瞑想スキル
《瞑想VRを終了します》
《お疲れ様でした》
《ご意見、ご感想はホームページまでお寄せ下さい》
「……嘘だろ」
机の時計を見て血の気が引く。
時刻は――朝の五時だった。
始めたのは、確か日を跨ぐ前だったよな……?
「瞑想VR、恐ろしいな――」
あんな空間だったから、時間の感覚すら消し飛んでいたんだろう。
……けど、不思議と疲れも無いんだよな。
「この年で徹夜か……」
静かな早朝の空。
窓に映るそれを見ながら、俺は途方に暮れるのだった。
☆
《GAME START》
《ニシキさん、RLの世界へようこそ!》
「……新鮮だな、この時間にやるのは」
で、結局朝からRLだ。
我ながらどっぷりハマっているのを実感。
さて――早速、修行?の成果を試してみよう。
☆
「…………」
《瞑想スキルを習得しました》
「……マジか」
流石に恥ずかしいから、誰も居ない戦闘フィールドで居合の構えを取る。
気付けば呼吸は整って、瞑想VRでの終盤の感覚になっていた。
そして鳴るアナウンス。
風の音やどこからか来る雑音のおかげもあるが……恐らく、『RL』の恩恵だろう。
やはり色々と補助をしてくれるらしい。
まさか瞑想の補助まで行ってくれるとは思わなかったが。
□
≪スキル説明:瞑想≫
使用後、一定時間DEX・MND上昇効果。
及び精神系の状態異常耐性を得る。
□
「欲しいのは隠密なんだが……まあいいか」
何気にMPの消費も無し。
一定時間やら精神系やら、かなりボカしてあるが……まあ、使っていけば分かるだろう。
「『瞑想』」
《瞑想状態となりました》
「はは、こりゃ良いな」
ゲームならではだろう。一瞬で瞑想状態となれるのだ。
……何となく、精神の揺らぎも少なくなった気がする?
☆
『……ギャギャ……』
『ギャギャ?ギャギャ……』
「……」
見よう見まねで、ゴブリンにこっそりと近付いて行く。
出来るだけ体勢を落として、殺気を消して――
『――ギャギャ!?』
「っ――『スラッシュ』」
『ギャ――』
攻撃する直前にバレたものの、もう遅い。
ゴブリンの背後から首元へ武技を入れれば――パワースウィング並みに体力が減った。
『――『パワースウィング』』
《経験値を取得しました》
《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》
《片手斧スキルのレベルが上がりました》
「……よし」
このまま続けていれば、隠密に関したスキルが手に入るかな。
☆
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
「……んん?」
あれから続ける事一時間ほど。
中々、そのアナウンスは聞こえてくれない。
このゲームは、ある程度職業によって取得しやすいスキルが分かれている。
俺は商人だから――『隠密』系のスキルを取るには中々苦行なのかもしれない。十六夜の様な暗殺者とかなら取りやすいんだろうけどさ。
というか……このまま続けていても、意味すらない気がしてきた。
ただ、もう少しのナニカで手が届きそうなんだ。
「この手は、出来るだけ避けたかったんだけどな」
それは――俺が辛いとかそういうのではない。
でも、背に腹は代えられないんだ。
あのクエストをクリアする為に、隠密行動をより出来る様になる為に。
『協力者』の、彼女へ向けて。
《十六夜様にメールを送信しました》
俺は――その文面を送信したのだった。
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