ウェーブ5


《第2ウェーブを開始します》


《制限時間が追加されます》


《制限時間は十分です》



「滅茶苦茶居る……」



《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》



見えるそのゴブリン達。


汚らしい声は重なり、もはや合唱だ。

でも――身体は温まってきた。



「……そうこなくっちゃな」



俺は、魂斧を構える。

ゴブリンの軍団達に向けて。




《第2ウェーブをクリア》


《三十秒後、次のウェーブに入ります》


《失ったHPとMPを回復します》



「……ふう」



息をつく。

それは、言ってしまえば数だけだった。


同時に襲い掛かる数は変わらず、対処する時間が増えただけ。

それでも十分あれば余裕だ。



《第3ウェーブを開始します》


《制限時間は十分です》



《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》


《ゴブリンシャーマン LEVEL35》



「ん?」



よく見なくても分かった――明らかに違う奴が居る。

緑色に木の杖を持つソイツは、ゴブリンの陰に隠れる様にこちらへ近付いていた。



「……アイツらにそっくりだな」



嘆く。

前の『五人』との戦闘を思い出しながら、俺は魂斧を手に取った。





ゴブリンシャーマン。

それは――厄介な事に『回復役』だった。


ゴブリン一体を対象に大体五秒に一回、回復を行っている。


回復量はゴブリンの体力を半分。

だから……まだ何とかなる。

回復されても、それ以上削ればいいのだから。



『ギャッギャッ――』


「――っ、『パワースウィング』!」



《第3ウェーブをクリア》


《三十秒後、次のウェーブに入ります》


《失ったHPとMPを回復します》



「ふー……」



でも。

もう――余裕は消えた。


回復役の存在のせいで、威力の高いパワースウィングを多用しなきゃならないんだ。

ミスれば大きな隙になるから精神的にキツい。


投擲の余裕は……無い。試してみたが、ゴブリン達は明らかにシャーマンを守っているのだ。

どちらかと言えばシャーマンが守られる様立ち回っている、が正しいか。


魂斧で、シャーマンの回復量を上回るダメージを与える戦法の方が現実的だった。

『武器頼り』……正直嫌な戦い方だが仕方ない。



《第4ウェーブを開始します》


《制限時間は十分です》



《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》


《ゴブリンソルジャー LEVEL35》

《ゴブリンシャーマン LEVEL35》



「今度は何だ?」



シャーマンに続き、紛れるのは普通のゴブリンの体格の2倍程の大きさのソイツ。


武器も……石斧ではなく剣?か。



「見るからに堅そうだな――」



――どうする?


もう、真正面から立ち向かうのはダメだ。

多人数戦法も、投擲の暇が無い以上意味がない。


なら――



「……『環境利用』、使えって言ってるもんだよな」



遠くから向かって来る奴らはまだ俺に気付いていない。

もう、正々堂々戦うのはここまでだ。





「……」



息を殺しながら、ジャングルの木の影に潜む。


ゲームといえど――鼓動が高まっているのが分かった。



「……っ」



広大なジャングルの中、一人。

迫るのは大量のゴブリン。


息を殺せ。

奴らには絶対に見つかってはならない。


何としても、シャーマンを瞬殺しなければ。



『ギャッギャッギャッギャ?』


『ギャギャギャ……?』


『ガガ』



「……」



何とか見つかれずに居れているようだ。

奴らは俺の放った斧を不思議そうに弄り、周囲を見渡して――



『……ガガ』


『!ギャッギャッ!!』


『ギャギャギャギャ!!』


『ギャギャギャ!!』



ゴブリンシャーマンが何か鳴くと共に、突然騒ぎ出すゴブリン。


……こっちに向かってきていないか?



『ギャギャギャ!!』


「――ぐっ!?らあ!」



まるで鉄砲玉かのように、木影から飛び出してくるゴブリン一体。


嘘だろ――バレた。

応戦するしかなく、斧を振るえば――



《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリンソルジャー LEVEL35》

《ゴブリンシャーマン LEVEL35》



『「『ギャギャギャギャ!!』」』


『ガガガ!!』



「――っ!クソーー」



目前、吹っ飛ぶゴブリン一体と――その他五体。


今は周囲に刺した斧も無い。

完全に包囲された。



「『スラッシュ』――ぐっ、らあ!」


『ガガ』



まるで盾役かのように、俺の前に現れるゴブリンソルジャー。


俺の武技を食らったものの……減るHPは普通のゴブリンより半分程少ない。

そして、もっと厄介なのが、『仰け反らない』のだ。


ゲーム的に言えばスーパーアーマー。

こちらが攻撃を当てても――微動だにせずそのまま反撃してくる。



「――!?」


『「『ギャギャギャギャ!!』」』



体力が減っていく――なのに、コイツらはダメージを受けても回復していく。

周囲全体、ゴブリンが覆っている今。



「――『スラッシュ』!くっ――がっ!!」


『ギャッギャ』



一体に反撃すれば一体がこちらを襲ってくる。

それを何とか対処してももう一体が――


何とかHPを犠牲にしても、憎たらしいシャーマンによる回復も待っている。



《経験値を取得しました》



このままじゃ終わる。

何としても――アイツを倒さなければ!



「『高速戦闘』――っ!!」



スキル発動、前に居るゴブリンソルジャーを躱しシャーマンへと走る。

あの時の切り札を、インベントリから取り出しながら――



『『ギャギャギャギャ!!』』



「っ、クソ――らあ!」



足元に絡みついてくるゴブリン二体を何とか手で振り解いて、その回復役の元に。



「『黄金の一撃』!!」



走って、跳んで――振り下ろす一撃。



『グッギャァア!?』


《50000Gを消費しました》



魂斧の威力増加効果、そして黄金の一撃。

それを食らったシャーマンは半分以上のHPを失い吹き飛んだ。


そして、俺は背後に迫る者達へ――



「――痺れろ!!」


『「『グギャ!?』」』



麻痺毒瓶を取り出し、後ろを振り返ると同時にそれをゴブリン三体にばら撒く。

ソルジャーは……足が遅いのかまだ追いついていない。



「っと――『スラッシュ』」



《経験値を取得しました》



痺れているゴブリン達を尻目に、俺はシャーマンを撃破。


……後は、油断さえしなければクリア出来るな。





《第4ウェーブをクリア》


《三十秒後、次のウェーブに入ります》


《失ったHPとMPを回復します》



「……はっ、はあ……」



暗いジャングルの中、そのアナウンスだけが俺の頼りだ。

大分身体が温まってきたが――それ以上に難易度の上り幅がおかしい。


黄金の一撃と高速戦闘、麻痺毒瓶……俺の持つほとんどの切り札を使ってしまった。


この次は――耐えきられるのか?

いつ終わるかも分からない恐怖が、容赦なく俺を――



《警告!餓鬼の軍勢が近付いてきます!》


《第5ウェーブを開始します》


《制限時間は十分です》



『奴ら』が押し寄せてくる音。

これまでに感じた事のない、異様な圧。


俺は――それを目にする。



《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》


《ゴブリンアーチャー LEVEL35》

《ゴブリンソルジャー LEVEL35》

《ゴブリンソルジャー LEVEL35》

《ゴブリンシャーマン LEVEL35》

《ゴブリンシャーマン LEVEL35》




「……はは、嘘だろ……」



見えたのは、『絶望』だった。

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