敗北、そして


《貴方は死亡しました》


《デスペナルティとして十分間ステータスが低下します》


《特殊クエスト:『餓鬼王からの挑戦状』に失敗しました》


《通常フィールドに戻ります》



暗き森林、ゴブリンに囲まれる中……やがてそのアナウンスは流れていく。

そしてまた――俺の中に、一つの確信が現れた。



『このクエストを超える事が出来れば、俺はきっと強くなれる』と。





「あーあ、ボロ負けだな……」



王都ヴィクトリア、戦闘フィールド。

失敗後投げ出されたそこは――『さっき』までと比べれば天国だった。



『ギャッギャ!』


「……『スラッシュ』」


『ギャ――!?』



襲い掛かってきたゴブリンを軽く往なす。

……一匹、それも通常ゴブリンなら何ともないんだけどな。



「『パワースウィング』」


「ギャ……」



《経験値を取得しました》



「……」



魂斧を握り込む。


俺は――あの第五ウェーブで、何も出来なかった。


ゴブリンシャーマン二体に、遠距離攻撃を行うゴブリンアーチャー。

その二人への道を阻む前衛ゴブリン達。



「……集中力も、咄嗟の判断力も、それに……」



空へ顔をやって。

足りないモノを呟いていく。



「――『隠密』、か」



シャーマンへ不意の一撃を入れる為。

スキルの『環境利用』から、木影に隠れての隠密だったがダメだった。


結局それは隠密の『つもり』だ。見破られてしまえばただの窮地になってしまう。

これまでの人生で、そんなモノになんて触れて来た事がない。


それは当たり前なんだろうが――『十六夜』や『キッド』、それに兄さんも。

戦闘に関して、殺気や存在を消すという事は多いに役立つんだろう。



「……どうするかな」



今、俺に必要なモノ。

『餓鬼王からの挑戦状』を、クリアする為にそれは不可欠だ。


……兄さんとの一戦から、『殺気を消す』というのはいつか本格的に習得しなきゃいけないとは思っていた。



そして――その問題を解決する方法は、もうあるんだ。



「――行くか」



その、もう一つの『地獄』へと進む。

覚悟を決めて――俺は、『ログアウト』を押した。





例えば、『釣り』。


意気込んで竿を垂らしている時に来ないで、疲れて茫然としている時に食いつかれる。

魚という生き物も、ルアーに『違和感』を感じていれば引っ掛からないというもの。


気配とは、身体の力み。

自身に緊張やぎこちなさ、呼吸の乱れ等があれば、容赦なく周りの生物は『気配』を感じる。

身体精神共にリラックスして、邪念を消し目を瞑れば――それは消えるんだ。




――なんて事を昔に、兄さんが言っていたのを覚えている。

はは、アレは確か……俺が小学生の時に、庭の虫を捕まえられないのを見た彼が言ったんだっけ。


遠い記憶だから、あんまり詳しくは覚えては居ないが。



「……武道、全くやってこなかったからな……」



今思えば逃げずにそれをやっていたら今、隠密というスキルは持っていたかもしれない。


だが――過去を悔いても駄目だ。

現在で俺が出来る最善策を考えなくては。



「……はー、ふう……よし」



抱えるのはVRギア。

深呼吸を何度も行って、俺はそれを被った。



《瞑想VRを起動します》

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