特殊クエスト:エリアの夢④



「――提案だ。


『……アァ?』


「俺の命の代わりとして、彼女と荷車は手放すんだ。絶対に手を出すな」


『そ、それじゃ何も――』


「――『脅威』は消える。もし俺が生きていれば、武器が無くてもお前を殺す。試してみるか?」



睨みつけ、斧の刃を彼に向けて。



「……俺が約束を破りそうになれば、直ぐにでも彼女を殺すと良い。さあ、どうする?」



殺気の圧を掛けながら、畳みかける様に問いただす。

……乗ってくれ。頼む。



『ハ、ハァ……?で、でも……そうか、そ、そうだな……それで良い!』


「――なら、好きにするといい」



これでいい。

悪党達を倒しておいたから、説得力が上がって良かったな。


ゲームだからこその選択だろう。



「に、ニシキさま――おやめ下さい!」


『チッ、お前は黙って――』


「……、約束を破るのか?」


『ヒッ、分かってるって!』



エリアに怒鳴る彼に、武器を前に構えて言うと動きが止まった。

……俺程度の殺気に怖気づく様なら、程度は知れる。



「――それじゃ、早く俺を殺せ……エリア、王都で頑張るんだぞ」



武器を地面に投げ捨て、彼女にそう言う。

ごめん、エリア。

そんな小さな姿には――ちょっと残酷なシーンかもしれないな。


NPCといえども心が痛むが仕方ない。


俺は……そのまま、手を上げて『降伏』のポーズをする。

ここで襲っても良いが――万が一だ。



『――ハハ、こんなガキの為にご苦労なこった――!!』


「ぐっ……エリア、目は伏せててくれ」


「に、ニシキさまー!!」


『ギャハハハハ!』


「っ――」



そうして、俺は嬲られていった。





《貴方は死亡しました》



そのアナウンスが流れていったのは、それから直ぐ。

……さて。


経過を眺めておこうか。



『オイオイほんとに死んだぜ!こんなガキの為に!』


「う、うっ、ニシキ、さま……本当に、死んじゃった……う、うそだ……」


『ハハハハハ!約束なんて守る訳ねえってのにな!!』


「……!?や、やめてください!」


『おらっ来い!テメエは荷車でも押しとけ!』


「うっ、うっ……ニシキさま……こんな事なら王都なんて――」



背中を蹴り、強引に荷車を引かせる悪党。


……これまでのPKKで、こういった奴らには慣れてる。

約束なんて守る訳が無い。当たり前の事だ。

中身に人が入っていないから――コイツはまだ『温い』。

ゲームシステムの一つ。そう考えられる。


でも。

怒りが湧かない訳じゃない。

『冷静』に、かつ『慎重に』――お前を殺してやるさ。



《黄金の蘇生術を使用します》


《256783Gを消費しました》



距離にして二メートル先。

俺は――彼が背中を向けた瞬間に、蘇生術を使用した。



《黒の変質が発動します》



荷車が動く音に紛れるよう――できる限り音を立てずに移動する。


刀に変わっていく魂斧を握り直しながら。

やがて俺は、悪党の首に刃を添わせた。



『――ぇ?』



自分が油断している事にすら、彼は気付いていないのだろう。

全く、やりやすくて助かったよ。



「――っ」


『グあッ!!ヒっ――』



そのまま足を引っかけて。

転んで地面に寝そべった所に、背後から首元へ刃を突き立てる。


……これまでの様子が嘘のように静かになったな。




「に、ニシキさま!?生きて――ニシキさまー!!」


「――エリア。ちょっと目を瞑っててくれ」


「え、は、はひ!ぁ――」


「はは、ごめんな」



悪党の首に刃を食い込せながら、近寄ってきたエリアの目元に優しく手を添える。


これから始まる光景は――子供には見せられないから。



『あ、あの……命だけは……』


「――はは、面白い事を言うな。俺の命は取ったのにか?」


『あ……か、金ならやる!』


「……『スラッシュ』」


『がああああ!!』





《経験値を取得しました》



「……ふう。やっぱり弱かったな」



案の定あの二人と同レベルであり、変わったのは武器ぐらいだ。

……強さはどうあれ、厄介だったけどな。


おかげでGも減ってしまったし――が、俺の安直な行動の対価にしては安い。



「うっ、うう……ニシキさま……いぎでで良がっだぁ……」


「ははは」



後、この小さな彼女も。

泣きじゃくりながら、エリアは俺の背中にくっついて泣いていた。

この少女にも随分怖い思いをさせてしまった訳だし。


……それにしても、えらく懐かれてたんだな。

この様子がアレから数分続いている。



「……ニシキさまぁ……」



大分落ち着いたか、声と表情が和らいでいく。

そういえば……こんな泣きじゃくる彼女を見ていると、妹の事を思い出すな。

『舞』、元気にしてるだろうか。

この年の頃の彼女は……兄さんが修行で構ってやれなかったから、よく俺が構っていたんだっけ。


まあ――俺が心配する事じゃない。自分と違って武芸の才もあった。

……絶対に無いだろうが、今闘ったら三秒で死ぬ。もちろん俺が。


シルバーだったり妹だったりを思い出して、エリアはなぜか他人って気がしない……。



「……落ち着きました、はい」


「そりゃ良かった」



服で涙を拭いながら、目元を腫らして言う彼女。


……背中がえらく濡れている。本当に怖い思いをさせてしまったのだろう。

これじゃ、ロアスに怒られてしまうかもしれないな。



「行こうか、エリア。王都が待ってる」


「……!はい!」



エリアに声をかけて、俺達はまた前に進んでいく。

後は、ゴールへ向かうだけだ。

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