透明少女①




「……何時から、気付いてた……?」


「俺がさっきの奴らに襲われる前だな」


「……へえ、そっか……」



廃墟から降り――俺へと話しかける彼女。


何というか、特徴的な話し方だった。


か細い、今にも消え入りそうな声。

存在を消す様な、そんな印象。


ショートカットだが、前髪が長く目が隠れている特徴的な髪型。

俺より一回り小さい身体。

装備は……一式黒に近い紫の革装備。武器は見えない。


見るからに――『暗殺者』といった感じだった。



《??? level35》



先程もそうだったが、奇しくも俺と同じレベル。

いや……偶然じゃなく、この場所ではそう調整されているのかもしれないな。



「俺に何か用か?」


「……『この場所』で、それを聞くの?――」


「――!?」



突如――彼女が消える。


辺りを見ても居ない、存在感も殺気も感じない。



「……へへ、こっちだよ。わたし、影薄いのが長所だから……」



背後。

至近距離――彼女は移動していた。


もう、気は抜いていられない。

何となく感じ取った。


この少女は、『只者』じゃないという事。



「――来るなら、来い」



魂斧をゆっくり構える。

いつでも行ける様に。



「……へへ、嬉しい……わたし、『ここ』の初めては、強い人が良かったんだ――」


「――!」



またも、消える彼女。

しかし――今度は気配を感じた。


……右だ!



「――らあ!」


「……そっちじゃないよ、『アサルトブレード』」



右側、遠心力を付けて振るった斧は――何にも当たらず空振り。


そして聞こえたのは……背後からの声だった。



「ぐっ――!」



まともに背中に武技を食らい、減るHPバー。


しかし――このまま食らってばっかじゃいられない!



「『スラッシュ』!」


「……外れ」



後ろに振るった武技も不発。

AGIに振っているのか、脚が早い。


……確か、『アサルトブレード』は過去に食らった事がある。

その時のPK職が使っていたのは、攻撃まで姿を消すことの出来るスキルだ。

黄金の一撃同様、戦闘中一回なのか連発もされなかった。


でも――彼女のそれは、攻撃しても解除されず。

また、連続使用も出来ている。



「――厄介だな」


「……へへ、ありがと……」



またしても、いつの間にか10m程先に居る少女。


……落ち着け。

考えるんだ。


まともにやっても勝ち目は無い。

スピードも、その隠密性も。

なら――使えるモノを使うだけだ!



「――ふう……」



ダッシュ。

そして――『廃墟の壁』に背中を付ける。



こうすれば、背後からの一撃はない。


前方180度、迎え撃つには十分だ。



「っ!……へえ――投擲は流石に見えるんだな」


「……!」



待っていたかの様に小剣が飛んでくるが、何とか叩き落す。

それが出来たのは、『見えた』から。


……どうやら持ち主から離れた武器は消えないらしい。




「……ほんとに、生産職さんとは思えないね……」




遠くから聞こえてきた言葉。

……見れば、迷彩が解かれていく様に彼女の姿が顕になっていく。


これまでの『消える』PK職達とは、何か違うスキルなのは確か。

何か、糸口を見つけないと。


妖しげに笑う彼女。その小さな姿には、絶対に油断はしてはいけない。



一切の容赦は無しに。

目の前の敵を、殺すんだ。



「――!嬉しい……本気の殺意だ……」


「そりゃ――やらなきゃ殺られるからな」


「……へへ、確かに――『透明化』インビジブル



またしても、前の彼女は消える。スキルの様なモノを呟きながら。


まるで……あの時の兄さんにそっくりだ。

気配も殺気もまるでない、そして今回はそれに加えて姿も見えない。



「はは、無敵だな」



冷静に考えれば、『成す術がない』。


でも。


彼女の攻撃は、兄さんのそれよりも強いのか?いいや、そんなことはない。

俺が取るべき選択。

まずは――耐えるんだ。



「――『アサルトブレード』……」


「っ!」



真横、左から襲う刃。


壁際に居る為避けにくく――俺はそれを腹に食らってしまう。

クリーンヒットは避けられたが。



「……」



何も見えない。


そのはずだった光景だったのに――どうして、俺が攻撃が来たと分かったのか。



「……エフェクトは、よく見れば見えるな」



その言葉通り、武技のエフェクトは僅かだが見える。


そしてそれを、俺はわざと呟く。

それを、まるで相手に聞かせる様に。



「『透明化』――ッ」


「ぐっ」



彼女はまた姿を消して……今度は武技を使わない通常攻撃が繰り出される。


それに俺はまたも食らってしまうが――ある意味狙い通りだ。



「……へへ、壁に移動したのは、間違いだったね……」


「確かに、そうかもしれないな?」



そんな会話の後。



「ぐっ――」


「っ――」


「がっ……」



消える彼女の刃は、容赦なく俺を追い詰めていく。


体力にして、残り四割。



「……っ、そろそろか」



彼女に武技なら見破れると言ったのは、半分嘘だ。


正直エフェクトと言ったってそれが発動してから初めて見えるから、ほぼ当たってしまう。


ただのハッタリ、そしてそれは――カウンターの為の準備を進める為。

手数を増やさせて、確実に対応出来るよう耐えて……慣れておいて。

更に、これだけ当たるならきっと次も――そういう油断も込めてある。




「――来い」


「……!」



体力残量も丁度いい。

次で、『決める』。


消える彼女へ向けて――ゆっくりと斧の刃を向けた。

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