エピローグ:遥か高みの好敵手達


 プレイヤーネーム『キッド』。

茶髪の軽い雰囲気に対照的な黒のシルクハットがトレードマークの男。


PK職でありながら『一般プレイヤー』にはほとんど手を出さない。

狩るのはモンスターと悪質プレイヤー……そして挑戦者だ。

誰かが困っていれば、いつから居たかそこに現れ助けてくれる異質な存在。


『義賊』……誰かがそう言ったのも束の間、やがてその名は轟いていった。

やがてプロの勧誘を受けた彼は『面白そう』という理由だけで加入する。

PK職という大衆からは避けられがちな立場だったが――そのプレイスタイルを含む彼の魅力とギャップから、一気に人気は爆発した。



「――うぁあ!がッ……」


「っし終わり――マジでこの辺りは多いよなぁ……ま、楽しいから良いけど。悪く思うなよ~」



ある何処かの戦闘フィールド。

彼一人対PK職四人の戦闘が終わる。

結果は……当然の様にキッドの勝利。


PK職がPK職を襲う……そんな事態に混乱したという事もあるが――彼の戦闘スキルが圧倒的に高かった事が勝因だろう。

『スキルを奪う』特殊なスキルに彼自身の神掛かった投擲技術。彼がナイフを投げれば、それはもはや弾丸と化すのだ。



ちなみに、どのフィールドでも多人数で徒党を組んで『狩り』をするPK職は居る。


……RLにおいては、それはかなりのペナルティを受ける事になる。

経験値に報酬もあまり手に入らない――ほぼメリットは無いが、それでも『快楽』と少しの報酬は得られる。


レベルが上がるにつれそういった者は減っていくのだが、決してゼロにはならないものだ。



「……お、『アラタ』ログインしてんじゃん」



ふと、その名前を呟くキッド。

辺りに誰も居ない事を確認し、メニューを開いて――



(ハハ、ほんの少しちょっかい掛けてやるか)



ニヤっと笑みを浮かべる彼。それは少年のようになんとも楽しそうである。

そして――そのメッセージを飛ばす。



『よう!元気してっか?』


『……』



《アラタ様が貴方のフレンドを解除しました》


《アラタ様にフレンド申請を送りました》


《アラタ様がフレンド申請を受諾しました》



『おいおいごめんって!』


『……何だい?からかうだけなら切るよ』


『ハッ、聞いて驚けよ――お前の弟に会ったぜ!』


『!そうか――『変な事』は言ってないだろうね?』



(こ、怖え~……どんだけ大事な弟なんだよ)



キッドの耳に届く低い声。

メッセージからでも分かる殺気に彼は思わず恐怖する。


……その口角は上がっているものの。



『それがさぁ、俺がお前に勝ったっつったらすげー殺気のなんのって』


『……』


『で、次は『負けた』って言えばすげー安心した顔すんの!良かったな~可愛い弟を持ってさ』


『……そうか』


『んで次は――なんと弟子入りしたいだってよ!やだやだあ、キッド困っちゃう~』


『――何だって?』



(殺気のレベルが上がってるっての!こ、怖え~)



一段と低くなったアラタの声に、またキッドは恐怖していた。

しかし彼の口角は……むしろ先程よりも上がっているが。



『安心しろよ、俺は弟子なんて懲り懲りだからさ』


『そうか……すまない。錦も――強くなろうとしているんだね』


『ああ、ちょっとアドバイスだけして終わったぜ~』


『……ありがとう。彼は君の目からしてどうだったんだい?』



(ハハハ、ここで弟くんをボロクソに言えば俺を輪切りにしようと飛んでくるんだろうな……まあ、しないけど)



一対五という絶望的な人数差。


キッドは最初、一瞬で彼が負けると思っていた。適当な所で助け舟を出そうかと。


しかし――地面へ大量に斧をばら撒く、彼なりの対多数用戦闘方法。

絶望的な窮地から『死』をも利用した麻痺毒の投擲による状況の打開。

毒薬まで用いた攻撃力の底上げ……『不遇職』の、ニシキの執念ともいえるPKKに思わずキッドは見惚れていたのだ。



(見てくれと強さは全く違うが、根本的なモノは変わらねぇよな……ハッ、流石兄弟だわ)



久しぶりにそんな光景を見た気がした。

それこそ何処ぞの誰かの『居合』の様な。



『――そりゃ、強くなるんじゃねーの?この先、『職業』の壁をどれだけ超えられるかが見物だなぁ』


『……そうだね。僕も同じ事を考えているよ』


『ああ。商人なんて全く未知の領域だからな――万に一つ、お前を超えれば面白えんだけどな?アラタ』


『ははは、それは兄として無い様にするよ。君『』なら簡単に越してしまうかもしれないけどね』


『……あ?今何つった?』


『――その似合わないシルクハット、斬ってあげようって言ってるんだ』


『ああ!?そりゃ宣戦布告って事だなおい!』


『はは、『透』がそう思うならそれでいいよ』


『だからリアルネームはやめろって言ってんだろうが!』



(……ふう。よーっし、久しぶりにアラタと闘える。RLには感謝だぜ。アイツと本気で闘えるのはココだけだからな)



メッセージ間で口論は繰り広げられる。

しかし――離れた二人とも、その口元は笑っていた。



『ったく、それじゃ……お前のギルドの闘技場で』


『分かったよ。招待しよう、また負けても再戦はしないからね』


『ハッ、望む所だってーの!』





「ふう……マジで急に、昔に戻ったなコイツ」



メッセージを閉じ、彼はここで初めて出会ったアラタの様子を思い出す。

楽しんでいる様に見えて、無理に周囲にそう見せている様な姿だったアラタ。


でも今は真っ直ぐに『強さ』を追い求めている。ゲームという事も忘れたように対人戦闘をひたすらに磨いているのだ。



(おかげで今は全く勝てねえっての――ったく、誰の影響なんだろうな)



笑って、さっきまで話していた――誰かさんに似た顔のプレイヤーを思い出す。




「……ありがとな、ニシキさんよ」




《アラタ様からギルドへの招待が届きました!》


《承諾すると『舞月』ギルドへ移動します》



「いつか強くなったアイツとも闘いてぇな――っと、来た来た!」



キッドは、やがてそこから消える。


昔からの『ライバル』である二人は――また刀とナイフを交えるのだった。

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