エリアの願い⑤
「――で、なにこの可愛い生き物!名前教えてくれるかしら!」
「……え、エリアでございます……」
「ふふ、エリア、エリアね――あ、NPCリストに登録されたわ! ホント可愛いわね~よしよし」
「くすぐったいですぅ…… 」
《上級鑑定士 クマー LEVEL41》
《エリア LEVEL――》
目の前。
場所を移して、ベアーの工房である《熊さん工房》だ。久しぶりだな、魂斧以来だ。
クマーはエリアを見るなり、飛びつくように彼女の 髪をわしゃわしゃと撫でている。
……多忙な彼女の事だ。かなり待つことになると思っていたが、メッセージを飛ばしたら五秒後にOKのサインが出た。
たまたま暇だったのだろうか?だとしたらラッキーだったな。
というか彼女の職業変わってるよなこれ。
聞かずとも分かる、クマーはもう昇進クエストを終わらせたらしい。
「に、ニシキさまぁ……」
「はは、えらく可愛くされたな」
見れば――ただのロングヘアーだったエリアの髪が、ツインテールになっている。
手先器用なんだな、クマー。
「それで。私に何用?」
「き、切り替え早……えっと、これを鑑定して欲しいんだ?でき――」
「――!何これ、特殊クエスト!?」
「え」
「失礼、その指輪を見た瞬間にアナウンスとクエストが発生したの。びっくりしたわ……」
「とりあえず渡して良いのか?」
「ええ。お願いしていいかしら」
《幻竜の指輪をクマーに譲渡しました》
それを渡すと、彼女は工房とは別の作業机?に座り指輪を置く。
そして何処に仕舞っていたのか、ルーペ?にトンカチにライトの様なモノを出していく。
彼女の眼鏡が――また鋭く光った気がした。
「ふふん――これは、かなりの大物になりそうだわ……!」
☆
そして。
十分程待った後、クマーからそれを渡された。
□
【幻竜の指輪】
宝石職人見習い、エリアが作製した指輪。
正真正銘ミニファントムドラゴンの素材が加工され、見事な指輪となった。
素材の価値は勿論だが、製作者の腕も大いに評価されるべきだろう。
製作者:エリア(NPC) クマー
□
「……べた褒めじゃないか」
「ふふ、ホントね」
二人して笑ってしまう。
ここまで分かりやすく説明してくれるなら、もう大丈夫だろう。
「はいエリア。コレも一緒に持っていきなさい」
「……?この紙は何ですか?」
「鑑定書と保証書が一緒になったようなモノ……って、子供には分からないかしら」
「……うう、認めたくないですがまったくわかりませぇん……」
「ふふ。本当可愛いわね~よしよし、まあそれを貴方の師匠?に持っていけば嫌でも分かるわよ」
エリアの頭を撫でながら話すクマー。
いやあ、彼女がフレンドで助かったな。
「それじゃ、ありがとなクマー」
「お安い御用よ、早く連れて行ってあげて……あ。それと――『貸し一つ』ね」
「……あ、ああ。覚えておく」
「ふふ、ベアーがしばらく居ないからちょっと頼みたい事があるの。また連絡するわ」
小指を立てて『1』のジェスチャー。そのまま定位置?のソファーに戻る彼女。
ちゃっかりしてるな、本当に。
☆
クマーの工房を出ると、もう専用フィールドに戻っていた。
そのまま先程の宝石職人の師匠?の元へと引き返す。
「い……いってきます!」
「はは、ああ」
緊張しているのだろう、たどたどしく歩いていくエリアを見ながら俺は思い返す。
宝石職人エリアの依頼。そして鑑定士クマーを通じてその指輪の価値を証明できた。
あの商人NPCの言う通り、生産職と生産職を繋げた……そう言えるのだろうか?
《――「私達は常に他の生産職を助け、また助けられている」――》
その言葉は、このクエストの事だけを指しているのか。
それともこれから先、商人はそんな役割を担う事になるのか。
分からないが……後者であれば、俺達の居場所は増える事だろう。
必要とされない商人という職業が、少しでも明るみに出られるのなら――
「――ニシキさまああああ!!『合格』しましたあああぁーー!!」
扉が開いたと思えば――これまでにない程に嬉しそうな彼女の表情。
「おめでとう、エリア」
……少なくとも今は、自分が一人の少女の役に立てた事を喜んでおこう。
《特殊昇進クエスト『エリアの願い』を達成しました!》
《報酬として2000000Gを取得しました!》
《称号:エリアの恩人を取得しました!》
《昇進クエスト達成により、新たな職業に転職出来ます!商人ギルドに向かってみましょう》
☆
「そういえば、ベアーが居ないのって?」
「ああ――彼の経営してるパン屋さんが『バズった』らしいの。大量のパンを作るだけならまだしも、取材やテレビの準備のせいでゲーム所じゃないって」
「それはそれは、おめでたい事だな……」
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