『五』の死闘①





「……」




それは、言うなれば初心者狩り――そういったモノなんだろう。


前衛三人に、後衛二人。

小刀に片手剣、そして大剣。

後衛は弓と杖……見事にバラけた、バランスの良いパーティーだった。



「……」



運が良いのか仕様なのか、こういった大人数のPK職には出会う事が無かったが……ついに出会ってしまった。

一人対五人……冷静に見れば勝負するだけ無駄。


これだけ近くでも――まだ間に合う。


走って逃げれば、余裕で離れられるだろう。



「おいおいアイツ気付いてねえのか?」

「商人は逃げる力も無えんだな」

「早くやっちまおうぜ〜」



でも、俺の足は動かなかった。

ゴブリンを倒してから、そこから立ち尽くしている。



《――「え、またPK職!?」――》

《――「しかもこっちより多いとか……」――》

《――「またか……最近、キミと組んでると良くPK職に遭遇する気がするんだよね」――》

《――「チッ!戦闘力皆無の癖にこういうのは引っ張ってくるんだよな」――》


それは、昔ギルドに所属していた時だった。

メンバーで狩りをする時、PK職を俺が見つければ決まって自分に非難が行っていた。

言うなれば――『寄生』だった時だ。


商人が狙われやすいのはあるが、商人が居れば近くにPK職が居やすいってのは何の根拠もない。でも……あの時の俺はただ謝罪の言葉を、思考停止で言っていた。


悪いのは、この職業である自分。

戦闘力の無い俺が、一番のお荷物なのは確かだから。



「……俺は――」



弱い頃の自分は、目を避けたくなる程に何も出来なかった。

この大人数のPK職を見て、その光景が嫌でも蘇る。

正直――怖い。でも。


近付いてくる気配を感じながら、手に持つ魂斧を見る。

過去の自分を思い出しながら。

現在の自分に塗り替えていく。



きっと、これから行うのはただの『無謀』だ。

反撃で死ぬのは重々承知。


――でも。そうだとしても。

俺は、ここで奴らに向かわなければいけない気がした。

商人として――勝利を奪い取らなくてはならないのだと。



もう既に、逃避の選択肢は消えている。



「……」



覚悟を決めて。

ゆっくりと、『奴ら』に向けた。



――殺意を。


――『PKKプレイヤーキラーキル』の、意思表示を。



「お、おい――何か変だぞアイツ」

「はあ?まあいい、ぶっ放すぜ!『パワーショット』――」



前方。

タイミングを合わせて、迫る矢に向け斧を振りかぶった。


過去を振り切る様――思い切って。



《Reflect!》



「――!?ぐあッ……」

「……は?」

「お、おい!何だアイツ!!」



反射成功。矢が跳ね返り弓使いに当たる。


混乱してくれている間に、俺は魂斧を仕舞い、インベントリからスチールアックスを取り出す。


一本じゃない。

二本、三本……持っている『全て』を。


合計十本。

それを――地面に放り、刺して置いた。

そのうち一本は左手に構える。



「……」



俺が、無い頭で思いついた対多人数用の戦闘方法だ。

いつか『こういう』事になると思っていたから。


まさか、新フィールドで早々になるとは思わなかったけどさ。



「――来い」





「……はッ、運良く反射が発動したからって良い気になりやがって――」

「だっせー!おい!俺達も行かせてもらうぜ隊長!」

「俺も行くー!」

「おう――あ、一人は俺を守れよ!」

「チッ……んじゃ俺が残るわ」




何か話していた後、バラけるPK職達。


小刀使いと小剣使いはこちらへ。

後衛二人はそのまま、そして――杖を持つ魔法使い?の前に、大剣使いが立つ。


……分からない、でも彼以外は、その魔法使いの彼を『隊長』と呼んでいた。

攻撃は真っ先に与えたいが――



「っしゃあ死ねや!『ダブルエッジ』!」


「――っ、らあ!」


「ごはッ!?」



そんな余裕は与えてくれない。


小刀使いの、大振りな舐め腐った武技を避けて――お返しに首元への一撃を。

吹っ飛ぶ彼を尻目に――



「『パワースウィング』」



攻撃を、『置いた』。



「――え?……があッ!!」



背後の影に直撃する武技。


その小剣から、『暗殺者』である事は察していた。

こっそりと姿を消したつもりだったかもしれないが――



「――っ」


「ぐッ――!!お、おい援護!」



あの、『彼女』に比べれば――格下も良い所だった。

そのまま追撃を彼に入れれば情けない声を出す暗殺者。




「――そ、『ソニックショット』!」


「っ――」



二人が倒れた時、弓使いの声。

青色のエフェクト、そして先程よりも早い矢。


反射は無理――そう判断した俺は、無理なくそれを避ける。

二人が俺に迫っている時は、同士討ちの危険もあるから撃たなかったんだろうが……単体なら避けるのは余裕だ。


それじゃ……お返しに、『まず一本』。



「――『パワースロー』!」


「!?うわ――うッ!!」



武技直後の隙に、投擲武技を入れる。

これも綺麗にヒットし――怯む弓使い。



「くッ、クソが――『スティング』!」



後ろから、倒れていた小刀使いが襲い掛かる。


俺はすぐに地面の斧を拾って――



「っ――らあ!』


「がはッ――」



遠心力を活かした一撃を彼に。

そして――また、『もう一本』。



「か、回復――うあッ!?」



少し離れた場所でポーションによる回復を試みる暗殺者。

逃す訳が無い、いやそれを見逃す訳はない。俺は、また手のスチールアックスを彼に投げた。



回復直後、硬直中の不可避の一撃。

斧はポーションを避けて、彼を撃ち抜いた。



「――ッ、まだまだ……!」



もう一本を地面から抜いて構える。

戦闘は、始まったばかり――しかし。



俺は……悟ってしまった。というより、頭のどこかで気が付いてしまった。


この、油断塗れの、舐め腐って来るPK職達でも。

『三人』が――ギリギリの、限界だと。

後ろの二人には手も足も出せない。



過る不安。

あそこの眺めている奴らが――何をしようとも。


俺は、何も反抗できない事実を。

『糸』が切れてしまう時間は、じきに迫っている事に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る