透明少女②
☆
「――!」
「――っ、『高速戦闘』」
「……っ!?、う――」
彼女の特技?か分からないが……その存在を消す技は厄介そのもの。
かつ透明になって、殺気すら消されては、厄介なんてものじゃない。
でも――それは攻撃時のある時のみ一瞬、うっすらとだが解かれる。
ある時とは……『俺が彼女、あるいは彼女が持つ武器に触れた瞬間』だ。もっと言えば、『俺がダメージを受ける時』でも良い。
だから、俺はそれに合わせ高速戦闘を発動した。
《HPが三割以下となった為、黒の変質が発動します》
「――っ、と……やっと捕まえた」
今の状況。
右から、彼女が俺の腹に刃を突き立てた瞬間――右手で刃ごと手で掴んだのだ。
減っていくHPゲージ。でもそれは、大したモノじゃない。
ダガーと共に、彼女の姿も見えたのだから。
「――っ……!」
動きが止まると同時に、その姿が継続して露わになっている。
俺はダガーの刃から手を離し、手首を右手で掴んで。
そのまま左の魂斧を振りかぶる。
変質し、刀となったそれで。
「――『スラッシュ』!」
「……ッ!、『
瞬間、彼女の姿はまた消える。
そして俺の一撃も、掴んだ手の感覚も――まるで『透けた』様に通り抜けた。
ダメージすら受けていない。
――でも。
直前の彼女の動きで、ある程度の位置は分かる。
そのスキルは予想外だが――俺は、この瞬間を待っていた。
流石にその『無敵時間』は、長くは続かないだろう!
「――っ、らあ!」
闇雲に武器を振っても当たらない――武器なら。
例え、それが『地面』であっても!
「!?――ぁ……」
逃走する彼女の予想位置は、右斜め前。
俺はそこへ、思いっきり砂を脚で巻き上げた。
それは、
彼女の身体は容赦なくその砂を浴びる事になる。
「……やっと、『見えた』――」
ダメージ量なんてどうでも良い。
『当たり』さえすれば――その姿は現れてくれるから。
俺の放った砂という攻撃が、彼女に触れているからな。
さて。
高速戦闘はとっくに解けているが――もう、一撃を食らわせるには十分だ。
「――『スラッシュ』!」
「――きゃあ!……ッ、『透明化』――」
現れた陰に、まずは武技を一発。
食らった後にもう一度姿を消した彼女だが……流石にその位置は『見える』。
「――らあ!」
「うッ――!」
位置を予測し攻撃を放てば――今度はしっかりとダメージが当たった。
HPが大きく減り、その姿が露わになる。
……彼女の消える術は、二つあるようだ。
恐らく、『霊化』は一度きりか再利用までの時間が長い無敵技。
もう一つの『透明化』は、何度も使えるが無敵性能は無い。そしてこちらの攻撃が当たれば即解除。
つまり――今追い込めば勝機はある!
「――『パワースウィング』」
「きゃぁ――!」
倒れる彼女に向けて、その武技を放つ。
命中し――ごっそりと減るHP。
斧の状態に戻ったが、それでも彼女のHPを半分以下にまで持って行けた。
ここから先。
まだまだ、気を抜けないが――今確かに、形勢は逆転した。
☆
「……ッ――『透明化』……」
「らあ――!?」
あれから何発か彼女に命中し、このまま追い込めるか――そう思った瞬間。
『霊化』はしていないはずだった。
でも――姿が消えて直ぐの彼女への攻撃が、また通らなかったのだ。
消えてすぐ、瞬間移動でもしなければ絶対に当たるモノだったのに。
「……ふぅ……まさか、こんな場所で……あなたみたいな人に会えるなんて……」
いつの間にか遠くに移動していた彼女。
楽しそうに笑い、俺にそう口にする。
「……あの、あなたは……
その顔は、馬鹿にしている訳ではなさそうだった。
純粋な疑問。
俺の様な生産職が、『こんな場所』に居る理由。
「……それは――」
単純に、俺が人との戦闘が楽しいのもある。
商人として、この世界で戦えているのも。
でも――今、何の為に闘っているのかと言われれば。
「――俺の兄に、追いつく為だ」
「!へえ……強いんだね、あなたのお兄さんは」
「はは、それはもう――ちなみに君は?」
「……へへ、聞いてくれてありがと……それはね――」
小剣を見ながら、彼女は笑ってそう言った。
「わたしの『影の薄さ』は、現実じゃ辛いだけだったけど……」
「……この世界――特にプレイヤーさんに対してなら、『強さ』になるの」
「だから、自分を活かせるこの職業を、『暗殺者』を……もっともっと強くするんだ」
「この世界のプレイヤーさん達に、『
特徴的な彼女の消え入りそうな声には、確かな想いが籠っていた。
暗殺者という職業への思い――それはどこか俺と似ている気がして。
……PK職ってのは、こういうプレイヤーも居るんだな。
「へへ、話すの遅くて、ごめんね……こんなに人と話したの、はじめてかも……」
「構わないよ。どおりで君は強いわけだ」
「それは、あなたも……」
「はは、ありがとう」
何というか、不思議な感覚だ。
彼女はPK職なのに――どこか、通じ合うモノがある。
「……へへ。『お互い負けられない』、ね――」
「――そうだな」
でも、だからこそ。
彼女とは、決着を付けなければならない。
そして何より――
「……じゃ、名残惜しいけど……終わらせよっか」
「ああ」
「……次の攻撃が、私の『全て』――これを食らって立っていた人は居ないの。受けられるなら、受けてみてね……」
「――!?何を――」
そう言った後、彼女は何かを取り出して口に入れる。液体の入った瓶だろうか。
見れば――少しずつだが、HPが減っていっているのだ。
まるで『毒』。
しかし、それはただの毒じゃないのが分かる。
なぜなら――彼女の身体を、紫色のオーラが燃える様に包んでいたからだ。
「んっ……えへへ、次の攻撃当たったら――商人さん、『絶対』に死んじゃうから」
静かに笑い、彼女は俺にそう言った。
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