エピローグ:『アラタの目標まで』


総勢100名を誇るトップギルドの一つ、『舞月』。


その特徴として、多くのギルドメンバーは刀を持つ『侍』だ。

PSも高い者が多く……得意とする対人戦闘は勿論の事、モンスター相手にも大きな戦力となる。


今や『舞月の者』というだけでパーティーの募集には引っ張りだこな程。


そしてそんな精鋭揃いの中、実力にして一番上に位置するのが――



「……お、おいアレ、舞月の『アラタ』じゃね?」

「何でこんなラロシアアイスなんかに……」

「ギルメン探しでもしに来たのか?」



『花月新』……プレイヤーネーム、『アラタ』。


腰に差した刀が誰よりも似合うその男は、ゆっくりと歩いていた。

姿を隠す事も忘れたまま――その名を周りにとどろかせながら。



(錦……幼い頃の様に、矯正される前の昔の利き手で戦っていたね)


(強く――彼は変わっているんだ。ゲームとはいえ、顔で分かったよ)


(対して僕は……弟にあんな事を嘆いて、どこまで弱くなってしまったんだ?)



……本人は難しい顔で考え込んでいる為、周りの声に気付くことは無いが。



(今も昔も――僕が『最強』か)



弟の言葉が頭に反響する中、新は地面を見ながら歩く。

周りの光景など見もくれず――自分の中で問いを続けていた。



(錦の僕を見る目は昔と同じだった。僕はそれが嫌だったか?)


(――そんな事はない。今も僕は、彼の憧れで居たいと思ってる)


(そうだ。現実じゃ僕はもう――でも、この世界なら……)



乱雑する思考の中。

空を見上げてそれを終える。


彼はようやく、答えを見つけた様だった。



「……もう――『たかがゲーム』じゃ無くなってしまうね」



『右腕』を抑えていた左手を離し、呟き笑う新。


そんな時……彼は後ろからひょこひょこと様子を伺うプレイヤーに気付く。



「――うん?何だい?」


「あ、あの!アラタ『様』、い……一緒にスクショとっても良いですか!」


「……ごめんね、今はちょっと」



彼のファンは多い。特に女性。

意を決した様にお願いするそのプレイヤーに、彼はやんわりと断る。



「す、すいません!ご迷惑を……」


「……はは、やっぱり良いよ。僕はどうすれば良い?」


「!ほ、本当ですか!ありがとうございます!え、えっとそれじゃ――」



悲しそうな顔をする彼女へ、アラタはそう声を掛けた。

彼の人気の理由の一つに、まずその優しさが挙げられるだろう。



「……はい、ありがとうございました!」


「ああ、どういたしまして」



アラタはそう言って、彼女から立ち去っていく。



(……はは、変装を忘れるなんてね。でも、もうコレも使わないか)



心の中でそう呟きながら、彼はギルドメニューを開いた。



(いつかきっと、彼は気付いてしまう。変わり果てた僕に)


(レベルの高さ、ゲームに身を投じている自分……そのに、錦は必ず――)


(――だから。その時までは……)



空を見上げる彼。

その顔に――迷いは無くなっていた。



《ギルドホームに帰還します》


《ギルドホーム・ギルド長室に移動しました》



新はそこへ飛ぶ。


豪勢な、和のイメージで造られたギルドホーム。

道場、談話室、会議室……トップギルドなだけあって、大きく数々の部屋が存在しているそれ。


……そんな中、『ギルドマスター』と『サブマスター』の二名のみが入れる部屋へ彼は飛んだ。



「――お兄様!おかえりなさい」


「ああ、ただいま『まい』。ログインしてたんだね」



『花月舞』――プレイヤーネーム『舞』。

『舞月』のギルドマスターであり、新、錦の妹である。


新と同じく、美しい白髪のロングヘアーに端正な顔立ち。

そして背中に存在する薙刀。


彼女もまた新に続く実力を持っている。

人気も同じく高い……特に男性プレイヤーからだが。



「……お兄様?何かありましたか?」


「はは、ちょっと――『兄弟喧嘩』をね」


「……ぇ……え、え!?」



いつもと顔付きが異なる兄。

思いもよらぬ回答に、彼女は固まった。



「――に、錦兄様と会えたのですか!?」


「はは、うん」



そしてそれを理解した後、彼女は叫ぶ様に問う。



「そんな、私も……」


「すまないね。待ってたら会えなくなりそうだったから」


「……確かにそうですね。失礼致しました……」


「良いって。舞は良く錦に懐いていたもんね」


「!お、おやめ下さいお兄様」


「はは、ごめんごめん――少し聞いてくれるかい、舞」


「……?はい」



新はそう言った後、一呼吸して腰の刀に右手を置いた。



「――僕はもう、現実じゃ刀を振る事も出来ない」


「……そう、ですが……」


「このゲームも――自分はただの気晴らしとしか思ってなかったのかもしれない」



新は、彼女に向けてそう続ける。

そして舞は――彼の表情が、『昔』に戻っていくのを見た。


新と錦が、共に過ごしていたその時に。



「でも今日――それは全部変わったよ。彼と会って、話して闘って……やっと気付けたんだ」


「……!」


「僕は昔からずっと――誰よりも、錦の『最強』でいたかったんだって。だから――」



彼の目は――いつか見た、『現役』の若い頃のモノになる。

静かでいて、燃える様な熱い眼。

彼女が長らく見ていなかった、兄の姿だった。




「もう一度、彼のいるこの世界で――天辺を目指す事にするよ」


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