掲示板回:『最強職のやり直し』②
☆
【迷惑系配信者をヲチするスレ25】
140:名前:名無しさん
相変わらず下手糞だなカズキング
141:名前:名無しさん
何か商人さんW頑張ってて笑うんだけど
142:名前:名無しさん
お前ら見て分かんねえの?ゲージ見る限りアイツ全部攻撃当ててるぞ
尻尾だけじゃなく合間縫って脚にもな
143:名前:名無しさん
いや見間違いだろ 後ろのハルの攻撃だわ
144:名前:名無しさん
ただヘイトは後ろのハルに行ってないんだよな
145:名前:名無しさん
いや偶に攻撃が商人に行ってる時点で分かるだろうがwww当たってんだよ認めろ
146:名前:名無しさん
そうだよな 何だコイツ……
◇◇◇
「……何で、まだ残ってんだよ」
弱職であるはずの商人が、確かにこのパーティーを支えている。
その事実に――見る者達は少しずつ気付いていた。
あるはずのない事だったものは、今画面の中で行われている。
「早く、やられろよ」
その前で、俺は静かに声を荒げる。
目の前の光景が、俺をイラつかせたから。
最弱職が、この配信の中で確かに存在感を放っている今に。
拳を握り締めて、俺は彼らの『失敗』を願っていた。
☆
『おいおいクリアしそうだぞコレ』
『やっべーなコイツ』
『何者だよこの商人』
『思い出した!この名前アレだ!ワールドメッセージで見た奴だ!』
『は?』
『……何で呼ばれたかは忘れたけど』
『おーーーーい!!』
「……まだだっての。コイツには『アレ』があるだろ」
流れていく商人への声に、俺は一人で反論する。
クリアなんて――出来る訳がない。
この大鹿の真骨頂は……三割を切ってからだろうが!
『『BIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!』』
画面の中で、大鹿がその声を発する。
丁度……『狂暴化』が来た様だった。
俺が、RLを離れたきっかけ。
その迫力に腰を抜かして――最強職であった俺が、何も出来なくなったソレ。
自分の弱さを、知らされたモンスター。
『「――あっ、あ、や、やべぇって!く、くんなよぉ!!!」』
『「あ……やめ、くんな……!!」』
『「あ――」』
「何、やってんだよ……」
まるで……過去の俺と同じだった。
迫力に押され、何も出来なくなっている無様な姿。
『いくら何でもコレは引くレベル』
『流石に酷い』
『ファンやめます』
『お前盾だろうがwww』
『面白いぐらいのズッコケ方だな」
当然の様に流れるコメント。
プライドの高い彼でも、それに答える暇は無い。
そして――ある一矢が、大鹿へと飛ぶ。
ヘイトが変わるその攻撃。
大鹿の目は、彼女へと向けられた。
『終わった…………』
『おいヘイト管理ー!後衛に行ったら終わりだぞ』
『……あれ?あの商人は?』
『何か消えてんな』
『彼ならさっき走ってったぞw』
『あーあ、これもう間に合わねえな』
「商人が、何を……」
やがて氷弾がハルへと向かう。
配信画面の×にカーソルを合わせながらも、俺はそれから目を離せない。
より強く、拳を握る。
そして。
遠く、向こう。
攻撃が――彼女へ命中すると、思った時だった。
『え?何で魔弓士こんだけしか食らってないの?』
『コイツ視点じゃ分かりにくいが、スレ民曰く投擲で氷弾にぶつけた」
『はあ?』
『色々おかしいな』
『ああ!思い出した!!ニシキってアレだ!アレ倒した奴!!!』
『いや分かんねえよwwww』
倒れているカズキングを尻目に、その弱職は注目を集めていく。
まるで対比だった。恥を晒し続ける強職、活躍していく弱職。
……何で。
商人の癖に。
「……クソッ、お前は『下』だろうが……!」
強職のはずの俺が。
強職のはずのアイツが。
何で――こんな、弱いんだよ……
『おい何か反射してねアレ?どうなってんだwww』
『すっげー!』
『マジで面白いな あっち側行って来るわ』
『こっち視点じゃ遠くて分かんねえからな、俺も俺も』
『俺も~』
『もうコイツどうでもいいわ、なんかもうずっと地面転がってるだけだし』
『……誰も居なくなりそうwあ、俺も行くわ』
配信のコメントは、次第に減っていく。
ニシキ。
彼が――このリスナー達を変えていった。
興味の対象は、もはやカズキングに無い。
俺は――手元に流れていくスレッドの数々に目をやった。
【迷惑系配信者をヲチするスレ25】
300:名前:名無しさん
商人ヤバすぎwwwwwww
301:名前:名無しさん
カズキングさん蚊帳の外wwww
302:名前:名無しさん
もうどうでも良いわカズちゃん
303:名前:名無しさん
魔弓士がアレだけ言うの分かるな
304:名前:名無しさん
まさか商人でこんな動きする奴がいるとはなあ
◇◇◇
【聖騎士カズキング様を生暖かく観察するスレ3】
11:名前:名無しさん
聖騎士様ー!息してっか?
