透明少女②





「――!」


「――っ、『高速戦闘』」


「……っ!?、う――」



彼女の特技?か分からないが……その存在を消す技は厄介そのもの。

かつ透明になって、殺気すら消されては、厄介なんてものじゃない。


でも――それは攻撃時のある時のみ一瞬、うっすらとだが解かれる。


ある時とは……『俺が彼女、あるいは彼女が持つ武器に触れた瞬間』だ。もっと言えば、『俺がダメージを受ける時』でも良い。

だから、俺はそれに合わせ高速戦闘を発動した。



《HPが三割以下となった為、黒の変質が発動します》



「――っ、と……やっと捕まえた」



今の状況。

右から、彼女が俺の腹に刃を突き立てた瞬間――右手で刃ごと手で掴んだのだ。


減っていくHPゲージ。でもそれは、大したモノじゃない。


ダガーと共に、彼女の姿も見えたのだから。



「――っ……!」



動きが止まると同時に、その姿が継続して露わになっている。


俺はダガーの刃から手を離し、手首を右手で掴んで。

そのまま左の魂斧を振りかぶる。


変質し、刀となったそれで。



「――『スラッシュ』!」


「……ッ!、『霊化ゴースト』――」



瞬間、彼女の姿はまた消える。


そして俺の一撃も、掴んだ手の感覚も――まるで『透けた』様に通り抜けた。

ダメージすら受けていない。



――でも。



直前の彼女の動きで、ある程度の位置は分かる。


そのスキルは予想外だが――俺は、この瞬間を待っていた。

流石にその『無敵時間』は、長くは続かないだろう!



「――っ、らあ!」



闇雲に武器を振っても当たらない――武器なら。


使使

例え、それが『地面』であっても!



「!?――ぁ……」



逃走する彼女の予想位置は、右斜め前。

俺はそこへ、思いっきり砂を脚で巻き上げた。


それは、

彼女の身体は容赦なくその砂を浴びる事になる。



「……やっと、『見えた』――」



ダメージ量なんてどうでも良い。

『当たり』さえすれば――その姿は現れてくれるから。

俺の放った砂という攻撃が、彼女に触れているからな。


さて。

高速戦闘はとっくに解けているが――もう、一撃を食らわせるには十分だ。



「――『スラッシュ』!」


「――きゃあ!……ッ、『透明化』――」



現れた陰に、まずは武技を一発。

食らった後にもう一度姿を消した彼女だが……流石にその位置は『見える』。



「――らあ!」


「うッ――!」



位置を予測し攻撃を放てば――今度はしっかりとダメージが当たった。

HPが大きく減り、その姿が露わになる。


……彼女の消える術は、二つあるようだ。

恐らく、『霊化』は一度きりか再利用までの時間が長い無敵技。

もう一つの『透明化』は、何度も使えるが無敵性能は無い。そしてこちらの攻撃が当たれば即解除。



つまり――今追い込めば勝機はある!



「――『パワースウィング』」


「きゃぁ――!」



倒れる彼女に向けて、その武技を放つ。


命中し――ごっそりと減るHP。

斧の状態に戻ったが、それでも彼女のHPを半分以下にまで持って行けた。



ここから先。

まだまだ、気を抜けないが――今確かに、形勢は逆転した。






「……ッ――『透明化』……」


「らあ――!?」



あれから何発か彼女に命中し、このまま追い込めるか――そう思った瞬間。


『霊化』はしていないはずだった。

でも――姿が消えて直ぐの彼女への攻撃が、また通らなかったのだ。


消えてすぐ、瞬間移動でもしなければ絶対に当たるモノだったのに。



「……ふぅ……まさか、こんな場所で……あなたみたいな人に会えるなんて……」



いつの間にか遠くに移動していた彼女。


楽しそうに笑い、俺にそう口にする。



「……あの、あなたは……、ここで戦ってるの?」



その顔は、馬鹿にしている訳ではなさそうだった。


純粋な疑問。

俺の様な生産職が、『こんな場所』に居る理由。



「……それは――」



単純に、俺が人との戦闘が楽しいのもある。

商人として、この世界で戦えているのも。


でも――今、何の為に闘っているのかと言われれば。



「――俺の兄に、追いつく為だ」


「!へえ……強いんだね、あなたのお兄さんは」


「はは、それはもう――ちなみに君は?」


「……へへ、聞いてくれてありがと……それはね――」



小剣を見ながら、彼女は笑ってそう言った。



「わたしの『影の薄さ』は、現実じゃ辛いだけだったけど……」


「……この世界――特にプレイヤーさんに対してなら、『強さ』になるの」


「だから、自分を活かせるこの職業を、『暗殺者』を……もっともっと強くするんだ」


「この世界のプレイヤーさん達に、『』を、『』の――」



特徴的な彼女の消え入りそうな声には、確かな想いが籠っていた。


暗殺者という職業への思い――それはどこか俺と似ている気がして。


……PK職ってのは、こういうプレイヤーも居るんだな。



「へへ、話すの遅くて、ごめんね……こんなに人と話したの、はじめてかも……」


「構わないよ。どおりで君は強いわけだ」


「それは、あなたも……」


「はは、ありがとう」



何というか、不思議な感覚だ。


彼女はPK職なのに――どこか、通じ合うモノがある。



「……へへ。『お互い負けられない』、ね――」


「――そうだな」



でも、だからこそ。

彼女とは、決着を付けなければならない。



そして何より――




「……じゃ、名残惜しいけど……終わらせよっか」


「ああ」


「……次の攻撃が、私の『全て』――これを食らって立っていた人は居ないの。受けられるなら、受けてみてね……」


「――!?何を――」



そう言った後、彼女は何かを取り出して口に入れる。液体の入った瓶だろうか。


見れば――少しずつだが、HPが減っていっているのだ。

まるで『毒』。


しかし、それはただの毒じゃないのが分かる。

なぜなら――彼女の身体を、紫色のオーラが燃える様に包んでいたからだ。






「んっ……えへへ、次の攻撃当たったら――商人さん、『絶対』に死んじゃうから」






静かに笑い、彼女は俺にそう言った。

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