交易クエスト④



現れたPK職との闘いを終えて、俺は先に見えるゴールへと歩いていた。



「……今回の敵は、かなり強かったな……」



正直、あの『波』が見えた時は終わったと思った。

『大海原の畏敬』――そのスキルはかなり危険だ。



「本当に、『武器商人』で助かったよ」



俺が新たに得た、『片手武器』の解放。

今回使った片手剣のスチールソード、小刀のスチールナイフは、前の商人なら装備出来なかったモノだ。


そりゃキッドなんかには到底敵わないけど……スピードという面で小刀の投擲はかなり強い。

片手剣も、魂斧の刀状態に比べたら早さも威力も大きく劣るが『居合』が可能になった。



「これからも、もっと練習しないとな」



まだ小刀スキル、片手剣スキルなんかは現れていないが……そのうち現れてくれるんだろうか。

それなら尚更使っていかないとな。


ただ勿論、片手斧が第一ってのには変わらないけど。

やっぱり商人の武器はといえばコレだからな。使いやすいし。






《ラロシアアイス・辺境に到着しました》



「まあ、『ヴィクトリアストーン』って聞いてたからもしやとは思ったけどさ……」



ラロシアアイスのその場所。言う間でもなくロアスさんの家だ。

思えばかなり久しぶりで、エリアを連れていった振りか。


……でも交易って物品を交換するんだよな?


ラロシアアイスの商人の方が適している気がしなくもない。



まあ、良いか。

とにかく行ってみたら分かるだろう――



《辺境の宝石職人の家に入りますか?》


《辺境の宝石職人の家に移動しました》



「!ニシキじゃないか!久しぶりだねぇ」


「……な、なんだその大量の……もしかしてラロシアストーンか?」


「んん?ああそうさね。安いと思って、ちょっと買いすぎてしまってねぇ」



一応、それ宝石の原石だと思うんだが。

もしかして、ロアスさんってかなりの金持ちなのか……?


でもまあ、交易先がここなのには納得したよ。



「……んん?もしかしてそれはヴィクトリアストーンかい?」


「はは、ああ。めぐり合わせが良いみたいだな。そのラロシアストーンとヴィクトリアストーン、少し交換しないか?」



きっと、その二つはそれぞれの土地でしか取れないようなモノなのだろう。


なら――お互いメリットしかない筈だ。



「……どうしようかね。そのヴィクトリアストーンは、かなり加工に根気が居るんだ」


「え……そうなのか」


「年寄りには少し辛いんだねぇ――やる気が起きる様な話は無いかね」



……そう言うロアスさんの表情は、困っている様には見えず、少し悪戯に笑っている気がした。


この人も結構曲者だな。



「……王都で、エリアは頑張ってるぞ?」


「!そうかい。ニシキには世話になったねぇ……エリアは、元気にしているかい?」」



表情が代わり、孫を想う様なモノになる彼女。

やっぱりエリアには弱いらしい。



「ああ、元気過ぎるぐらいだよ。今は王都で師匠を見つけたみたいだ」


「ふふ、そうかいそうかい。ありがとうね、あんたがエリアを守ってくれたおかげさね」


「……ああ」



少し、言葉に詰まる。


……エリアを守ったのは、事実ではある。

でも――俺は、彼女を『悪党』や『モンスター』から、完璧に守れたとは言えないんだ。



「なあ、ロアスさん」


「……んん?何だい?」



もしかしたら、こんな事は言わない方が良いかもしれない。


でも彼女には、しっかりと事実を伝えておきたかった。



「アレから、彼女を……俺は完全に外敵から守りきれた訳じゃない」


「……どういう意味だい?」


「『悪党』には一度彼女を捕えられた。無事にその後辿り着けたが、彼女には怖い思いをさせた」


「!」


「そして……王都で彼女の手伝いをした時も、自分が弱いばかりに彼女がモンスターの前に飛び出して行ってしまった。あの時もきっと、エリアは怖い思いをしたはずだ」


「……そう、だったのかい」



声が小さくなる彼女。


言った後悔はない。ここに来た時点で、それは話しておかないと思ったからだ。

いくらゲームのNPCといえど……孫を想う祖母だ。隠しておきたくはなかった。



「――ニシキ。ありがとうね、エリアを守ってくれて」


「!怒らないのか?」


「ふふ、ふっふ……実は『全部』知ってるさね、エリアと何も連絡を取っていない訳が無いだろう?愛する孫と文通ぐらいするさね」


「……マジか」



何だそりゃ……というかそれならこの話、彼女に話してなかったら相当不味かったんじゃないか?



「ふふっ、あー面白い。エリアは正直な子だからね、包み隠さず話してくれたよ」


「そうか。エリアらしいな……」


「そうさね。まあ、正直に話してくれた礼として――ちょっとだけ大目に交換してあげるさね」


「……あ、ありがとう。というか加工が辛いってのは――」


「――ああ、あれウソさね、ふっふ」


「……」



《報酬額が増加しました!》



流れるアナウンス。

ま、まあ、今回は結果オーライという事で。


……品物の情報も、しっかり調べておくべきだったな。

出発前にソレについてNPCに聞いていれば、もっと交易が有利になったりするかもしれない。





積荷からヴィクトリアストーンを降ろし、大量にあったラロシアストーンを荷車に載せていく。

心なしか最初よりも多く入っている気がするよ。ありがたいな。



「それじゃ、また話を聞かせておくれ」


「ああ!また来るよ」



《ラロシアアイス・辺境に移動しました》



そう声を掛けて――俺は、ロアスさんを後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る