12:名前:名無しさん
俺もうハルの配信見てるわ おもしれー
ニシキ様抱いて
13:名前:名無しさん
反射ってこんな使い方出来るんだな
14:名前:名無しさん
そもそも取得条件が分からん
15:名前:名無しさん
取れたとしてもこんな動き無理だってのwww
相当練習したんだろうなあ
16:名前:名無しさん
商人とか笑ってた奴wwwww
17:名前:名無しさん
いやあカズキング様には感謝ですわ
久々に面白い配信
18:名前:名無しさん
どうでも良いがあのまっ黒の武器欲しい
◇◇◇
配信も、スレッドも――見ていたそれら全て、彼が中心になっていた。
順調に反射で氷弾を跳ね返す商人。
そして魔弓士が攻撃を放ち、削っていく。
……『一人』を除いて、完璧な連携だった。
その彼が――ついに
『「……お、お前らもう手出すな!!主役は俺なんだ!止めは俺が刺す!」』
「……や、やめろって――!!」
まるで自分の事のように焦り、思わず叫ぶ。
それは――絶対にやってはいけない事。
俺の声なんて届く間も無く、大鹿が突進に入ってしまった。
『――――BIIIIIII!!』
「ひ、や、やめ――!!ぐあああああああ!!!」
《カズキング様は死亡しました》
あっと言う間に彼は死ぬ。
そして――この突進は止まらない。
俺は……近付いていた画面から離れ、椅子に仰け反った。
「……はぁ……」
配信画面を、横目で見ながら掲示板を眺める。
もうこの先を見るのが怖い。でも経過は気になった。
……本来なら確実にもうアウト。
しかし認めたくないが、
何より――目についた、ある一つのスレッドから。
◇◇◇
【ハルちゃん応援スレ6】
101:名前:名無しさん
コイツ正気化wwwww自分に打てってwwwww
102:名前:名無しさん
いやニシキならそれが正しいんだろ
冗談じゃなくな
103:名前:名無しさん
本当コイツは頼りになる 助っ人として最高
初めて見た時は笑ってごめんな
104:名前:名無しさん
あの時は対人だけだったけど、今はモンスターにもこれかぁ……
105:名前:名無しさん
俺もハルちゃんにこれだけ信頼されたい
無理だけど……
106:名前:名無しさん
信じてるよニシキくん(はーと)
107:名前:名無しさん
何も知らねえ他スレの奴ら眺めるの楽し〜w
108:名前:名無しさん
商人スレの奴らにも教えてやろうかなww
◇◇◇
この板の住人だけは、まるで全て知っていたかのように語っていた。
そして――そのスレの会話で、俺はもう一度配信に向き治る。
「?何か――」
そして。
カズキングの視点から、遠く。確かに商人がこっちに近付いていた。
そして――遠方から飛来した彼女の矢が、掲示板の通り彼を射抜いたのだ。
そのまま、迷いなく大鹿に接近する彼。
『「た、頼みますよぉーー☆!!ニシキさん!!」』
『「――ああ!」』
目の前。
瞬間――商人が手に持つ武器が形を変えていく。
斧だったものは刀の様な武器に。
それはもはや、生産職とかいうモノではない。
……ただ。
俺は、そんな異質な光景よりも。
「……何で、そんなに――」
彼の表情は――笑ってはいないものの、目に見て分かる程に楽しそうだった。
こんなピンチの状況でも、味方と共に巨大な敵に立ち向かう。
こんな『不遇職』でも――それが、全く関係の無いように。
『
「一体何なんだよ、俺は……」
まるで走馬灯の様に、これまでのRLが思い浮かんだ。
俺の選んだ魔法士が、偶々かなり上に位置する職業だった事。勿論パーティーに引っ張りだこだった。
そしていつからか、攻略サイトの自分より『下』の職業を見下し始める。
それからは――堕ちていく一方だった。
自分のPSの低さが浮き彫りになって、徐々にパーティーに誘われなくなっていったんだ。
……俺は、強職に縋って何も強くなる努力をしなかったから。
そして、フィールドボスと戦った時――ついに『折れた』。
そこからは掲示板で下らない言い争いを続けるばかり。ギアセットは汚い埃を積らせていく。
俺は――何もかも、人として『
「――っ!?」
『「――黄金の一撃!」』
浮かんだ過去を眺める間に、目の前の商人が刀を振るっていた。
黄金色の――美しい一閃。
遅れて聞こえる斬撃の音。
倒れゆく大鹿。
そんな、眼前の光景は――
「――す、すっげぇ……」
頭の中を巡る黒い感情を、一瞬にして消し去った。
純粋な感動。
そして――思い出す。
記憶の中、これまでやり続けたゲームソフトの数々を。
「……俺は……」
それらの主人公達の職業は――全て『魔法士』、『魔法使い』だった。
ガキの頃からずっと、RLに至るまで。
そしてそれは――どうでもいい優越感に浸る為に選んだんじゃない。
俺は……きっと、目の前の彼と同じ様に。
この職業が好きだから選んだんじゃなかったのか?
――初めて魔法使いの物語を見た時の感動を。
――初めてRLでファイアーボールを撃った時の感動を。
俺は――どうして忘れてしまったんだ?
『「……後は任せたぞ、ハル」』
彼は、一閃の後に逃げる事なく立ち尽くし――死んでいった。
諦めた訳じゃない。
それは……彼女を信じているからだ。
遠方に居るハルは、既に弓を構えている。
やがて――
『「――フィニッシュ・アロー!」』
極太の魔力を込めた一矢が、見事に大鹿の眉間に突き刺さった。
一瞬にして消え去るHPバー。
やがて、それはゼロになり。
……俺は、配信画面を落としたのだった。
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