デッドゾーン
《専用フィールドに移動します》
《王都郊外:デッドゾーンに移動しました》
《対人戦闘専用フィールドとなります》
《死亡した場合は、強制的に非戦闘エリアに移動します》
《なお、このフィールドでは復活アイテム及び復活スキルは使用できません》
《また、非戦闘エリアに戻りたい際はメニューから帰還を選択して下さい》
《十秒後、無敵時間が終了します》
見渡す限り、そこは荒地だった。
先程までの活気のある王都とは違い、建物は荒れ廃墟と化し……地面は砂漠のような乾いた砂が覆っている。
「……対人専用か」
嘆く。
まさか、王都にこんなフィールドがあるとは。
今まで通ってきたマップと違い――そこは、人という人が全く居ない。
アイテムも普通に使える。ただ『復活』は出来ないようだ。サクリファイスドールであったり黄金の蘇生術だったりは使えないらしい。
……ただ、そこまでする気は無いからいい。
本当にプレイヤーと戦う為の場所なんだろうか。
《まもなく無敵時間が終了します》
荒れた道を進む中、聞こえたアナウンス。
……何者かが――俺を見ている。
「おっ!!誰か居るぞ!」
「おいおい一人じゃん!しかも――商人!?カモじゃねーか!」」
声。
二人――大きな声を上げて、俺に近付いて来る。
全く俺に警戒もせずに。
《魔法士 level35》
《戦士 level35》
一人は槍使い。一人は杖。
その二人の名前欄を見ればわかるが――名前は見えないものの職業は公開されている。
更に言えば、名前がPK職を示す赤じゃない。
……『普通』の戦闘職か。ここではどうやら、名前は伏せられるものっぽいな。
加えて何気に、槍を持つ相手は初めてだ。
「幸先良いぜ俺ら!」
「『練習』がてら、まずは肩慣らしで行くかあ」
舐め腐った彼らの一人に、標的を絞る。
ここは、『対人専用エリア』。
なら――
早速、試させてもらうぞ。
「――『パワースロー』!」
インベントリ、魂斧からスチールアックスに切り替え。
大きく振りかぶり、投擲。
青色のエフェクトと共に――いつもよりもほぼ倍増のスピードでスチールアックスが飛んでいく。
「――!?がッ!!」
「お、おい!大丈夫か!?」
命中。
この武技――かなり使える。
普通、投擲したら距離によって威力は減衰、スピード、高度も落ちるんだ。
でも……この武技はほとんど『落ちない』。
実際、足を狙ったつもりが腹に当たった訳だし。
「や、やりやがったな――!」
「舐めやがって!」
迫る二人。
……これを、待ち侘びていた。
久しぶりの『生身』のプレイヤーとの戦闘。
NPCとは違うそれ。
魂斧を手に――俺は、前へと駆け出す。
「舐めてんじゃねえぞ――おらあ!」
槍使いに、距離が近付く。
あちらの方が間合いは広い。攻撃を先に仕掛けてきた。
でも――避けるのは容易だ。
「『パワースラスト』――は!?」
俺と槍使いが衝突する時――斜め横へと進行方向を変える。
フェイントを込めたそれは、思い通り彼に引っ掛かった様だ。
彼の武技……恐らく高威力の突き攻撃を躱して、そのままダッシュ。
ついでに脚も引っ掛けておく。
「うわッ……」
地面に転んだであろう彼を背後に、俺は魔法士へと突き進む。
先に後衛をやらないと、面倒な事になるからだ。
「くそ、ファイアーボール!」
迫る火球。
「――っ!」
周りに敵も居ない。
飛来するそれだけに注力出来るのなら――
《Reflect!》
「はぁ!?――ぐあッ……」
「『スラッシュ』」
「ぐッ――!」
反射成功、そして距離を近付け武技を放つ。
防御が薄いのだろう、衝撃で後ろに軽く吹き飛ぶ彼。
「――っの野郎!『パワースロー』!」
背後。
やけに『声』がするのが、早いとは思ったが。
コイツも……俺と同じ投擲持ちか。
「……な、何で――!」
背後からの迫る槍を、跳んで避ける。
立ち上がる音、殺気、そして『予測』……それら全てが判断材料。
これだけ便利な武技なんだ――そこら辺のプレイヤーが持っていてもおかしくないだろう。
ここまで分かって警戒しない訳がない。
彼がもう少し上手なら……食らっていたかもしれないが。
「――『パワースロー』」
「……はっ、同じ手なんて――!」
何時もの様にスチールアックスに切り替えて。
俺が投擲武技を発動すると同時に、彼はそれを避けようと向かって左に疾走。
『スラッシュ』、『ヘビィスウィング』。
武技は――ほんの少しだが動作をコントロール出来る。
アイススライムと戦った時からずっとお世話になっている技術だ。
やりすぎると不発扱いになってしまうから、あまり遅らせすぎてもダメなんだが。
この『パワースロー』も同じ。
俺が、もし目の前の彼だったなら――斧が完全に手を離れてから走り始めるだろうな。
「――ぐッ!?な、何で……」
その武技は彼の脚に命中し、こけて地面を転がっていく。
俺は武技を発動後動作を遅らせ、彼が疾走した瞬間に狙いを付けた。
走り始めたスピードと距離に合わせて投げれば――簡単に当たる。
同じ投擲でも、『使い方』が大事なんだ。
「ッ、『ファイアーボール』!」
「――っ……『スラッシュ』」
背後からの火球を予測して避け、魂斧を装備――武技を魔法士に与える。
この動きも、大分慣れたモノだった。
「ぐうッ――」
「ッ、くそがあ!今度こそ――『パワースロー』!!」
また吹っ飛ぶ魔法士。見ればかなりHPが減っている。
そして後ろからの投擲。
接近戦を挑まないのは、さっきの事があるからか?
「――っと」
「……あ、当たらねえ……」
何にせよ――当たらない攻撃を繰り返してくれるのなら本望だ。
容赦は無しで、徹底的に。
☆
「嘘だ、商人に負けるとか冗談じゃ――」
「……」
魔法士が死んでからは、より楽な勝負だった。
霧になっていく最後の一人。
……ただ、未だに『商人』という職業が、敵の油断に繋がっているのは否めない。
そりゃ、それは良い事なんだ。
油断は勝利の要因の一つ――それもかなり大きな。
でも……偶には、油断無しの闘いがしたい。
『ダスト』、『ベアー』……言えば『死闘』。
それは、兄に近付く為にも。
俺なんかが持つには、贅沢な悩みってのは分かってるんだけどさ。
「『スラッシュ』」
「――があッ……」
《経験値を取得しました》
《勝利した為、戦闘前の状態に全て回復します》
「ここだと経験値が入るんだな……それに回復までしてくれるのか」
これまで、プレイヤーと戦っても経験値は入らなかった。
スキルは別だが……このフィールドだと、モンスターの代わりにプレイヤーといった感じなのだろう。
回復もしてくれるのは、連戦で急に襲い掛かられた時に不利だからか。
「……それにしても――」
その言葉は独り言じゃない。
ずっと『最初』から――感じていた視線に対してだ。
「いつまで、
俺が先程の戦闘を終えてから、その視線は更に感じ取れた。
それは、斜め後ろの廃墟から。
屋根の上――小さな影。
《??? level35》
「……へへ、バレちゃった……」
聞こえたのは、か細い少女の声。
加えて――紛れもない、『PK職』だったのだ。
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