昇進、そして


《上位職への転職を確認しました》


《取得称号『復讐者』・『断罪者』・『返り血に染まる者』を確認しました》


《これより???へ移動します》



「……は?」



瞬間、俺を覆う暗闇。


それに抗う間もなく――己の体は、別の場所に転移していく。


やがて――



《???》



そこは、暗い地下室の様な場所。


上品な、落ち着いた内装。

だが――その雰囲気は、商人ギルドとは『別物』だった。


壁には人相が悪い何者かの顔の絵へ、『値段』が書かれており。

そして彼方此方あちらこちらに多種多様な武器が立てかけられていた。



《??? LEVEL――》



「……やあどうも。突然呼び出して驚かせたかな」


「あ、ああ。ここはどういう……」



そして、目の前に居る一人の人物。

黒と赤が混じる、血の色のようなフードを被るNPC。


名前も分からない。

が――何となく只者じゃない雰囲気が漂っていた。

この感じは、どことなく『レッド』を思い出す。



「困惑させてすまない。君は、これまでに多くの『悪しき者』を倒してきたようで」


「……それは、そうかもしれないけど……」



静かに、だが力強い声。

悪しき者共ってのは……PK職の事だろうか。



「早速だが、提案をしよう」


「え?」


「――その者共を、更に狩れる『大きな力』が欲しくないか?」



目の前の男は――俺へと言い放つ。


意味が良く分からなかった。

スキルでもくれるのだろうか?それともステータス?



「それは――どういう意味だ?」


「簡潔に言えば、君は悪党を懲らしめるのに特化した職業へ変われる『権利』がある。それを使わないかという提案だ」


「……何だと?」



例えば……PK職は元からPK職というケース以外にも、通常の職業からある条件を満たせば別枠の『PK職』へと転職できるというのがある。


この男が言うのは――それと殆ど同じ事。



「君は、あまり戦闘が得意な職業ではない。それでは、これから強くなる悪共に苦戦してしまう」


「彼らも君同様上位の職業へ転職しているからね」


「私達の仲間になれば、君はもっと彼らへ対応出来る力を得られるんだ」



続けて言うその男。



「――私達は、悪共を狩る『正義の職業』だ……どうだい?」



彼の言葉は、とても魅力的だ。

生産職である商人から、PK職へと並ぶ程の力を得る職業へ変われるというもの。



言うなれば――PK職を狩る、『PKK職』への転職。


……でも。



「――それは、『商人じゃなくなる』という事か?」


「……はっはっは。そりゃ勿論。申し訳ないが君の職業に職業スキルも跡形も無く消える。でもその代わりに――」



続ける男。

それならもう、良いだろう。



「――なら、変わらない。この話は無しだ」


「……何?」



遮って、俺は言い放つ。

迷いは全くない。この商人という職業でなくなるのなら、それは無価値なモノだ。



「良いのかい?君の職業では、これから迫りくる者には――」


「――かまわない。話はありがたいが、俺は『そっち側』に行く気はない」


「そうか……非常に残念だ。しかしやはり、きっとこの力を得た方が良いと思う。考え直さないか」



落胆の声。

そして更に誘う声。


……もしその男の声が――シルバーに会う前の俺へ掛かっていたならば、迷わず『そっち側』へ行っていたかもしれない。



でも。



《――『……いいや、居ないね。君が初の転職者だよ』――》



商人ギルドのNPCの言葉が。



《――「なあシルバー、商人って職業楽しいか?」――》


《――「!はい!最高です!」――》



蘇る彼女の言葉が。



《――「――『商人』は……俺達は強くなった」――》


《――「ずっとそれを、その身で覚えておいてくれ」――》


《――「次も、その次もこの先ずっと同じ様に――俺はお前らを、何回でも倒してやる」――》

 


自身が投げかけた、PK職への言葉も。

頭の中に響く過去の光景。



「……本当に魅力的な選択とは思う。でも――この職業で、これからもその者共を倒していくよ」


「それが、自分に続く者達にも。俺自身の為にもなると思ってるから」



固まった決意は揺るがない。

真っ直ぐ、男へ言い放つ。




「俺は――この商人という職業に、少しでも『筋』を通したいんだ」




……シルバーに会うずっと前。

『ある商人』のフレンドの声。



《――「なあニシキ、俺達ってどうなるんだろうな」――》



RLを辞める前に、聞いたセリフ。


でも今……フレンドリストにはそんな彼も復帰して、凄まじい勢いで這い上がって来ている。


だから。

例え、これが『自由』が売りのゲームでも。

自分はまだ商人で居たいし、商人で居なきゃいけない気がするんだ。




「――!そうか……そこまで言うならもう良いよ」



ようやく諦めてくれたようで助かった。

折角武器商人に転職したんだ、それを試してもいないままにまた転職ってのも普通に嫌だしな。



「……だが、言った様に君は『権利』を十分――いや十二分に持っている」


「え?」


「この職業は、形式的なものは必要ない。君が望めば――いつでも変われる事を覚えておいてくれ」


「……どういう意味だ」


「それは――」



《説明:特殊職業への転職》


《特殊職業への権利を持つ貴方は、メニュー、職業詳細メニューから、『特殊職業へ』を選ぶ事で転職できます》


《しかしながら、その選択を行った場合元の職業へは戻れません》



「なんだそりゃ……」


「ハハ、そういうコトだ――我らはいつでも君を待ってるよ。それではね」



《???から王都ヴィクトリアへ移動します》


《王都ヴィクトリア・非戦闘フィールドへ移動しました》


《称号:初志貫徹を取得しました》


《『初志貫徹』を取得した事によりボーナスステータスが与えられます》






「……色々ありすぎた、さっきから……」




ようやく戻ってきた、綺麗な王都の空を眺めながら呟く。



「……商人、か。何でもない子供の夢だったんだけどな――」



その職業の提案を蹴った事への後悔。

それを全く感じなかった自分が……少し意外だった。


『兄へ追い付く』。その目標には、確実に『PKK職』へ転職した方が早いだろう。

もしかしたらそうでもしないと永遠に無理だったりするかもしれない。


でもそれ以上に、この職業である事の方が大事な自分が居たんだ。



「……ありがとな、シルバー。それにフレンド達も」



あの時彼女が居たから、俺は今此処に立っている。


そして。

フレンドリストの商人達が己へ続いているからこそ、その決断はより頑固なモノになった。



「さて――試してない片手武器を試してみるか!」



そう口にして、俺は王都の戦闘フィールドに向かっていった。

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