交易クエスト⑤
☆
《王都ヴィクトリアに移動しました》
あれから、エリアの時と同じくワープして王都まで戻ってくる。
どうやら今回も二回道を行く必要はないみたいだ、助かるな。
ゲーム的に言えばそりゃかなり時間掛かるだろうし。楽しいから良いけどさ。
「さて……次はどこに向かえば良いのやら」
専用フィールドの為、プレイヤーの居ない王都はどことなく静かで居心地が良い。
ゆっくり積荷を引きながら――示された目標地点まで向かっていく。
「……ん?ここって……」
辿り着いたのは、また商人ギルドではなく――
《上級宝石職人『ガーネット』の工房に入りますか?》
――名前は初めて知った。
でも、ここは正真正銘エリアの師匠が居る所だ。
「まあ……入らなきゃ始まらないよな」
《上級宝石職人『ガーネット』の工房へ移動しました》
「――!誰だ?」
「……あ!ニシキさまだぁーー!!」
「こら!アンタは座ってな」
「うう……」
そこは、クマー達の工房と同じぐらい大きな立派なモノだった。
ロアスの家とは違い、何に使うか分からない様々な設備が置いてある。
そして――その広い工房には、製作に励むエリアとそれを眺めるもう一人のNPCが居た。
《ガーネット LEVEL――》
その名の通り、ザクロの様な赤髪のショートカットの女性。
年齢は俺と同じぐらい?だが……その鋭い目と声は職人としての気迫が感じられる。
「エリアの知り合いかい……で、何用?」
「あー。ラロシアストーンが手に入ったから、ぜひ買い取ってもらえたらと」
「!なんだって!?早く見せてくれ!」
……と思いきや、俺の積荷に飛びつくガーネット。
さっきの気迫はどこへやら――少年の様な目でラロシアストーンを見ている様だ。
「うおースゲー!初めて見たわラロシアストーン!」
「……あんまり流通しないのか?」
「ん?ああ。ラロシアアイスと王都までの道は特に悪党が多いからな。しかもこんな宝石の原石なんて……血相変えて飛んでくるだろうね」
「なるほどな……」
実際エリアの時もそうだったしな。今回はNPCじゃなくプレイヤーだったけど。
「それじゃ全部買い取る、値はまた商人ギルドに払わせて貰うわ!」
「ああ――」
《このままクエストを進行した場合、最終報酬額は40万Gとなります》
「――いや、ちょっと待ってくれ」
「ん?何かあんのか?」
不意に聞こえたアナウンスに、俺は思わず彼女に声を掛けた。
恐らくここで、何か――行動すれば報酬額が変わるはず。
……どうしよう。
「あー、安くないか?このラロシアストーン、かなり貴重なんだろ?」
「はぁ!?こっちはかなりの金積んでるんだ、勘弁してくれって」
「そこを何とか」
「……つーか、アンタこれの価値を分かってんのか?場合によっちゃ値段下げさせて貰うぜ」
「!」
マズい、墓穴掘ったか?
ここで選択肢をミスれば値段が下がってしまうんじゃ。
「おーい、価値も知らずに売り付けに来たんなら――」
「――いいや、そんな事は無い」
「んんー?なら教えてくれよ、アタシを納得させる証拠を」
怪しく笑いながら、ガーネットが俺の顔に自身の顔を近付ける。
その言葉はハッタリじゃない。
対して俺は――自分の指にある『それ』を外して、彼女に見せた。
……助かったよ、ロアスさん。
「これは『氷宝玉の指輪』。そのラロシアストーンを元に作られたモノだ」
「そしてその効果は持ち主の能力を大幅に上昇させる素晴らしいアイテムで……何より、この氷結晶を模った宝石が目を見張る美しさだろ?」
「これの価値が低い訳は無い。あの『ヴィクトリアストーン』にも匹敵する――どうだ?」
こんな交渉事なんてやった事無いが……持ち得る情報を全て話したつもりだ。ちょっと盛ったけど。
もしこれで無理なら――
「――ああ。マジでキレー……ははっ、『完成品』を見せられちゃこっちも無理だ」
《このままクエストを進行した場合、最終報酬額は50万Gとなります》
俺の手にある氷宝玉の指輪を、マジマジと近くで眺める彼女。
そして鳴るアナウンス……どうやら、成功したみたいだ。
「ラロシアアイスには、優秀な宝石職人が居るから……なあ、エリア!」
「はい!そうなのです!!」
「ってなんでアンタが自慢げなのさ!」
エリアが誇らしげに胸を張ると、すかさず突っ込みを入れるガーネット。
案外、仲良くやっているみたいだな。
☆
「それじゃ、ありがとう。高値で買い取ってくれて助かったよ」
「ははっ――いやあ、ラロシアストーンならアレぐらい出して当然だわ」
「……最初のアレは?」
「そりゃあこっちも商売だからな!はっは!」
積荷を下し、ガーネットと話す。
……この世界の住民は、本当に生きているみたいだ。
「じゃあ、また機会があれば」
「ああ!また来な!」
「……エリアも。頑張れよ」
「は、はいです!!」
そんな、二人に見送られて――
《『交易』クエストを達成しました!》
《報酬として500,000ゴールドを取得しました!》
《通常フィールドに戻ります》
《王都ヴィクトリア・非戦闘フィールドに移動しました!》
鳴るアナウンス。
現れる沢山のプレイヤー。
俺は――交易クエストを達成した。
☆
「……ふう」
思わず息をつく。
長いクエストだったが――改めて『商人』としてこの世界に居る実感が湧いたよ。
PK職との戦闘。
物品を渡すだけではなく、物品の情報を利用した交渉。
様々なNPCとの会話。
「楽しかったな……」
声が漏れる。
あの時、もし俺がPKK職になっていたとすれば――このクエストは現れなかった。
決意を固めてくれたシルバーに、他の俺のフレンド達には頭が上がらない。
……彼らにしたら、勝手に感謝されて迷惑かもしれないが。
「はは、こうして見ると懐かしい。『アスパイア』……元気にしてるかな」
なんとなく、そのフレンド一覧を見て呟く。
『アスパイア』……名前順で一番上に来たその商人。
なんせ頭が『あ』だからな。『本人』も良く言ってたよ。
「懐かしいな――」
――それは、シルバーと会うもっと以前のことだ。
《――「なあニシキ、俺達ってどうなるんだろうな」――》
《――「はは……このままなら流石に強化とか来るんじゃないか?」――》
《――「そうだよな!それじゃ……俺は、今日でしばらくRL休止するよ」――》
それは、彼と行商クエストに行って……二人して撃沈した夜の事。
《――「……そっか。しょうがないって、この状況だし」――》
《――「ごめん。俺ももう限界でさ……また強化でも入ったらインするわ」――》
《――「ああ、分かった」――》
《――「こんな事言ってからアレだけど。最後のお前とのクエスト楽しかったぜ、ニシキ。それじゃ!」――》
最後。
消え行く彼が見せた笑顔は――言葉とは裏腹に、無理矢理作ったモノだった。
《アスパイア 商人 LEVEL35》
「……戻ってきてくれて嬉しいよ」
そして今。
いつからか、この世界に彼は居る。
会話なんてしていないが……何かの切っ掛けがあって復帰したんだろう。
レベルも順調に上がっているようだし。
何となく気恥ずかしくて、自分は未だに彼へ声を掛けられない。
俺の事なんて忘れて――楽しくプレイしてくれていたらそれで良いんだけどさ。
でも……
「――今度会ったら、声でも掛けてみるか」
その時を楽しみにしながら。
俺は――王都の道を進んでいった。
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