敗北、そして
《貴方は死亡しました》
《デスペナルティとして十分間ステータスが低下します》
《特殊クエスト:『餓鬼王からの挑戦状』に失敗しました》
《通常フィールドに戻ります》
暗き森林、ゴブリンに囲まれる中……やがてそのアナウンスは流れていく。
そしてまた――俺の中に、一つの確信が現れた。
『このクエストを超える事が出来れば、俺はきっと強くなれる』と。
☆
「あーあ、ボロ負けだな……」
王都ヴィクトリア、戦闘フィールド。
失敗後投げ出されたそこは――『さっき』までと比べれば天国だった。
『ギャッギャ!』
「……『スラッシュ』」
『ギャ――!?』
襲い掛かってきたゴブリンを軽く往なす。
……一匹、それも通常ゴブリンなら何ともないんだけどな。
「『パワースウィング』」
「ギャ……」
《経験値を取得しました》
「……」
魂斧を握り込む。
俺は――あの第五ウェーブで、何も出来なかった。
ゴブリンシャーマン二体に、遠距離攻撃を行うゴブリンアーチャー。
その二人への道を阻む前衛ゴブリン達。
「……集中力も、咄嗟の判断力も、それに……」
空へ顔をやって。
足りないモノを呟いていく。
「――『隠密』、か」
シャーマンへ不意の一撃を入れる為。
スキルの『環境利用』から、木影に隠れての隠密だったがダメだった。
結局それは隠密の『つもり』だ。見破られてしまえばただの窮地になってしまう。
これまでの人生で、そんなモノになんて触れて来た事がない。
それは当たり前なんだろうが――『十六夜』や『キッド』、それに兄さんも。
戦闘に関して、殺気や存在を消すという事は多いに役立つんだろう。
「……どうするかな」
今、俺に必要なモノ。
『餓鬼王からの挑戦状』を、クリアする為にそれは不可欠だ。
……兄さんとの一戦から、『殺気を消す』というのはいつか本格的に習得しなきゃいけないとは思っていた。
そして――その問題を解決する方法は、もうあるんだ。
「――行くか」
その、もう一つの『地獄』へと進む。
覚悟を決めて――俺は、『ログアウト』を押した。
☆
例えば、『釣り』。
意気込んで竿を垂らしている時に来ないで、疲れて茫然としている時に食いつかれる。
魚という生き物も、ルアーに『違和感』を感じていれば引っ掛からないというもの。
気配とは、身体の力み。
自身に緊張やぎこちなさ、呼吸の乱れ等があれば、容赦なく周りの生物は『気配』を感じる。
身体精神共にリラックスして、邪念を消し目を瞑れば――それは消えるんだ。
――なんて事を昔に、兄さんが言っていたのを覚えている。
はは、アレは確か……俺が小学生の時に、庭の虫を捕まえられないのを見た彼が言ったんだっけ。
遠い記憶だから、あんまり詳しくは覚えては居ないが。
「……武道、全くやってこなかったからな……」
今思えば逃げずにそれをやっていたら今、隠密というスキルは持っていたかもしれない。
だが――過去を悔いても駄目だ。
現在で俺が出来る最善策を考えなくては。
「……はー、ふう……よし」
抱えるのはVRギア。
深呼吸を何度も行って、俺はそれを被った。
《瞑想VRを起動します》
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