王都ヴィクトリア
☆
「……凄いな」
入ってすぐ、玄関口らしく大きな噴水がある場所。
きっとここは待ち合わせに使われているんだろう……プレイヤーが特に多い。
「早くダンジョン行こうぜー」「いやまず露店寄ってからな」
「お前もうレベル四十超えたのかよ!」「はは、俺はこのゲームに人生賭けてんだわ!」
「ねえ、ギルド行こうよ~」「はいはい――え、あの人……」
実際に歩いてみるのとムービーで見る光景は、それぞれ違うものだ。
多くのプレイヤー達がそれぞれ話し、目的の場所に歩いている。
活気が溢れ――完全にもう一つの世界だ。
その中の一人が俺である事が、凄く楽しく思える。
RL――辞めないで良かったな。
……ただ、一つ。
「……ウソ!商人だ!」「ほんとだ、珍しー!」「あれ、でもどこかで見た名前のような……」
「王都じゃ初めて見た」「スクショとっとこ」「馬鹿お前やめろって!」
「ここまで来たって事は――ボス倒したって事か……?」「どうせどっかのパーティーにくっ付いて来たんだろ」
まさか、ここまで来ても悪い意味で注目を浴びるとは思ってなかった。
まあ――これだけ人が多いから仕方ないんだが。
自分のこの職業がどういう扱いなのか、今一度思い知らされた気がするな。
「――まあ、いいか」
ずっとこういった視線は浴びて来たし、中にはフレンドになってくれたプレイヤーも居る。
外なだけあって――まだ逃げられる。
ギルドの時とは違って楽なもんだ。
せっかくなんだし、精一杯楽しもう。
……って訳で。
「メニュー、マップ、案内メニューと……」
アナウンス通りにすると――画面に多くの場所が現れる。
……本当に、これまでのマップとは規模が桁違いだ。
☆
アレから、案内メニューと睨めっこする事数分。
ある程度だが、このマップの全体は掴めてきた――
この王都には、およそ3つの区画がある。
数多くのアイテム、露店が集まる商業エリア。
スキル取得や転職を行うような職業ギルドが集うギルドエリア。
多様な生産用施設に生産職が集い、物を作る工業エリア。
方角で言えば、まず南に出れば戦闘フィールドが広がる。
西が工業エリア、東がギルドエリア、商業エリアは北よりに中央。
そして、更に北に行けば――
非戦闘エリアだけでもこの広さ。
モンスター達が居る戦闘エリアは流石に案内メニューに無い――恐らく自分の足で進めという事だろう。ネタバレにも程があるしな。
勿論後で行くつもりだが、今はこの場所を歩いてみよう。
ギルドエリア、工業エリアにはまだ用は無い。
転職条件?は分からないがアナウンスも無いから満たせていないだろうし。
工業エリアには行っても何もできないし。
「行くなら商業エリアか」
俺の財布には、さっき貰った百万Gがある訳だしな!
☆
王都ヴィクトリア、商業エリア。
まず目についたのは――沢山の『露店』の数々だ。
沢山の武器、防具、素材アイテム……他様々な商品が地面にずらっと置かれており、中々に圧巻。
「……見たこと無いモノだらけだな」
プレイヤーは、この中から好きな商品を選んで、購入する事が出来る。
取引掲示板と違い実際に見て買えるし、露店主にメッセージを残せたりも。
思わぬ掘り出し物も見つけやすいだろうし――何より歩いていて楽しい。
【土亀の盾 105999G】
【ヴィクトリアストーン 20000000G】
【幻竜の太刀 9999999G】
並ぶアイテム達は、今の俺には絶対に手が出ないが。
「餓鬼王の冠、20M(ミリオン)Gから~」
「火竜の大剣30M!交渉受け付けます!!」
「おっ、それ買ったー!」
そして露店にはプレイヤーが居る事もある。
自分の売るアイテムを宣伝できるのも、露店の魅力の内の一つだろう。
「アタシが愛情込めて作ったリリィのアクセサリー、新着十個限定で売りまーす♪」
「買います」
「リリちゃーん!俺、数制限無いなら全部買うぞ!」
「おい!お前ふざけんな――」
商業エリアの一角。
アイドルの様な格好をした露店主に、押し寄せる男プレイヤー達。
……あまり、見たくない光景だ。
「はいはーい♪即完売ありがとうございます!私の配信も見てくださいね♪」
笑いながら、周りのプレイヤー達に手を振る彼女。
一瞬ハルが脳裏に浮かんだが――消してすぐに心の中で謝罪した。ハルは一番こういう事をしなさそうなイメージがある。何でかは分からないが。
まあともかく……モノの売り方ってのは色々な方法があるんだな。
商人として、そこだけは学んでおこう。
☆
□
【筋力のスチールアーマーメイル+3】
装備可能条件 level35以上 STR35以上
STR+20 DEF+35 MDEF+25
属性[ステータス上昇]付与品。
銀を元に造られた鎧。
鋼防具よりも格段に防御性能がアップした。
またステータス上昇効果を持つ。
レアリティ:4
製作者:アイアン
製作者コメント:――
価格:1500000G
□
結局。
かなり探して、手が出そうなモノはこれだけだった。
まあ――今回は止めておこう。俺の持っていた百万が、少ない額に見えてくるよ。
「今の俺には、早すぎたみたいだな……」
マップを見ながら、そのまま『北』へ歩いていく。
商業エリアは、またの機会に。
……ちなみにそこまで俺が落ち込んでいないのは――次に向かう先が、もっと楽しみだったからだ。
☆
王都ヴィクトリア。
それはこのマップの最北端。
商業エリアを真っ直ぐ北へ行けばそこがある。
名を――『デッドゾーン』。
平和そうなこの街に、不相応なその名前。
《本当に、この先に進みますか?》
進むたび、そこは暗くなっていく。
プレイヤーも居ない。
聞こえるのは、そのアナウンスだけ。
「……さて、どんなものか――」
《専用フィールドに移動します》
《王都郊外:デッドゾーンに移動しました》
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