『花月新』③
「さあ、いつでも来ていいよ。あ、もう一つハンデを入れようかな」
「え?」
「僕は、一分間君に攻撃しない。流石に『コレ』は使わせてもらうけど」
そう平然と言い放ち、刀を構え直す兄さん。
……さっきのハンデも加えて、それはやり過ぎ――なんて事はないのだろう。
「来ていいよ――錦」
「分かった。それじゃ……っ!」
手始めにスチールアックスを、俺は彼に投擲。
同時に地面に落としておいた魂斧を拾い上げ、接近した。
「『スラッシュ』!!」
「っ」
「――らあ!……ッ!」
「……っと」
「――はあ、はあ……」
三回の攻撃は、何れも避けられた。
まるで刀と踊るかの様に俺の攻撃を躱す兄の姿。
……当たる気が、しない。
『このままでは』。
「……!錦、昔の――」
ずっと右腕に持っていた魂斧を、左腕に移す。
……別に、目の前の最強を舐めていたわけなんかじゃない。
その目的は彼の驚いた顔。
俺は、兄さんが抱いたであろう感情が嬉しかった。
……まだまだ子供だな、俺は。
「――ッ!」
「っと!」
余裕を与えない様、攻め続ける。
風を切る様に振る斧は、避けられたものの感触はさっきより上だ。
「らあ!」
「……っ、ははは、嬉しいよ錦!」
「――『スラッシュ』!」
「よっ……さあ、後三十秒」
それでも――俺の攻撃は、当たることは無い。
……勿論、そんな事は想定済みだ。
俺の戦闘センスで、彼に手が届くわけがないなんて事は。
でも――これは、『ゲーム』。あらゆる俺の『スキル』達が、それを補ってくれるのだから。
兄さんが手を出してこない事。
それを――後悔させてやろう。
「……」
息を吐き、集中する。
……大丈夫、時間は気にしなくて良い。
もっと、もっと……イメージを研ぎ澄ませて。
「……ふう」
吸って、吐いて。
左腕に力を込め、そして脱力。
息を吸う。そして。
「――『パワースウィング』」
「よっ――」
まず、牽制の一撃。
わざとスピードを落とした武技。
次の為、『差』を付ける様に。
「――『高速戦闘』――」
ヘヴィースウィングが終わる間際、俺はそう小さく唱える。
身体の感覚が、違う次元へと移り行く。
二倍の速度の世界へと!
そして――
「――『黄金の一撃』!!」
振り終えた魂斧を、兄さんの首へ振り上げた。
迫る刃。
しかし、彼の表情は――何一つ、変わっていなかった。
「『受け流し』」
《100000Gを消費しました》
「ッ――らあ!」
「……っと、一分経ったね」
Gを乗せた一撃は――彼のスキル?によって流された。
威力をそのまま、構えられた刀によって別の方向に向けられた。
続けた連撃も危なげなく避けられる。
黄金の一撃、高速戦闘を組み合わせた……自分の得意な攻撃パターン。
それも――当然かのように無意味だった。
一分間……俺は、ただ武器を空振りしていたのに等しい。
流石にちょっと辛いな……
「そうだね。一つ、アドバイス……になるか分からないけど」
「……?」
「錦は、『殺気』が分かりやすすぎるかな。目の動き、視線、表情。それら全てが、君の一手を教えてくれる」
「……そうなのか」
「特にさっきの一撃は――殺気が特に強くなった。だから僕もそれ相応の防御態勢を用意していたんだ」
落ち込んでいたのが顔に出ていたのだろうか。
兄さんは、そう隠す事無く教えてくれる。
……確かに、俺は全くそういうモノを隠そうとしなかった。
武道に精通している者なら、殺意を感じて行動を変えるなんて容易い事なんだろう。
「でも――お世辞じゃなく、さっきの攻撃は怖かったよ。その左腕に変わってから、動きが凄く洗練されてる」
「はは……そ、そうかな」
「うん。昔の錦とは別人だ、強くなったんだね」
頷いて、そう言う彼。
全て躱された後だったが――思わず照れてしまう。
久々だ、褒められるなんて事は。
それも『憧れ』から。数年振りのその言葉は、冗談抜きに嬉しかった。
このRLを続けてきて良かった事が、また一つ増えていく。
……でも。
この決闘は――
「さて、長話は置いておいて――仕切り直しといこうか、錦」
刀を鞘に戻し、俺から最初と同じ様距離を取る兄さん。
「――ああ」
次からは――彼が、攻撃をする。
当たり前の事なのに……それが、とても怖く思えた。
震える身体を抑えながら、前を見る。
ついに――兄さんが俺に刃を向けるんだ。
対する彼は、優しく笑って俺に告げる。
「『花月流居合道』、そして『僕のスキル』。それを持って、錦へお手本を見せてあげよう」
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