『花月新』②


「……!――変わったね、錦」



兄さんにしては面食らった様に、驚いた表情で止まる。

……そんな顔を見るのも久しぶりだ。



「べ、別に何も現実の決闘じゃないって」


「ははは!分かってるさ。流石にその位は」



正直、剣の道に生きる彼には本当にそう捉えられそうであった。

まあでも、そうではないらしい。



「でも……見ての通り、僕のレベルは58。いくら調整はされるとはいえ、スキルに装備、何よりRLの経験が――」


「――構わないよ兄さん。俺は、貴方と闘いたいんだ」



この地球上の中。現実だろうとゲームであろうと。

それら全部をひっくるめて……俺の中の『最強』は、紛れもない『花月新』だ。


そんな彼に力をぶつける。

この世界では、それが叶うんだ。

……現実の俺じゃ、同じ場所にすら立てないだろうから。



「!……はは、それは嬉しい申し出だね」


「良いのか?」


「勿論だよ、錦」



兄さんは、笑ってそう言う。



「……ただ流石にこれだけレベルの差があるから、ハンデを付けるよ」


「ああ、闘ってくれるならどんな形式でも良い」


「はは、そっか。じゃ……こんな感じかな」



《アラタ様から決闘申請を受けました》


《アラタ様側ハンデ:被ダメージ1.5倍》

《アラタ様側ハンデ:体力50%減少》

《アラタ様側ハンデ:アイテム使用不可》

《アラタ様側ハンデ:制限時間超過時敗北》

《アラタ様側ハンデ:防具装備無効化》

《アラタ様側ハンデ:ステータス低下》


《制限時間:10分》



「……こ、これで良いのか?」


「はは、ああ。これでもこのレベル差は埋まるか分からないぐらいだ。ステータスが調整されるとは言っても、スキルに装備があるからね」


「そうなのか……まあ、兄さんが言うなら」



初めて見るハンデの数々。

反対に俺の方は何もない。


……これでも、勝てる気がしないけどな。



《決闘申請を受理されました》

《決闘は三十秒後に開始されます》



「……それじゃ、よろしく頼むよ。錦」


「ああ――兄さん」



……正直、未だに実感が沸かない。


こうして一緒に歩いて、あげくに闘える事になるなんて。


――まるで、夢みたいだ。




「……僕に挑んでくれる様な人は、時間が経つにつれ居なくなってしまってね」


「挙句の果てに、僕は名前を隠した。そうしても、結局勝負を諦められる事には変わらない」


「……そんな中、君は僕の名を見て尚挑んでくれた。久しぶりに今、心が躍っているよ」



つらつらと空に呟きながら『それ』に手を掛ける彼。

この場に降る氷雪よりも、美しい純白の鞘を左手で握る。


そしてそこから――銀色の刃が姿を見せていく。

反射する光。等間隔の波紋。

雪の湿気が刃に纏わりつこうとするが、その刀身は一点の曇りも見せる事はない。


精妙に、強大に、そして優雅に。

やがて……その細身の全てが姿を見せた。




「――ッ……」



圧倒されて、言葉が出ない。

昔見た佇まいよりも、より洗練されたその姿。


この場にいる自分自身が、恥ずかしくなってしまう程のそれ。



《決闘は十秒後に開始されます》



「――やろうか、錦」



その刃を俺に向け、彼は静かにそう言った。



《決闘を開始します》

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