特殊クエスト:エリアの夢②



「……え、一人ですか?」


「あ、ああ……」



ラロシアアイス、辺境。

一応HPとMPの回復アイテムを購入しておいて、再度戻った所だ。


そして、当然の様に俺は一人で行った。


……ハルはこの時間は配信で忙しいだろうし、『熊二人』はまあもっと忙しいだろうから。あとは他の商人のフレンドには話しかけにくい。……というか、なんでまだ俺をフレンドリストに残してくれているのか不思議でならない。


正直――俺、一緒に遊ぶフレンド少ないよな。


……止めよう。商人でこうしてフレンドを組んでくれた人達を大事にしないと。

もしかしたら、次のマップでまた新しい出会いがあるかもしれない。



「……だいじょうぶですか?」


「――大丈夫だ」



今までほとんどソロでやってきた訳で。

彼女の不安を拭う様、俺はそう言い切った。



《なお失敗した場合、再チャレンジは不可です》


《パーティーでの参加をお勧めしますが、よろしいですか?》



……。

まさか、NPCだけでなくアナウンスからも心配されるとは。


俺は、黙って『はい』を選ぶ。



「『ニシキ』が言うんだから大丈夫さね。ほら、しっかり押しな」


「……わ!ちょっと待ってよ――」


「あとこれ。あっちに着いたら読むんだよ」


「え?わ、わかった」



積荷と手紙の様なモノを渡されたエリア。

いつもの行商の時の積荷とは違い、大きさは小さかった。

それでも――エリア自身が小さいから同じぐらいのサイズ感だな。



「それじゃ――行ってきな!」


「は、はーい!」


「……エリアを頼んだよ、『ニシキ』」


「ああ」



老婆の声は、寂しさが伺える。


……そんなかなり世話になったロアスの見送りと共に。

俺達は――新マップへの道に飛ばされた。





《クエスト開始に伴い、専用フィールドに移動します》


《クエストを開始します》



辺境から飛ばされたのは、ラロシアアイスのフィールドボスと戦った場所だった。


スタジアムのような円形に見える大きな場所。

違うのは、暗い雰囲気で光も無くなっていたのが、明るくて緑も見えていた事。



「……あれは……」



歩きながら呟く。

戦ってきた時は見えなかった、先にある出口の様な場所がぽっかりと空いていた。

そこにはまるで全く違う場所の様に、明るい光が差し込んでいる。


分かりやすく、そこからスタートって感じだ。



「行こうか、エリア」


「!はい……ニシキさま」



……この子と積荷の両方、守ってやらないとな。


心してかかろう。

きっと――そこへ進めば、ナニカが襲ってくるはずだ。






「……きれい」


「そうだな」



ラロシアアイスは、ほぼ一面が雪だらけだった。


しかし――今進んでいる道は、緑と雪が半々ぐらいだろうか。

溶けかかった雪と力強く映える植物。

それらが日光に照らされ、幻想的に映っている。


だが――そんな光景を、ゆっくり眺めている暇は無いらしい。



「……!来るぞエリア。下がっててくれ」


「は、はい!エリア下がります」



《アイスウルフ LEVEL36》

《アイススライム LEVEL36》



前方。現れたのは二体のモンスターだった。


……これ、同時に襲ってくるよな。



『グルァア!!』

『ピィ!!』



自惚れている訳ではないが、この二体のモンスターは余裕だと思っている。

――『単体なら』。



「――っ!」



ウルフは直線的に飛び掛かり攻撃を。

そして背後のアイススライムが――遠距離攻撃で別方向から襲い掛かる。



「くっ――らあ!」



何時もならウルフの飛び掛かりは簡単に反撃出来る。


でも――今はそうじゃない。

追撃に対応する為、ウルフの飛び掛かりを避けた後に斧をソレに振り当てた。



《Reflect!》



『ピィ……』


「よし!」



久しぶりのアイススライムだったが、何とか反射出来た。

跳ね返った氷で吹っ飛ぶスライム。


その隙に――



「『スラッシュ』」


『グルァ!?』



飛び掛かろうとしたアイスウルフに武技を放てば、かなりのHPが削れた。

……少し焦ったが、これは何とかなりそうだな。




《経験値を取得しました!》


