『五』の死闘①
☆
「……」
それは、言うなれば初心者狩り――そういったモノなんだろう。
前衛三人に、後衛二人。
小刀に片手剣、そして大剣。
後衛は弓と杖……見事にバラけた、バランスの良いパーティーだった。
「……」
運が良いのか仕様なのか、こういった大人数のPK職には出会う事が無かったが……ついに出会ってしまった。
一人対五人……冷静に見れば勝負するだけ無駄。
これだけ近くでも――まだ間に合う。
走って逃げれば、余裕で離れられるだろう。
「おいおいアイツ気付いてねえのか?」
「商人は逃げる力も無えんだな」
「早くやっちまおうぜ〜」
でも、俺の足は動かなかった。
ゴブリンを倒してから、そこから立ち尽くしている。
《――「え、またPK職!?」――》
《――「しかもこっちより多いとか……」――》
《――「またか……最近、キミと組んでると良くPK職に遭遇する気がするんだよね」――》
《――「チッ!戦闘力皆無の癖にこういうのは引っ張ってくるんだよな」――》
それは、昔ギルドに所属していた時だった。
メンバーで狩りをする時、PK職を俺が見つければ決まって自分に非難が行っていた。
言うなれば――『寄生』だった時だ。
商人が狙われやすいのはあるが、商人が居れば近くにPK職が居やすいってのは何の根拠もない。でも……あの時の俺はただ謝罪の言葉を、思考停止で言っていた。
悪いのは、この職業である自分。
戦闘力の無い俺が、一番のお荷物なのは確かだから。
「……俺は――」
弱い頃の自分は、目を避けたくなる程に何も出来なかった。
この大人数のPK職を見て、その光景が嫌でも蘇る。
正直――怖い。でも。
近付いてくる気配を感じながら、手に持つ魂斧を見る。
過去の自分を思い出しながら。
現在の自分に塗り替えていく。
きっと、これから行うのはただの『無謀』だ。
反撃で死ぬのは重々承知。
――でも。そうだとしても。
俺は、ここで奴らに向かわなければいけない気がした。
商人として――勝利を奪い取らなくてはならないのだと。
もう既に、逃避の選択肢は消えている。
「……」
覚悟を決めて。
ゆっくりと、『奴ら』に向けた。
――殺意を。
――『
「お、おい――何か変だぞアイツ」
「はあ?まあいい、ぶっ放すぜ!『パワーショット』――」
前方。
タイミングを合わせて、迫る矢に向け斧を振りかぶった。
過去を振り切る様――思い切って。
《Reflect!》
「――!?ぐあッ……」
「……は?」
「お、おい!何だアイツ!!」
反射成功。矢が跳ね返り弓使いに当たる。
混乱してくれている間に、俺は魂斧を仕舞い、インベントリからスチールアックスを取り出す。
一本じゃない。
二本、三本……持っている『全て』を。
合計十本。
それを――地面に放り、刺して置いた。
そのうち一本は左手に構える。
「……」
俺が、無い頭で思いついた対多人数用の戦闘方法だ。
いつか『こういう』事になると思っていたから。
まさか、新フィールドで早々になるとは思わなかったけどさ。
「――来い」
☆
「……はッ、運良く反射が発動したからって良い気になりやがって――」
「だっせー!おい!俺達も行かせてもらうぜ隊長!」
「俺も行くー!」
「おう――あ、一人は俺を守れよ!」
「チッ……んじゃ俺が残るわ」
何か話していた後、バラけるPK職達。
小刀使いと小剣使いはこちらへ。
後衛二人はそのまま、そして――杖を持つ魔法使い?の前に、大剣使いが立つ。
……分からない、でも彼以外は、その魔法使いの彼を『隊長』と呼んでいた。
攻撃は真っ先に与えたいが――
「っしゃあ死ねや!『ダブルエッジ』!」
「――っ、らあ!」
「ごはッ!?」
そんな余裕は与えてくれない。
小刀使いの、大振りな舐め腐った武技を避けて――お返しに首元への一撃を。
吹っ飛ぶ彼を尻目に――
「『パワースウィング』」
攻撃を、『置いた』。
「――え?……があッ!!」
背後の影に直撃する武技。
その小剣から、『暗殺者』である事は察していた。
こっそりと姿を消したつもりだったかもしれないが――
「――っ」
「ぐッ――!!お、おい援護!」
あの、『彼女』に比べれば――格下も良い所だった。
そのまま追撃を彼に入れれば情けない声を出す暗殺者。
「――そ、『ソニックショット』!」
「っ――」
二人が倒れた時、弓使いの声。
青色のエフェクト、そして先程よりも早い矢。
反射は無理――そう判断した俺は、無理なくそれを避ける。
二人が俺に迫っている時は、同士討ちの危険もあるから撃たなかったんだろうが……単体なら避けるのは余裕だ。
それじゃ……お返しに、『まず一本』。
「――『パワースロー』!」
「!?うわ――うッ!!」
武技直後の隙に、投擲武技を入れる。
これも綺麗にヒットし――怯む弓使い。
「くッ、クソが――『スティング』!」
後ろから、倒れていた小刀使いが襲い掛かる。
俺はすぐに地面の斧を拾って――
「っ――らあ!』
「がはッ――」
遠心力を活かした一撃を彼に。
そして――また、『もう一本』。
「か、回復――うあッ!?」
少し離れた場所でポーションによる回復を試みる暗殺者。
逃す訳が無い、いやそれを見逃す訳はない。俺は、また手のスチールアックスを彼に投げた。
回復直後、硬直中の不可避の一撃。
斧はポーションを避けて、彼を撃ち抜いた。
「――ッ、まだまだ……!」
もう一本を地面から抜いて構える。
戦闘は、始まったばかり――しかし。
俺は……悟ってしまった。というより、頭のどこかで気が付いてしまった。
この、油断塗れの、舐め腐って来るPK職達でも。
『三人』が――ギリギリの、限界だと。
後ろの二人には手も足も出せない。
過る不安。
あそこの眺めている奴らが――何をしようとも。
俺は、何も反抗できない事実を。
『糸』が切れてしまう時間は、じきに迫っている事に。
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