掲示板回:『ある魔法士のやり直し』




「………………」



しばらく、俺は茫然としていた。

彼の一挙一動が、目に焼き付いて離れない。

そして――最後のハルへの台詞で、忘れていた過去が蘇る。



《――「後ろは頼んたぞ、魔法士さん」――》


《――「ああ任せろ!俺のファイアーボールが火を吹くぜ!」――」



「……何で、今更思い出すんだよ……」



強職として、他職を見下し始める前の事。

その時のRLは――どうしようもないぐらい、楽しかったんだ。



「……もう、遅いかな」



ヘッドギアの埃を払って机に置く。

……手持ち無沙汰になって、俺はパソコンを操作して掲示板に入った。


いっその事むちゃくちゃに今の自分を否定して欲しかったから。

甘い考えの俺を、匿名の者達に思いっきり言葉で殴ってほしかったから。


半ばヤケで。

久々にやる、スレ立てだった。



◇◇◇



【RLに復帰したいと思うんだが】



1:名前:名無しの魔法士

糞スレすまん

誰かいないか?


2:名前:名無しの魔法士

……PS無いんだけど、やっぱ復帰は止めた方が良いよな?


3:名前:名無しのプレイヤー

>>1

最近復帰したけど、戻った方が良いよ

PS無いけど俺今楽しいしな 


4:名前:名無しの魔法士

>>3

レスありがとう

凄いな、復帰してすぐやってけるなんて


5:名前:名無しのプレイヤー

>>4

おいおい褒めても何も出ねーぞw

というか、自分に関しては死にまくってるしパーティー誘われねーし


6:名前:名無しの魔法士

>>5

そうなのか……辛くないのか?


7:名前:名無しのプレイヤー

>>6

勿論キツイけど、自分の好きな職業でやるのは楽しいんだわ

戦闘は難しいが試行錯誤で何とかなるし


何といってもスゲー目標が居るからな、俺達には!


8:名前:名無しの魔法士

あんた凄いな……ちなみに、その職業って何なんだ?


9:名前:名無しの商人

>>8

ああスマン名前変えてなかったな、俺は商人だ(キリッ

……このゲームじゃ除け者扱いだけど、そんなの関係なく皆やってる


10:名前:名無しの魔法士

>>9

ありがとう 

後比べるモノじゃないと思うけど、商人は強いと思うよ


11:名前:名無しの商人

>>10

えっマジ?そんな事言われたの初めてだわ!超嬉しい

魔法士も良い職業だと思うぞ!復帰しろ!www


12:名前:名無しの魔法士

>>11

……ありがとう、考えてみるよ


あのさ、もし、俺があんた達商人にパーティー申請を送ったら迷惑だよな


13:名前:名無しの商人

>>12

そんな訳ねーだろw

こちとら誰でもパーティに来てくれたら嬉しいんだ、貴重な魔法士様なら尚更な!


……分かるぜ、アンタも色々あったんだろ?こんなスレを建てるぐらいだし

俺達商人もほとんど復帰組でさ、未だに指さされて馬鹿にされたりするんだ

それでも今は本当に楽しくやってる


後悔はさせないから、良ければ一緒に這い上がってやろうぜ


14:名前:名無しの魔法士

>>13¥

……分かっ、た


本当にありがtうな、迷惑掛けっrよ


15:名前:名無しの商人

>>14

誤字誤字w大丈夫か?

ちなみに今ラロシアアイスでアイスウルフに吹っ飛ばされてるのが俺だw


って訳で、俺達の後ろはあんたに頼むぜ!早く来いよー!じゃないともっかい死ぬぞ俺w

RLで待つ!


◇◇◇



「……」



歪んで見える液晶画面を。

俺は――震える手で、ゆっくりと閉じた。


鹿が、鹿その職業。


そんな彼らに、俺は助けられた。手を差し伸べてくれた。


堕ちきった自分の汚れた手を、進んで掴んで引き上げようとしてくれた。



……。

このままじゃ、終われる訳も無い。

彼らの――役に立ちたい。そう思った。



「っ……行くか――」



無理矢理腕で涙を拭って、ギアセットを装着する。


何時振りだろうか。これを最後に付けたあの時は……こんな感情だっただろうか。



「商人、か」



……ありがとう、ニシキ。気付かせてくれて。


さっきの名も知らぬ商人も、アンタが居なきゃ出会えなかった。


まだまだ俺は、実力不足だろうけどさ。

お前らの後衛に相応しいように、自分なりに頑張ってみるよ。



いつか必ず。



この、俺の大好きな――――『魔法士』という職業で!





《GAME START》



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る