「……ふぅ」



あれからはノーダメージでクリア。

同じ二体が合計三回出没したが、一度経験したら余裕だった。


気のせいか、雪の量が減っている気がする。



「す、すごいですニシキさん!お強いんですね!」


「はは、ありがとう」



一緒に歩いているエリアは、表情が少し明るくなっていた。

……俺が最初に一人で来た時とは大違いだ。信頼され始めたのなら良いけどさ。



「あまりあなたの職業は戦闘しないイメージだったんですけど、全くですね!」


「ははは……」



生産職はNPCでもそういう認識なんだろう。彼女は笑ってそう言った。


……思わず苦笑してしまう。俺も少し前までは戦闘なんてしないモノだと思ってたからな。



「君のおばあちゃん……ロアスさんは、宝石職人だったな。君もそうなのか?」


「はい!……見習い、ですけど。王都に行って『しゅぎょう』するんです」


「そっか。それは立派だな」


「へへ~」



頬を緩める彼女は、まだまだ小さい子供だ。

……俺がこんな年だった頃は――



《――「何で『普通』にすらなれないの!?花月の姓を持ちながら!」――》


《――「……新と舞は良かったがお前は……『外れ』だな。刀を持つ身として失格だぞ、この花月の面汚しが」――》



「……」



幼少の記憶。

縁を切った両親の声。

――思い出したくないモノ。



……忘れよう。

前もそう思ったはずなのに、ふとした瞬間出てくるのは厄介なもんだ。



「……ニシキさま?」


「!ご、ごめんごめん――っと、モンスターだな、エリアは下がってくれ」


「はい!」



《アイススタッグ LEVEL38》

《アイスバード LEVEL38》



鹿と鳥。

見えたのは、まるでフィールドボスが小さくなった様なモンスター達だった。



『ビィ!』

『ピィ!』


似たような鳴き声の二体。

俺の元へ突っ込む鹿と、上空へ舞い上がる鳥。



「――っ、『スラッシュ』」


『ビィィ!?』



舞い上がる鳥は置いておいて、まずは鹿に一撃を加えると怯んだ。

ダメージは大きそうだが、ウルフより遅い。


対処は容易い、でも――



『――ピッ!』


「……っと!らあ!」



《Reflect!》


上空から羽の形をした氷を飛ばしてくる。

早さで言えば弓使いの矢ぐらいのスピードとほぼ同じ。


だから運良く、タイミングが合った……が。



「――避けた!?」



上空のアイスバードは、華麗に滑空し氷の羽を避ける。

……何気に初めてだった。反射した攻撃を避けられるのは。


このままじゃ不味い――走って俺は鹿から距離を取る。



「っ――くそ、『スラッシュ』!」


『……ピ!』



再度突っ込む鹿を避けてカウンター。

そして羽を飛ばす鳥。



「――ぐっ!」



焦って体勢が崩れた。

今度は避け切れず、羽の一撃を掠ってしまう。



「……はは、ウザったいな……」



アイスバードのそれは、アイススライムの遠距離攻撃のほぼ上位互換だ。


スピードは上、自身の飛行能力と射程。

……久しぶりに手こずりそうだな。


でも――楽しくなってきた。

俺は、装備を魂斧からスチールアックスへ変更。

そして魂斧はもう一度インベントリから出して地面に刺した。



『ビィィ!!』


「お前は、一先ず放置だな――『高速戦闘』!」



瞬間、二分の一の世界へ変化。

鹿の突進は、普通じゃ余裕で避けられない。その後体勢を崩して鳥から一撃を貰ってしまう。


だから使った。そして――次の一手の為にも。



「『パワースウィング』――」


『ピ!!』


《Reflect!》



二分の一の世界。


突進を避けて、そのまま進んでいくアイススタッグを後目に。

アイスバードが攻撃する前に武技を発動――そして、何とか反射に成功する。


その高威力なパワースウィングにより跳ね返った一撃はかなり早い。

だが――



『ピピッ』



レッドアイススライムの時は、氷柱の一撃をパワースウィングで跳ね返して倒した。

……コイツは、それすらも避けてのけたのだ。



「――逃すか!」



ただ――流石に、『二度』は無い。

高速戦闘も使ったんだ、タダでは帰さない。



「らあ!」


『ピッ――!?』



