジックエッジ』!」

「『スラッシュ』!」

「らあ!!」



ただ――中々に削れない。

大鷲の硬直が解かれればピンチだ。

……まあ、使うしかないか。



「――『黄金の一撃』!」



《経験値を取得しました》


《大鷲の尾羽を取得しました》


《片手斧スキルのレベルが上がりました》


《90000Gを消費しました》





「か、勝った……」

「しかも一発クリアじゃん」

「な、なあアンタ良いのか?黄金の一撃も蘇生術も使わせちまって……」



喜ぶ者達。

成功してよかったよ。



「良いんだ。これから先、王都へ行くならGも温存したいだろ?」


「あ、ああ……そうだけどよ」

「ほとんどアンタのおかげだぜ!途中とか大鷲二体引き付けてたし……」

「俺ら三人で一体に手一杯だった!!あんた何者だよ、すげーPS!」


大鷲は『皆』であの時研究しまくってたからな……傍から見たら凄い奴と見えるのだろうか、大袈裟にそう言ってくれる彼ら。


……でも、自分が亡霊にずっと負けているとは言えなかった。



「――というか、俺達と一緒に行こうぜ!」

「そうだよ!アンタもパーティーに入ってくれれば――」



「――ありがとう。でも、止めとくわ」



一瞬、意思が揺らぎかける。

でも――『ニシキ』の存在が脳裏に浮かんだ。



「……それじゃ!俺はやる事あるから!」


「ちょ――」



《パーティーを離脱しました》



抜けて、逃げる様に走る。


……どうせ誰も、自分の名前なんて見てないし、知らないだろうけどさ。

俺は――ちょっと前まで商人最前線の『リーダー』張ってたんだぜ。


だからこれ位、カッコつけても良いだろう。



「……決めた」



一つ、俺は心に定める。

それはもしかしたら、自分の首を絞めてしまうかもしれない。



迷いが現れる前に俺は掲示板を開いた。



◇◇◇


【Gって】RL商人専用スレ 三十九G目 【ゴキブリじゃないよ】


111:名前:名無しの商人

もしボス討伐に詰まったりしたら、商人ホームページの方に募集掛けてくれ


出来る範囲で手伝うよ


112:名前:名無しの商人

>>111

え、アンタ誰?


113:名前:名無しの商人

>>112

俺はただのしがない商人だ

ちょっとボスの経験あるからさ、手伝える事あると思って


それじゃ、よろしく



◇◇◇



……このラロシアアイスに残っている状況だからこそ、やれる事がある。

困っているスレの住人達を――出来る限り、王都へ送り出してやろう。


ニシキはこの板の者達に目標を作ってくれた。

だから俺は――彼らをそこへ送り出してやりたい。


亡霊との戦闘も勿論だけどさ。

商人最前線の『リーダー』として、少しは同職達の為に役に立ちたいんだ。



「……さて、頑張りますか!」



少し明るくなった空へ、俺はそう呟いた。

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