特殊クエスト:エリアの夢④
「――提案だ。
『……アァ?』
「俺の命の代わりとして、彼女と荷車は手放すんだ。絶対に手を出すな」
『そ、それじゃ何も――』
「――『脅威』は消える。もし俺が生きていれば、武器が無くてもお前を殺す。試してみるか?」
睨みつけ、斧の刃を彼に向けて。
「……俺が約束を破りそうになれば、直ぐにでも彼女を殺すと良い。さあ、どうする?」
殺気の圧を掛けながら、畳みかける様に問いただす。
……乗ってくれ。頼む。
『ハ、ハァ……?で、でも……そうか、そ、そうだな……それで良い!』
「――なら、好きにするといい」
これでいい。
悪党達を倒しておいたから、説得力が上がって良かったな。
ゲームだからこその選択だろう。
「に、ニシキさま――おやめ下さい!」
『チッ、お前は黙って――』
「……
『ヒッ、分かってるって!』
エリアに怒鳴る彼に、武器を前に構えて言うと動きが止まった。
……俺程度の殺気に怖気づく様なら、程度は知れる。
「――それじゃ、早く俺を殺せ……エリア、王都で頑張るんだぞ」
武器を地面に投げ捨て、彼女にそう言う。
ごめん、エリア。
そんな小さな姿には――ちょっと残酷なシーンかもしれないな。
NPCといえども心が痛むが仕方ない。
俺は……そのまま、手を上げて『降伏』のポーズをする。
ここで襲っても良いが――万が一だ。
『――ハハ、こんなガキの為にご苦労なこった――!!』
「ぐっ……エリア、目は伏せててくれ」
「に、ニシキさまー!!」
『ギャハハハハ!』
「っ――」
そうして、俺は嬲られていった。
☆
《貴方は死亡しました》
そのアナウンスが流れていったのは、それから直ぐ。
……さて。
経過を眺めておこうか。
『オイオイほんとに死んだぜ!こんなガキの為に!』
「う、うっ、ニシキ、さま……本当に、死んじゃった……う、うそだ……」
『ハハハハハ!約束なんて守る訳ねえってのにな!!』
「……!?や、やめてください!」
『おらっ来い!テメエは荷車でも押しとけ!』
「うっ、うっ……ニシキさま……こんな事なら王都なんて――」
背中を蹴り、強引に荷車を引かせる悪党。
……これまでのPKKで、こういった奴らには慣れてる。
約束なんて守る訳が無い。当たり前の事だ。
中身に人が入っていないから――コイツはまだ『温い』。
ゲームシステムの一つ。そう考えられる。
でも。
怒りが湧かない訳じゃない。
『冷静』に、かつ『慎重に』――お前を殺してやるさ。
《黄金の蘇生術を使用します》
《256783Gを消費しました》
距離にして二メートル先。
俺は――彼が背中を向けた瞬間に、蘇生術を使用した。
《黒の変質が発動します》
荷車が動く音に紛れるよう――できる限り音を立てずに移動する。
刀に変わっていく魂斧を握り直しながら。
やがて俺は、悪党の首に刃を添わせた。
『――ぇ?』
自分が油断している事にすら、彼は気付いていないのだろう。
全く、やりやすくて助かったよ。
「――っ」
『グあッ!!ヒっ――』
そのまま足を引っかけて。
転んで地面に寝そべった所に、背後から首元へ刃を突き立てる。
……これまでの様子が嘘のように静かになったな。
「に、ニシキさま!?生きて――ニシキさまー!!」
「――エリア。ちょっと目を瞑っててくれ」
「え、は、はひ!ぁ――」
「はは、ごめんな」
悪党の首に刃を食い込せながら、近寄ってきたエリアの目元に優しく手を添える。
これから始まる光景は――子供には見せられないから。
『あ、あの……命だけは……』
「――はは、面白い事を言うな。俺の命は取ったのにか?」
『あ……か、金ならやる!』
「……『スラッシュ』」
『がああああ!!』
☆
《経験値を取得しました》
「……ふう。やっぱり弱かったな」
案の定あの二人と同レベルであり、変わったのは武器ぐらいだ。
……強さはどうあれ、厄介だったけどな。
おかげでGも減ってしまったし――が、俺の安直な行動の対価にしては安い。
「うっ、うう……ニシキさま……いぎでで良がっだぁ……」
「ははは」
後、この小さな彼女も。
泣きじゃくりながら、エリアは俺の背中にくっついて泣いていた。
この少女にも随分怖い思いをさせてしまった訳だし。
……それにしても、えらく懐かれてたんだな。
この様子がアレから数分続いている。
「……ニシキさまぁ……」
大分落ち着いたか、声と表情が和らいでいく。
そういえば……こんな泣きじゃくる彼女を見ていると、妹の事を思い出すな。
『舞』、元気にしてるだろうか。
この年の頃の彼女は……兄さんが修行で構ってやれなかったから、よく俺が構っていたんだっけ。
まあ――俺が心配する事じゃない。自分と違って武芸の才もあった。
……絶対に無いだろうが、今闘ったら三秒で死ぬ。もちろん俺が。
シルバーだったり妹だったりを思い出して、エリアはなぜか他人って気がしない……。
「……落ち着きました、はい」
「そりゃ良かった」
服で涙を拭いながら、目元を腫らして言う彼女。
……背中がえらく濡れている。本当に怖い思いをさせてしまったのだろう。
これじゃ、ロアスに怒られてしまうかもしれないな。
「行こうか、エリア。王都が待ってる」
「……!はい!」
エリアに声をかけて、俺達はまた前に進んでいく。
後は、ゴールへ向かうだけだ。
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