特殊クエスト:エリアの夢③




「……もうすぐか」



草木を掻き分け、その方角へ進む。

そして――



『――誰だ!』


『――あっちから来やがった!やるぞ!』



《悪党A LEVEL35》

《悪党B LEVEL35》



すぐ目の前。

どうやらあちらもこっちに来る様子だった。


見れば、ナイフを持つ者が二人。

名前からして、コイツらがこのクエストの敵だろう。

PK職の敵NPC。見た事ないタイプだな。



……でも大丈夫、心構えは出来てる。

俺は――魂斧を振りかぶった。



「――っ、らあ!」



走り、先制で斧を振り下ろす。



『ぐっ――』



……そのまま食らう悪党。

何故か一人は突っ立ったままだ。



『くっ、おい!』


『くそ――おらあ!』



起き上がった一人は、俺にナイフを構えて突っ込む。

……分かり安すぎて――逆に不安になる攻撃だった。



「――『パワースウィング』」


『がはぁ!!』


『くっ、おい!負けんなよ!』



避ける動作を最低限に、武技を彼に打ち込む。


その間ももう一人は立ち尽くしたまま。


……ああ、そうだったな。

この悪党達は――『プレイヤー』じゃないから優しいんだ。

恐らく俺が一人だから、コイツらも一人ずつ向かって来る様になっているのか。



「……これじゃ、さっきまでの方が良かったな」


『ぐへえ!!』



呟きながら、俺は悪党達に刃を振り下ろす。

モンスター達は遠慮なく同時に襲ってくるってのに、優しすぎるってもんだ。


……こんな事なら、あんなに意気込むんじゃなかった。





『ぐっはああ!』


「……」



面白いぐらい叫んで吹っ飛ぶ悪党達。


魂斧には人型モンスターへのダメージ増大効果がある。

そのおかげで――かなりの勢いで彼らのHPは削れていった。



『クソッ、タダで済むと思うなよ――!ぐはぁ……』



《経験値を取得しました》


《悪党のナイフを取得しました》



「……死に際もお手本通りかよ」



どこかの映画で見た様な捨て台詞を吐いて、彼らは居なくなる。


……まあ良いか。

これでクリアなら、楽なクエストだった。



「戻るか」



エリアが待っている。

俺は、そこへ引き返していった。





「……」



歩けども、俺はそのスピードをだんだんと速めていく。

……日本人は、上手く事が行き過ぎると不安になる厄介な癖があるらしい。


ただ。

今は――それ以上に、嫌な予感がしたんだ。



《――「通り行く積荷を狙う悪党達が出るらしいね」――》



蘇るロアスの言葉――『』。


『積荷』――それを持っているのは、俺じゃない。エリアだ。


……まずい。

失念していた――悪党ってのは、アイツらだけじゃ無い可能性だってある。

それもこの道のそこら中に潜めているかもしれない。

むしろ、それが悪党のセオリーといっても過言ではないか。




「――くっ、何も無いならそれで良いんだが――」



過る予感。

それを掻き消す様に、俺は彼女の方へ走っていった。






走って、見えた光景。

脅す様に小剣をエリアの背中に突き付けている『悪党』。



《悪党C LEVEL35》



「……あ、あ……ニシキ、さま……」


『――!?アイツらは何やってんだ!まさか……』



……嫌な予感は、当たるモノ。

思わず地面を踏み締める――この事態を招いたのは俺の失態だ。



『――っと!それ以上近付けばコイツの命は無いぜぇ?』


「ごめんなさい、ニシキさま……」



俺を見るやいなやエリアの首にナイフをかざす悪党。

涙目でこちらを見ながら謝るエリア。

……ゲームといえども、罪悪感で浸される。


『彼女を一緒に連れて行っていれば』

『荷車を俺が持って行っていれば』


後悔。

でも――起こった事は仕方ない。

何とかしなければ。



「……エリアを、返してくれ」


「ハハハ!ダメだね――コイツは『人質』、渡すもんかよ」


「……質問を変える。何が欲しいんだ?」


「そりゃこの荷車……お、後テメエ『商人』じゃねえか!Gも寄越せ、ギャハハハ!!」



悪党は下品な大声でそう言って、笑う。

NPCといえども――この腹立たしさは凄いもんだ。


……荷車は、エリアが王都で必要なモノが詰まっている。

絶対に渡せない。

でも――この状態じゃ、俺が手出ししようものなら確実に彼女が傷付いてしまう。



「くっ……」


『ハハハハハ!俺の仲間を倒した様だがここまでだな!!おら、テメエはさっさとG袋でもよこせや!』



更にエリアに近付き、彼女の首に剣先をぶらぶらと遊ばせる。



「ニシキさま……私は、大丈夫ですから……ごめんなさい」



……どうする。

素直にGを投げるか。


でも、それじゃただの一時しのぎ――駄目だ。


渡すモノを、変えるんだ。



「……聞け。お前がもし、エリアと荷車を連れていくのなら……俺は、お前を死ぬまで追いかける」


『……ハ?お、脅しのつもりかよ!無駄だ、俺には人質が――』



……エリア、ごめん。

少しだけ嘘をつかせてくれ。



「――『だから』、どうした?お前を殺せば、残った荷車は俺のモノだ。それとお前の仲間二人は俺が殺した……お前は戦力的に大いに負けてるんだよ」


『――!!は、ふざけんなよテメエ!イカれてんのか!?』


「に、ニシキさま……?」



わざと、言葉を暴力的に。

ゆっくりと、俺は近付く。

悪党はエリアの首元に刃をぴったりとくっ付ける。


……荷車、エリア。

この二つにコレが釣り合うかどうか分からないが――




「――提案だ。

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