交易クエスト④
現れたPK職との闘いを終えて、俺は先に見えるゴールへと歩いていた。
「……今回の敵は、かなり強かったな……」
正直、あの『波』が見えた時は終わったと思った。
『大海原の畏敬』――そのスキルはかなり危険だ。
「本当に、『武器商人』で助かったよ」
俺が新たに得た、『片手武器』の解放。
今回使った片手剣のスチールソード、小刀のスチールナイフは、前の商人なら装備出来なかったモノだ。
そりゃキッドなんかには到底敵わないけど……スピードという面で小刀の投擲はかなり強い。
片手剣も、魂斧の刀状態に比べたら早さも威力も大きく劣るが『居合』が可能になった。
「これからも、もっと練習しないとな」
まだ小刀スキル、片手剣スキルなんかは現れていないが……そのうち現れてくれるんだろうか。
それなら尚更使っていかないとな。
ただ勿論、片手斧が第一ってのには変わらないけど。
やっぱり商人の武器はといえばコレだからな。使いやすいし。
☆
《ラロシアアイス・辺境に到着しました》
「まあ、『ヴィクトリアストーン』って聞いてたからもしやとは思ったけどさ……」
ラロシアアイスのその場所。言う間でもなくロアスさんの家だ。
思えばかなり久しぶりで、エリアを連れていった振りか。
……でも交易って物品を交換するんだよな?
ラロシアアイスの商人の方が適している気がしなくもない。
まあ、良いか。
とにかく行ってみたら分かるだろう――
《辺境の宝石職人の家に入りますか?》
《辺境の宝石職人の家に移動しました》
「!ニシキじゃないか!久しぶりだねぇ」
「……な、なんだその大量の……もしかしてラロシアストーンか?」
「んん?ああそうさね。安いと思って、ちょっと買いすぎてしまってねぇ」
一応、それ宝石の原石だと思うんだが。
もしかして、ロアスさんってかなりの金持ちなのか……?
でもまあ、交易先がここなのには納得したよ。
「……んん?もしかしてそれはヴィクトリアストーンかい?」
「はは、ああ。めぐり合わせが良いみたいだな。そのラロシアストーンとヴィクトリアストーン、少し交換しないか?」
きっと、その二つはそれぞれの土地でしか取れないようなモノなのだろう。
なら――お互いメリットしかない筈だ。
「……どうしようかね。そのヴィクトリアストーンは、かなり加工に根気が居るんだ」
「え……そうなのか」
「年寄りには少し辛いんだねぇ――やる気が起きる様な話は無いかね」
……そう言うロアスさんの表情は、困っている様には見えず、少し悪戯に笑っている気がした。
この人も結構曲者だな。
「……王都で、エリアは頑張ってるぞ?」
「!そうかい。ニシキには世話になったねぇ……エリアは、元気にしているかい?」」
表情が代わり、孫を想う様なモノになる彼女。
やっぱりエリアには弱いらしい。
「ああ、元気過ぎるぐらいだよ。今は王都で師匠を見つけたみたいだ」
「ふふ、そうかいそうかい。ありがとうね、あんたがエリアを守ってくれたおかげさね」
「……ああ」
少し、言葉に詰まる。
……エリアを守ったのは、事実ではある。
でも――俺は、彼女を『悪党』や『モンスター』から、完璧に守れたとは言えないんだ。
「なあ、ロアスさん」
「……んん?何だい?」
もしかしたら、こんな事は言わない方が良いかもしれない。
でも彼女には、しっかりと事実を伝えておきたかった。
「アレから、彼女を……俺は完全に外敵から守りきれた訳じゃない」
「……どういう意味だい?」
「『悪党』には一度彼女を捕えられた。無事にその後辿り着けたが、彼女には怖い思いをさせた」
「!」
「そして……王都で彼女の手伝いをした時も、自分が弱いばかりに彼女がモンスターの前に飛び出して行ってしまった。あの時もきっと、エリアは怖い思いをしたはずだ」
「……そう、だったのかい」
声が小さくなる彼女。
言った後悔はない。ここに来た時点で、それは話しておかないと思ったからだ。
いくらゲームのNPCといえど……孫を想う祖母だ。隠しておきたくはなかった。
「――ニシキ。ありがとうね、エリアを守ってくれて」
「!怒らないのか?」
「ふふ、ふっふ……実は『全部』知ってるさね、エリアと何も連絡を取っていない訳が無いだろう?愛する孫と文通ぐらいするさね」
「……マジか」
何だそりゃ……というかそれならこの話、彼女に話してなかったら相当不味かったんじゃないか?
「ふふっ、あー面白い。エリアは正直な子だからね、包み隠さず話してくれたよ」
「そうか。エリアらしいな……」
「そうさね。まあ、正直に話してくれた礼として――ちょっとだけ大目に交換してあげるさね」
「……あ、ありがとう。というか加工が辛いってのは――」
「――ああ、あれウソさね、ふっふ」
「……」
《報酬額が増加しました!》
流れるアナウンス。
ま、まあ、今回は結果オーライという事で。
……品物の情報も、しっかり調べておくべきだったな。
出発前にソレについてNPCに聞いていれば、もっと交易が有利になったりするかもしれない。
☆
積荷からヴィクトリアストーンを降ろし、大量にあったラロシアストーンを荷車に載せていく。
心なしか最初よりも多く入っている気がするよ。ありがたいな。
「それじゃ、また話を聞かせておくれ」
「ああ!また来るよ」
《ラロシアアイス・辺境に移動しました》
そう声を掛けて――俺は、ロアスさんを後にした。
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