交易クエスト②



「……何だこれ、交易クエスト……?」


「……初めて見るな」


「……行商、交易……似てる。これ、確実に『商人』専用だろ」


「……しかも一人って……終わった」



ここはRL、『裏』職……PK職のみ入れる場所。


ニシキが交易クエを進めている最中。

そこにある『裏掲示板』で――目を細めながらまた、ある二人が話していた。



「……じゃ、いいや……」


「……俺もいいや……あ、別に逃げた訳じゃねえからな!」


「お前なに言い訳してんの?」



以前の彼らなら真っ先に飛び込んでいったであろう商人専用クエスト。

しかしながら、今はやる気が起きないらしい。



「……はあ」


「――よう!お前ら何そんな浮かない顔してんだよ!」


「!?あ、アニキ! 」


「アニキだ!久しぶりです!」



二人して、現れたガタイの良い大男をそう呼んだ。

海のような青い逆立った髪に背中には片手斧を二つ、年期の入った革の防具。

……ちなみに上半身は裸で、背中には大きなタトゥーが入っている。

しっかり防具を付けてはいるものの、『課金アバター』でこうなっているのだ。



「――で、そんなオッかない奴見るような目で何を――ん?交易クエスト?初めて見るな」


「あ、ああ、それ……商人のクエストだと思うんすけど」


「……へえ、商人か。よし」


「あ、アニキ? 」



《『交易クエスト』にマッチしました。一分後に転送されます》



「ちょっと行って来るわ!」


「え、アニキ申請したんすか!?」


「ハッハッハァ!まあ任せとけ!」



即決で彼はそのボタンを押し、そのクエストに参加する権利を得た。

騒ぐ二人に笑いかけながら――彼は心の中で呟く。



(さて、『あの』商人なら良いんだが)



少し前。掲示板、PK職のあるスレッドにて。

呪術師を含めた五人パーティが、『商人』一人に敗れた――そんなニュースが迷い込んだ。


それはデマか本モノなのか。


陰湿な攻めで有名だった集団初心者狩り。

もし、それを打ち破った商人が、このクエストの主だったなら。




「……ハッハッハァ!倒したら帰って掲示板に記念カキコしてやんぜ!こりゃ『祭り』だ、楽しみに待ってな――――」



古臭いワードを笑いながら吐き、彼は転送されていく。

それを見守る二人。



「……死亡フラ――」


「――お前止めろ!!つーか、アニキなら流石に大丈夫だって」




「あ、ああ。そうだよな。あの『職業』なら――もしかしたら、『あの』商人でも余裕かもしんねえ!」






「――『パワースウィング』」


「ぐあッ!!な、何だ――!?イッテえなあ!!」



そして、今。

PK職の彼の背後から、重い一撃が急所へと入った所だ。



(――おい、マジかよ。全く気付かなかったぞ、隠密持ちか?それにしてもこのオレが気付けないとは……それ以上の――)



その衝撃のまま、彼はその攻撃者から距離を取る。



《武器商人 LEVEL43》



そして――その職業と姿を確認した。


手に握られるのは『黒い斧』。

余裕……というよりかはこちらをじっと観察するような目。


その特徴。

二人が言っていた彼で、『確定』だった。



「――へェ、やっぱりアンタか。会いたかったぜ商人さんよ」


「……どういう意味だ?」


「ハッハッハ!そう怖い顔すんなって!こっちの話だ」


「……そうか」


「そうそう。俺達は――闘う為にここに居るんだからよォ!」



大声で威圧する彼。

だがその商人は――全くと言っていい程に、『PK職』への動揺が無い。


まるで、その者共へ慣れてしまっているかのように。



(これは確かにタダの生産職じゃねえな。『当たり』だ)



彼は、両手の青い斧を振り上げた。

対して商人も、その真っ黒の魂斧を構える。



「奇しくも同じ片手斧だぜ――俺は双斧だけどなァ!『ダブルスラッシュ』!!」


「――っ!」



彼が走り、両手の片手斧を振り下ろす武技を発動。


それを難なく避けて――商人は、その魂斧を振りかぶる。



「――『スラッシュ』!」


「ぐッ!……おらあ!!」



商人の武技。カウンターに放ったそれは、当然の様に命中。


だが、彼も負けては居ない。

怯むことなく双斧で攻撃を仕掛ける、が――



「っ――」


「――!?う、うおお――!!」



彼の大きな身体。

それが迫る恐怖を物とも知らず、商人はその足を足で払った。


武技ではない攻撃、自然と勢いを強めたそれのせいか――PK職の彼は、そのまま地面に倒れ込むよう姿勢を崩してしまう。



「……『パワースウィング』――」



(――ハハ、こりゃあ確かに強い訳だわ!)



体勢が崩れ、背後から迫る重い一撃にも対応出来ない。



(でもな――やられっぱなしは気に食わねえんだよォ!!)



「――『咆哮シャウト』!!!」


「っ――!?」



倒れる、そう思いきや踏みとどまる彼。

そして間一髪――武技が到達する前に、そのスキルを発動した。



スキルの名は『咆哮』。

至近距離限定ではあるものの、成功すると対象に1秒間状態異常……『恐怖』を与える。

再使用の間隔も短く、タイマン一対一なら『出し得』なスキルだろう。


『恐怖』とは、陥ると強制的に動作が停止し、何も出来なくなる厄介なモノだ。

攻撃が当たると解除される為、止まっている相手に連続で……という事は出来ない。



「!?身体が――っ」


「――っとオ!!あぶねーあぶね――は!?」



そのまま停止する彼から逃げ、距離を取ろうとするPK職……だが、商人にはあるスキルがあった。


それは『瞑想』。精神系の状態異常である『恐怖』は、二分の一にまで効果時間が短縮されており――



「『スラッシュ』!」


「ぐあッ!?クソッ――」



現れた動揺による隙を見逃さず、その武技は首に到達。

それを食らい、仰け反りながらなんとか距離を取る彼。



(コイツ、状態異常耐性のスキルももってやがんのか!?)



「……厄介だな、そのスキル」


「ハッハァ!テメエこそな!」



商人はまだ一度も攻撃を食らっていない。

対して、早くもPK職側のHPは半分。


しかしながら――彼の眼は、ギラギラと輝いていた。


まるで、『これからが本番』という様に。



(……まあ良いぜ、色々と予想外だが――勝てない相手じゃねえ!)


(精々頑張れよ、商人……『アレ』さえ発動できりゃ、後はテメエの命と金を頂くだけだ)




彼の職業。

水属性魔法取得+『暗黒兵士』が前提条件という、特殊な『暗黒兵士』の上位職で。


その名は――『海賊』。



「――遊びは終わりだぜ、商人さんよォ!」



左手の片手斧を『片手杖』に変えて、彼は商人へ叫んだのだった。

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