エリアの願い⑤


「――で、なにこの可愛い生き物!名前教えてくれるかしら!」


「……え、エリアでございます……」


「ふふ、エリア、エリアね――あ、NPCリストに登録されたわ! ホント可愛いわね~よしよし」


「くすぐったいですぅ…… 」



《上級鑑定士 クマー LEVEL41》

《エリア LEVEL――》



目の前。


場所を移して、ベアーの工房である《熊さん工房》だ。久しぶりだな、魂斧以来だ。


クマーはエリアを見るなり、飛びつくように彼女の 髪をわしゃわしゃと撫でている。


……多忙な彼女の事だ。かなり待つことになると思っていたが、メッセージを飛ばしたら五秒後にOKのサインが出た。

たまたま暇だったのだろうか?だとしたらラッキーだったな。


というか彼女の職業変わってるよなこれ。

聞かずとも分かる、クマーはもう昇進クエストを終わらせたらしい。



「に、ニシキさまぁ……」


「はは、えらく可愛くされたな」



見れば――ただのロングヘアーだったエリアの髪が、ツインテールになっている。

手先器用なんだな、クマー。



「それで。私に何用?」


「き、切り替え早……えっと、これを鑑定して欲しいんだ?でき――」


「――!何これ、特殊クエスト!?」


「え」


「失礼、その指輪を見た瞬間にアナウンスとクエストが発生したの。びっくりしたわ……」


「とりあえず渡して良いのか?」


「ええ。お願いしていいかしら」



《幻竜の指輪をクマーに譲渡しました》



それを渡すと、彼女は工房とは別の作業机?に座り指輪を置く。

そして何処に仕舞っていたのか、ルーペ?にトンカチにライトの様なモノを出していく。


彼女の眼鏡が――また鋭く光った気がした。




「ふふん――これは、かなりの大物になりそうだわ……!」




そして。

十分程待った後、クマーからそれを渡された。



【幻竜の指輪】


宝石職人見習い、エリアが作製した指輪。

正真正銘ミニファントムドラゴンの素材が加工され、見事な指輪となった。

素材の価値は勿論だが、製作者の腕も大いに評価されるべきだろう。


製作者:エリア(NPC) クマー




「……べた褒めじゃないか」


「ふふ、ホントね」



二人して笑ってしまう。

ここまで分かりやすく説明してくれるなら、もう大丈夫だろう。



「はいエリア。コレも一緒に持っていきなさい」


「……?この紙は何ですか?」


「鑑定書と保証書が一緒になったようなモノ……って、子供には分からないかしら」


「……うう、認めたくないですがまったくわかりませぇん……」


「ふふ。本当可愛いわね~よしよし、まあそれを貴方の師匠?に持っていけば嫌でも分かるわよ」



エリアの頭を撫でながら話すクマー。

いやあ、彼女がフレンドで助かったな。



「それじゃ、ありがとなクマー」


「お安い御用よ、早く連れて行ってあげて……あ。それと――『貸し一つ』ね」


「……あ、ああ。覚えておく」


「ふふ、ベアーがしばらく居ないからちょっと頼みたい事があるの。また連絡するわ」



小指を立てて『1』のジェスチャー。そのまま定位置?のソファーに戻る彼女。


ちゃっかりしてるな、本当に。





クマーの工房を出ると、もう専用フィールドに戻っていた。

そのまま先程の宝石職人の師匠?の元へと引き返す。



「い……いってきます!」


「はは、ああ」



緊張しているのだろう、たどたどしく歩いていくエリアを見ながら俺は思い返す。


宝石職人エリアの依頼。そして鑑定士クマーを通じてその指輪の価値を証明できた。

あの商人NPCの言う通り、生産職と生産職を繋げた……そう言えるのだろうか?



《――「私達は常に他の生産職を助け、また助けられている」――》



その言葉は、このクエストの事だけを指しているのか。

それともこれから先、商人はそんな役割を担う事になるのか。


分からないが……後者であれば、俺達の居場所は増える事だろう。


必要とされない商人という職業が、少しでも明るみに出られるのなら――




「――ニシキさまああああ!!『合格』しましたあああぁーー!!」





扉が開いたと思えば――これまでにない程に嬉しそうな彼女の表情。




「おめでとう、エリア」




……少なくとも今は、自分が一人の少女の役に立てた事を喜んでおこう。





《特殊昇進クエスト『エリアの願い』を達成しました!》


《報酬として2000000Gを取得しました!》


《称号:エリアの恩人を取得しました!》


《昇進クエスト達成により、新たな職業に転職出来ます!商人ギルドに向かってみましょう》









「そういえば、ベアーが居ないのって?」


「ああ――彼の経営してるパン屋さんが『バズった』らしいの。大量のパンを作るだけならまだしも、取材やテレビの準備のせいでゲーム所じゃないって」


「それはそれは、おめでたい事だな……」

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