王都ヴィクトリア




「……凄いな」



入ってすぐ、玄関口らしく大きな噴水がある場所。

きっとここは待ち合わせに使われているんだろう……プレイヤーが特に多い。



「早くダンジョン行こうぜー」「いやまず露店寄ってからな」

「お前もうレベル四十超えたのかよ!」「はは、俺はこのゲームに人生賭けてんだわ!」

「ねえ、ギルド行こうよ~」「はいはい――え、あの人……」



実際に歩いてみるのとムービーで見る光景は、それぞれ違うものだ。

多くのプレイヤー達がそれぞれ話し、目的の場所に歩いている。

活気が溢れ――完全にもう一つの世界だ。


その中の一人が俺である事が、凄く楽しく思える。

RL――辞めないで良かったな。


……ただ、一つ。



「……ウソ!商人だ!」「ほんとだ、珍しー!」「あれ、でもどこかで見た名前のような……」

「王都じゃ初めて見た」「スクショとっとこ」「馬鹿お前やめろって!」

「ここまで来たって事は――ボス倒したって事か……?」「どうせどっかのパーティーにくっ付いて来たんだろ」



まさか、ここまで来ても悪い意味で注目を浴びるとは思ってなかった。


まあ――これだけ人が多いから仕方ないんだが。

自分のこの職業がどういう扱いなのか、今一度思い知らされた気がするな。



「――まあ、いいか」



ずっとこういった視線は浴びて来たし、中にはフレンドになってくれたプレイヤーも居る。


外なだけあって――まだ逃げられる。

ギルドの時とは違って楽なもんだ。


せっかくなんだし、精一杯楽しもう。

……って訳で。



「メニュー、マップ、案内メニューと……」



アナウンス通りにすると――画面に多くの場所が現れる。

……本当に、これまでのマップとは規模が桁違いだ。





アレから、案内メニューと睨めっこする事数分。


ある程度だが、このマップの全体は掴めてきた――



この王都には、およそ3つの区画がある。

数多くのアイテム、露店が集まる商業エリア。

スキル取得や転職を行うような職業ギルドが集うギルドエリア。

多様な生産用施設に生産職が集い、物を作る工業エリア。


方角で言えば、まず南に出れば戦闘フィールドが広がる。

西が工業エリア、東がギルドエリア、商業エリアは北よりに中央。

そして、更に北に行けば――があった。



非戦闘エリアだけでもこの広さ。

モンスター達が居る戦闘エリアは流石に案内メニューに無い――恐らく自分の足で進めという事だろう。ネタバレにも程があるしな。

勿論後で行くつもりだが、今はこの場所を歩いてみよう。


ギルドエリア、工業エリアにはまだ用は無い。

転職条件?は分からないがアナウンスも無いから満たせていないだろうし。

工業エリアには行っても何もできないし。



「行くなら商業エリアか」



俺の財布には、さっき貰った百万Gがある訳だしな!





王都ヴィクトリア、商業エリア。


まず目についたのは――沢山の『露店』の数々だ。

沢山の武器、防具、素材アイテム……他様々な商品が地面にずらっと置かれており、中々に圧巻。



「……見たこと無いモノだらけだな」



プレイヤーは、この中から好きな商品を選んで、購入する事が出来る。

取引掲示板と違い実際に見て買えるし、露店主にメッセージを残せたりも。

思わぬ掘り出し物も見つけやすいだろうし――何より歩いていて楽しい。



【土亀の盾 105999G】

【ヴィクトリアストーン 20000000G】

【幻竜の太刀 9999999G】



並ぶアイテム達は、今の俺には絶対に手が出ないが。



「餓鬼王の冠、20M(ミリオン)Gから~」


「火竜の大剣30M!交渉受け付けます!!」


「おっ、それ買ったー!」



そして露店にはプレイヤーが居る事もある。

自分の売るアイテムを宣伝できるのも、露店の魅力の内の一つだろう。



「アタシが愛情込めて作ったリリィのアクセサリー、新着十個限定で売りまーす♪」


「買います」

「リリちゃーん!俺、数制限無いなら全部買うぞ!」

「おい!お前ふざけんな――」



商業エリアの一角。

アイドルの様な格好をした露店主に、押し寄せる男プレイヤー達。


……あまり、見たくない光景だ。



「はいはーい♪即完売ありがとうございます!私の配信も見てくださいね♪」



笑いながら、周りのプレイヤー達に手を振る彼女。

一瞬ハルが脳裏に浮かんだが――消してすぐに心の中で謝罪した。ハルは一番こういう事をしなさそうなイメージがある。何でかは分からないが。


まあともかく……モノの売り方ってのは色々な方法があるんだな。


商人として、そこだけは学んでおこう。






【筋力のスチールアーマーメイル+3】


装備可能条件 level35以上 STR35以上


STR+20 DEF+35 MDEF+25


属性[ステータス上昇]付与品。

銀を元に造られた鎧。

鋼防具よりも格段に防御性能がアップした。

またステータス上昇効果を持つ。


レアリティ:4


製作者:アイアン

製作者コメント:――


価格:1500000G




結局。


かなり探して、手が出そうなモノはこれだけだった。

まあ――今回は止めておこう。俺の持っていた百万が、少ない額に見えてくるよ。



「今の俺には、早すぎたみたいだな……」



マップを見ながら、そのまま『北』へ歩いていく。

商業エリアは、またの機会に。



……ちなみにそこまで俺が落ち込んでいないのは――次に向かう先が、もっと楽しみだったからだ。






王都ヴィクトリア。


それはこのマップの最北端。

商業エリアを真っ直ぐ北へ行けばそこがある。

名を――『デッドゾーン』。


平和そうなこの街に、不相応なその名前。



《本当に、この先に進みますか?》



進むたび、そこは暗くなっていく。

プレイヤーも居ない。

聞こえるのは、そのアナウンスだけ。



「……さて、どんなものか――」



《専用フィールドに移動します》


《王都郊外:デッドゾーンに移動しました》


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