エピローグ:『キッドの助言』


「……あ、あー、でもな、同時に俺は『負け』てんだ。ハハハ、安心しろって!」


「――え?」


「『アラタ』はつえーよ、この俺が証明してやるからさ。おらおら~!」



いつの間にか、自分は顔に出していたのだろうか。

俺の頭を乱暴に撫でながら、彼はそう言い笑う。


……でも、キッドのその言葉で少し冷静になれた。


兄さんと『同じぐらい』強い人物という認識になったからだろう。

最初からライバルって言ってたから、そりゃそうなんだけどさ――どうしても、動揺してしまった。



「……そっか。ごめん、手、手どけてくれ……あのさ、キッド」


「ん?」


「どうしたら――そんなに強く、なれるんだ?」



『格上』。それも、兄と勝負を引き分ける程の人物。


聞いてみたかった。

その答えを。


そして、あわよくば俺を――



「――別に無いな。このゲームを目一杯、楽しんで遊んでるだけだぜ」


「……そっか。ありがとう、無理を承知で鍛えてくれ――なんて言おうと思ったけど、それじゃ悪いな」


「ハッ!ゲームでも弟子とか無理無理、スマンが他を当たってくれ!」


「はは、分かった」



笑って断るキッド。

……まあ、見るからに弟子とかは嫌そうな感じだったしな。


ダメ元だったが――仕方がない。

近道はそう簡単には現れてはくれないだろう。



「――まあ、一つだけアドバイスをしてやるよ」


「え?」


「ここ辺りを真っ直ぐ行って、『ゴブリン』を狩れ。狩り続ければ後は、ハハ、その時のお楽しみだ」


「わ、分かった」


「ハッ、アイツら自体はクソ雑魚だが……ま、分かる。初めは多分絶望するだろうがな」



分からない。

ゴブリンは、正直余裕だったから。


でも……きっと、何かがあるのだろう。

彼がそうまで言うのなら。



「っし、まあそんなとこか――じゃあ頑張れよ!アニキも頑張ってるからさ」


「え?」


「あ、後もう一つ。『怪しいヤツ』がお前さんの身体の近くに手をやれば……それは『スリ』のサインだぜ!じゃあな!」


「……え、あ、ちょ――」



その後ニヤっと笑い、颯爽と走り去っていくキッド。

……色々と考えが纏まらない。


なんで、『アニキ』なんて知って――



《スリに遭いました》


《1Gを失いました》



「!?」



そして、追撃のように聞こえるアナウンス。

どうみても彼の仕業だった。



「……はは、やられた」



思わず、俺は笑ってしまう。

何というか色々と軽いが、魅力的なプレイヤーだった。

最後の最後に『スリ』の事も教えてくれた……僅かなGで。


闘えばきっと、今は勝ち目は無いだろうけど――いつか、闘ってみたい。


あれだけの格上なら兄とライバルにもなれるのだろう……なんで兄弟と知っているかは分からないが。



「……さて、帰るまでがPKKだったっけ」



あそこまで言ってもらい、死んでしまっては申し訳ない。

俺は、キッドの教えを守るべく……辺りを警戒しながら街へと帰路を進めていく。





歩きながら、俺はこれまでを思い出していた。



「……PK職にも、色々あるもんだ」



十六夜にキッド。

その者達は――俺の知っている様なPK職ではなかった。


自身の職を強くしたり、はたまたPK職から助けてくれるPK職であったり。


まあ……徒党を組んで嬲るような者達も居るんだが。



「……」



周囲の警戒をしたまま、俺は空を見上げる。


《――「僕より強い人ってさ、この世界にも大勢居るんだ」――》


思い出す、彼の言葉。

RLは沢山の人がいる。

それこそ――最強の兄が、ああやって言うぐらいには。



「――楽しみで仕方ないな」



ダスト。ベアー。十六夜。キッド。……そして、『アラタ』。


俺が強くなればこの先、もっと強い奴らが待ってるんだ。



「……『皆』、頑張ってる」



フレンドリスト。

商人であるフレンドの同職達は――めきめきと俺に追いつくようにレベルが上がっている。


もう自分の事なんて、とっくに忘れてしまっているだろうが。



「負けてはいられない、か」



中にはもうレベルが35までいっている者もいる。

はは……追いつかれるのは、時間の問題かもしれない。



《――「商人って職業――楽しいか?」「!はい!サイコーです!!」――》



未だに、俺の記憶に強く残っている彼女の笑顔。

それはもはや俺の支えだ。


……同職の為にも。自身の為にも。

『商人』として。

この職業と一緒に俺は――もっともっと強くなる。



……ただまずは、今日はゆっくり寝るとしよう。




《王都ヴィクトリア・非戦闘エリアに移動しました!》


《ログアウトします》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る