上空に投げたスチールアックス。


それは、確かにアイスバードを捉えた。

落ちてくる鳥。その前に――



『――ビィィ!!』


「――『スラッシュ』」


『ビィ……』



魂斧を拾い上げ突進する鹿に攻撃すれば、コイツも倒れた。

……絶好のチャンスだな。



「っと――『パワースウィング』!」


『ピ!?』


「……『スラッシュ』!」



落下してきたアイスバードへの追い打ち。


飛び上がろうとする瞬間にも武技を入れれば――また地面へと落下した。


……卑怯かもしれないが、死ぬまで飛ばしはしないぞ?





あれからアイスバードを落下させ続け、アイススタッグも相手する事十分程。


体力三割からの変化が特に無かった為少し拍子抜けだったが――厄介な事には変わりない。

それでも、この鳥を封じ込めば余裕で相手出来た。


通常攻撃でも落ちてくれるから、『当たりさえすれば』楽だったんだ。



「『パワースウィング』!」


『ビィ……』



《経験値を取得しました!》



アイススタッグの突進に合わせ、斧を振りかぶる。

そして武技を放てば……あっけなく終わった。

鹿に関しては大鹿と比べ大分弱くなっていたから余裕だった。


遠距離からの攻撃はなく、突進だけだったからな。



「ふう」


「凄い凄い!お見事でした!」



隠れていたエリアが、草陰から出てきて拍手する。

何というか……愛らしい姿だった。

AIってのは凄いもんだ。


……何か、脳裏にどことなくシルバーが現れてくる。



「はは、ありがとうエリア」


「えへへ――これなら王都までも無事に辿り着けそうですね!もうすぐそこです!」


「……そういえば、どうして王都まで行く必要があるんだ?」



純粋に気になっていた事だった。

こんな小さい少女が、危険な道を通ってまで王都に行きたい理由。



「ふっふっふ!よく聞いてくれましたね!それは……王都はたっくさーんの本があるからです!後すごい職人さん達も一杯いるんです!」



小さな身体でパーッと手を広げ、大きな声で言う彼女。



「それで行く行くは、ロアスさんみたいにか?」


「そうです!」


「……王都なんて行かずとも、彼女に学んだらいいんじゃないか?」



空気を読めないかもしれないが、俺はそう聞いた。

でも――エリアは、表情を変えない。



「――それなら、ロアスおばあちゃんを超えれないじゃないですか!!王都で沢山の知識を得て――私はもっと凄いモノを作るんです!ふん!」


「……!」



胸を張る彼女。


……まさか、こんな小さい子供。ましてNPCに、不意を突かれると思わなかった。

エリアの野望は身体に似合わず――広げた手の様に大きなモノらしい。



「……そうか。凄いなエリアは」


「へへ。あまり褒められると照れるますね……」


「いいや、きっと君は――」



語尾がおかしいのは、まあいいとして。



《――◇◇!◇◇!◇◇!》



「――来たか」


「……へ?」



方角は、真正面。

直ぐ先。

察知スキルが反応するという事は……



《――「そうさね。最近はモンスターだけでなく、通り行く積荷を狙う悪党達が出るらしいね」――》



ロアスの言葉。

ゲーム的に来ないとおかしいよな、そりゃ。



「……エリアは、ここで待っててくれ」


「へ?何かいるですか?」


「ああ。。すぐ終わらせてくるよ」


「……え、エリアは行かなくて良いですか?」



震える手で積荷の持ち手を握るエリア。

これまでずっと、影から見ているのが申し訳無くなったのだろう。


怖いだろうに――でも、そんな彼女だからこそ。



《――「……エリアを頼んだよ、ニシキ」――》



過去の言葉がずっしりと、重く俺にのしかかる。


ゲームとはいえ、NPCとはいえ。

俺は……エリアには、傷一つ付けさせないつもりだ。



「君は宝石職人になるんだ。その手に怪我でも負ったらどうするんだ?」


「……!わ、分かりました」


「ああ。それじゃ」



そう声を掛けて、俺は前へ進む。

恐らく――これがこのクエストの最後の敵だろう。


心して掛からないとな。

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