『五』の死闘③


それは、彼には突然だっただろう。

魔法使いに――上から『麻痺毒』のシャワーが降りかかったんだ。



「っ、やった――」



俺が、死ぬ間際に投げたのは『麻痺毒瓶』。

魂斧を手にして、初めて戦った盗賊が持っていたモノだ。王都で購入したアイテムの一つ。


何とか俺は、魔法使いの頭上付近のそれに斧を当てる事に成功した。

もし彼らがすぐに気づいて避難でもしていれば終わりだった。

最初に『すっぽ抜け』――そう解釈してくれて、本当に助かったよ。



「こ、コイツ――」


「あ、『アサルトブレード』!!」


「ぐっ――」



背中から迫る刃。

――急所は無い。

俺は、それを避けずに受ける。


『魂斧』を――インベントリから取り出しながら。



《体力が一定値以下となった為、黒の変質が発動します》



「ありがとな、『減らしてくれて』――っ」


「は……ぐあッ!!」


「『スラッシュ』」


「ッ――!?あ、あ――」



《経験値を取得しました》


《賞金首を倒した事により、180000Gを取得しました》



二人に対し、斬撃を一発ずつ入れる。

ずっと削ってきた一人のHPは、変質した亡霊の魂斧の一撃によってゼロになった。



「隊長は……クソッやべえって――おい援護!」


「分かってる――『ソニックショット』!』 


「っ……っと」



迫る矢を躱しながら、俺はまたインベントリに手を突っ込む。


あの麻痺毒は、そう長くは持たない。

求められるは『短期決着』。


俺は――取り出したそれを、一気に飲み干した。



「な、なにやって――!?」



《攻勢の毒薬を使用しました》


《状態異常:毒となりました》



身体から、煙の様に現れる『紫色のオーラ』。


言うまでも無い――十六夜が使っていた、あの毒薬だ。

HPが継続的に減っていく代わりに――バフポーションよりも格段に攻撃力を上げるモノ。



「――『スラッシュ』」


「がッ!?あ――」



《経験値を取得しました》


《賞金首を倒した事により、200000Gを取得しました》



変質した魂斧に、攻勢の毒薬による攻撃力の上乗せ。

それによって――もう一人の小剣使いは死んでいった。


俺の減少していくHPバーは、まだ余裕がある。



「……」


「ひッ――く、来るな――!!」



ゆっくりと。変質が終わり、斧へと戻った魂斧を持って。

大剣使いに隠れた、魔法使いの元へ歩いていく。


走らないのは――



「く、クソッ!『ソニックショット』――!?』


「――『ヘビィスウィング』」



《Reflect!》



打ってくる矢を――弓使いに、正確に反射させる為だった。



「うあッ――!?」



《経験値を取得しました》


《賞金首を倒した事により、200000Gを取得しました》



かなりHPが減っていた状態で、反射の反撃をもろにくらった弓使い。

当然、光の塵で消えていく。


そして――魔法使いを守っていた、大剣使いが来るのが見えた。



「こッこの、商人如きが――『インパクトアタック』!」



距離を詰め――大剣での突き。


でも……遅い。



「っ――『黄金の一撃』!」


「があッ――!?」



《300000Gを消費しました》



コイツらに遭遇した時点で、俺は設定額を引き上げていた。


限界ギリギリまで上げたその威力に吹っ飛んでいく大剣使い。



「い、いやいや可笑しいだろ――なんで、アイツ、『暗黒兵士』だぞ――!」



彼のマックスのHPを、半分まで消し去る。


そして――俺は、再度魔法使いに向き直った。



「くッ――よ、よし!!近付くな――『ムービング・ダウン』!やれ!!」



麻痺が切れ、詠唱を開始していたのだろう。

杖を構え――黒いナニカが地面を伝っていく。



《状態異常:移動速度低下になりました》



また足に絡みつく鎖。

でも――さっきより断然軽い。



「ッ、おらあ!!」



背中から襲い掛かる大剣。



「――っと、『パワースウィング』」


「!?――がッ……」



大振りな一撃を、重い脚で避ける。

これまでは小刀や小剣だったが――コイツなら、この状態でも大丈夫だ。


お返しに武技を打ち込めば、彼は仰け反り倒れる。



「くッ、くそ、俺だけでも――」


「……『パワースロー』」



魔法使いの方を見れば、今にも走って逃げようとしていた。


その足に容赦無く投擲武技をぶつけると、鎖も同時に消滅した。




「あッ――ぐッ、くそぉ……」


「……なるほどな、コレは君がダメージを受ければ消えるのか」


「――くッ……!?お、おい!逃げるなよ!!」



被弾して、地面を転がる彼へと近寄る。


殺気を感じなくなったから後ろを見れば――大剣使いは後ろ、明後日の方向へ走っていた。


……まさか、両方とも逃げるとは思わなかったな。

ただ、二兎を追う者は一兎をも得ず。その言葉に従うとしよう。



――でも、その前に。



「……っ」




《貴方は死亡しました》







俺は、HPがゼロになって倒れる。

魔法使いの目の前で。



「へ……?や、やったのか……?」



攻勢の毒薬の効果で――俺のHPはじりじりと減っていた。

案外持ったモノだろう。

もう少しだけ、長持ちしてくれたら良かったんだけどな。


ポーションを飲んでも良かったが……隙は与えたくなかった。



「よ、よっしゃああ!勝っ――――!?」



《黄金の蘇生術を使用しますか?》


《黄金の蘇生術を使用します》


《328485Gを消費しました》


《体力が一定値以下となった為、黒の変質が発動します》



「――それじゃ、続きをやろうか」


「え……?な、何で――」



黄金の霧が晴れ、もう一度生き返る俺。

一瞬の安堵は、どんな気分だっただろうか。

彼の戦闘意欲は――もう、無いに等しいだろう。


思惑通りに進み過ぎて怖いぐらいだ。さっきの大剣使いも帰ってこないしな。




……でも。

容赦は、しない。





「『スラッシュ』」


「――があああッ!!く、クソぉ……」


「――っ」


「がはッ――」



逃げようとする彼に一撃、追撃。

それは傍から見れば……俺が悪役と思える程に。



一方的な、『蹂躙』だった。



「……た、頼む――み、見逃してくれね?」


「……」


「ヤバいんだって!ここで俺が死んだら、俺達はペナルティが――」


「――それを承知で、君は挑んだんじゃないのか?」



地面に倒れながら、そう言う彼に答える。

『挑んだ』――というよりかは、まるで多人数で一人を囲むのを楽しんでいたように思えるが。



「いや、それは――」


「――分かった。もう……良いから」


「……え?マジ!?見逃し――」


「――『スラッシュ』」


「――ぐッ!!あ、あ――」



俺は――彼に武技を振るった。

もう、会話するだけ無駄だと悟ったからだ。



「――『商人』は……俺達は強くなった」


「ずっとそれを、その身で覚えておいてくれ」


「次も、その次もこの先ずっと同じ様に――俺はお前らを、何回でも倒してやる」



地面に転がる魔法使いへ……そう言葉を付け加えて。

俺は――最後の一撃を与えた。



《経験値を取得しました!》


《賞金首を倒した事により、500000Gを取得しました!》


《PKペナルティ大のパーティーを壊滅させた事により、1000000Gを取得しました!》


《対人数ボーナスにより、追加で1500000Gを取得しました!》


《称号『断罪者』を取得しました!》


《称号『返り血に染まる者』を取得しました!》



鳴り響くアナウンスは、己の『勝利』を知らせてくれる。

俺は――拳を、空へと高く突き上げた。






「――勝った……!」





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