瞑想スキル


《瞑想VRを終了します》


《お疲れ様でした》


《ご意見、ご感想はホームページまでお寄せ下さい》



「……嘘だろ」



机の時計を見て血の気が引く。

時刻は――朝の五時だった。


始めたのは、確か日を跨ぐ前だったよな……?



「瞑想VR、恐ろしいな――」



あんな空間だったから、時間の感覚すら消し飛んでいたんだろう。


……けど、不思議と疲れも無いんだよな。



「この年で徹夜か……」



静かな早朝の空。

窓に映るそれを見ながら、俺は途方に暮れるのだった。





《GAME START》


《ニシキさん、RLの世界へようこそ!》



「……新鮮だな、この時間にやるのは」



で、結局朝からRLだ。

我ながらどっぷりハマっているのを実感。


さて――早速、修行?の成果を試してみよう。





「…………」



《瞑想スキルを習得しました》



「……マジか」



流石に恥ずかしいから、誰も居ない戦闘フィールドで居合の構えを取る。

気付けば呼吸は整って、瞑想VRでの終盤の感覚になっていた。

そして鳴るアナウンス。


風の音やどこからか来る雑音のおかげもあるが……恐らく、『RL』の恩恵だろう。

やはり色々と補助をしてくれるらしい。

まさか瞑想の補助まで行ってくれるとは思わなかったが。



≪スキル説明:瞑想≫


使用後、一定時間DEX・MND上昇効果。

及び精神系の状態異常耐性を得る。




「欲しいのは隠密なんだが……まあいいか」



何気にMPの消費も無し。

一定時間やら精神系やら、かなりボカしてあるが……まあ、使っていけば分かるだろう。



「『瞑想』」


《瞑想状態となりました》



「はは、こりゃ良いな」



ゲームならではだろう。一瞬で瞑想状態となれるのだ。


……何となく、精神の揺らぎも少なくなった気がする?





『……ギャギャ……』


『ギャギャ?ギャギャ……』


「……」



見よう見まねで、ゴブリンにこっそりと近付いて行く。


出来るだけ体勢を落として、殺気を消して――



『――ギャギャ!?』


「っ――『スラッシュ』」


『ギャ――』



攻撃する直前にバレたものの、もう遅い。

ゴブリンの背後から首元へ武技を入れれば――パワースウィング並みに体力が減った。



『――『パワースウィング』』



《経験値を取得しました》


《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》


《片手斧スキルのレベルが上がりました》



「……よし」



このまま続けていれば、隠密に関したスキルが手に入るかな。




《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》



「……んん?」




あれから続ける事一時間ほど。


中々、そのアナウンスは聞こえてくれない。

このゲームは、ある程度職業によって取得しやすいスキルが分かれている。


俺は商人だから――『隠密』系のスキルを取るには中々苦行なのかもしれない。十六夜の様な暗殺者とかなら取りやすいんだろうけどさ。


というか……このまま続けていても、意味すらない気がしてきた。


ただ、もう少しのナニカで手が届きそうなんだ。



「この手は、出来るだけ避けたかったんだけどな」



それは――俺が辛いとかそういうのではない。


でも、背に腹は代えられないんだ。

あのクエストをクリアする為に、隠密行動をより出来る様になる為に。


『協力者』の、彼女へ向けて。



《十六夜様にメールを送信しました》



俺は――その文面を送信したのだった。

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