『救世主』⑥


「『ナイスショット』、ハル。また頼めるか?」


「……!は、はい!ありがとうございます……」



『流石っすニシキさん!!』『コイツ投擲スキルどんだけ上げてんだ……』『や、やっぱりコイツはやってくれると思ってたよ』『お前ら手のひらくるくるすんなw』



……どう見ても、アレは私の失態なのに。

フォローしてくれる彼の優しさが、こんな今でも心に染みる。



『BIIIIIII!!!』



でもまだ、ヘイトは自分のまま。

氷塊を生成していく大鹿。



「……じゃ――やろうか。大丈夫、何とかする」


「はい!」



しかし彼は、そのまま私の前に立つ。

……『また頼めるか』――その台詞は、嘘じゃない。


信じるわ、ニシキ君を。



「『ファイアーアロー』!!」


『――!!』



私が炎の矢を放つと同時に、氷塊を射出するボス。


それら二つは交錯し、矢は大鹿へ到達。氷塊は――



「――らあ!!」



手に持つ斧で、氷塊を迎え撃つ彼。

破片が散らばり、ダメージを食らうニシキ君。



「に、ニシキさん!」


「俺は良い、攻撃の手を止めないでくれ」


「!は、はい!」



『行けるか?』『頼むぞニシキ!』『頑張れハルちゃん~!』『あともうちょい!!』『つーかアイツはいつまで寝転がってんだよ……』



「――ッ!!」


「『ファイアーアロー』!」



二発目の氷塊を粉砕していく背を前に、私は矢を番える。


コメントによる応援が増え、流れる中。

長い長い戦闘は、まだ続く。





「――!」


「『ファイアーアロー』!」



息を付かせない連続攻撃。

回復する間も無く、氷塊の破片でニシキ君のHPはもう三割を切りそうだ。


でも――そんな彼のお陰で、着々とダメージは蓄積していく。

体力にして、後二割を切りそうだ。



「……大分、掴めてきたな」


『――――!!』


「――ッ!」



彼はそう呟いた後、斧を振る。


その後――確かに、氷塊は斧と衝突したのに。

そっくりそのまま、それは『逆方向』に飛んで行ったのだ。



『は?』『え?』『何が起こった?』『今、確かに当たったよな?』『氷が意味不明な挙動してて草』



そのまま、追撃の氷塊に衝突……遠くで破裂した。



「に、ニシキさん?」


「何でもない。運良く『反射』が発動しただけだ――追撃頼むぞ、ハル」


「は――はい!『ファイアーアロー』!」



『何だそれ』『もしかして反射スキルの事か?』『いや、あれって確率クソ低スキルじゃん』『そもそもこんな攻撃に試す度胸ねえよw』



『――BIIII!!!――――!』



次は、氷塊の三連打。

ニシキ君は――それに堂々と立ち向かう。



「――ッ、らあ!!」



まるでタイミングを合わせる様に地面を踏み、彼は斧を振りかぶる。


やがて、また一発目の氷塊が彼の一撃に衝突――そして、『戻った』。



『また返却されていって草』『何これ?』『いや何が運良くだよ』



飛来する二発目にそれが当たり、破片で最後の氷塊も破裂する。



「ふぁ、『ファイアーアロー』!」


『――――BIIIIIIIII!?』



私の攻撃で、あの大鹿が怯む。


それが示すのは――残りHPが二割を切った事。



「行ける……!」



『聖騎士なんていらなかったわ』『実質二人パーティーじゃねえか!』『もうちょいもうちょい!』『ふぁいと~!』『いや~最初はどうなる事かと……』




『……あのさお前ら、フラグって知ってる?』




コメントと同時に、何となく――嫌な予感が過る。

その因子は大鹿ではないわ。

『もう一人』。パーティーに居る――



「……お、お前らもう手出すな!!主役は俺なんだ!止めは俺が刺す!」



寝転がっていたカズキング。

大鹿が怯んだ瞬間――立ち上がった彼が大声を発する。


……その足は、震えているけれど。



「……はは、まずいな」


「お前ら見とけよ――『聖撃』!!」



苦笑いで嘆くニシキ君。

止める者など当然いない。


目が眩むほどに白く光る剣が、怯んだ大鹿に到達するが――



「……し、死ねよ!!お、おらあああ!」



『うわあ……』『だっさ』『全く減ってねえWWWWW』『つかまずくね?アイツに行くぞヘイト』


聖騎士は強職であり――防御も高く回復も出来る『盾役』。

しかし、それに攻撃力も備えていればゲームバランスがおかしくなる。


つまり……彼の一撃は、『注目』を集めるには良いのだが、HPを減らすのには向いていないという事。


今必死に行っている攻撃も、僅かなダメージしか通っていない。



『BIIIII……!』



……よって、今。

HPが二割からほぼ減っていない大鹿が――彼にその角を向ける。

巨足を踏み鳴らし、雪が舞う。


同時に何か青いオーラの様なものを纏い、頭を下げた。


あれが突進か何かの、前動作だとしたら――



『――――BIIIIIII!!』


「ひ、や、やめ――!!ぐあああああああ!!!」



予感は当たり、その大きな角と巨体が彼を轢いていった。



《カズキング様は死亡しました》



『死んだWW』『まずいって!あの突進パーティー全員に行くまで止まらねえぞ』『ほんと要らん事しかしねえなアイツ!』『×××』『良い感じだったのにいいい』



彼など最初から居なかったかのように、地面を駆ける大鹿。


そして――その突進は止まらない。

私達の方に向けて、それは進んでいるのだ。

遠距離攻撃を仕掛けるかと思ったら逆――これは、本当にまずいわ。



「……ハル」


「は、はい!」


「お願いがあるんだ。聞いてくれるか?」



隣り。

そんな、彼の真剣な表情。

断る理由も無かった。



「も、勿論です!何でしょうか――」


「――俺を、撃ってくれ」


「はい……えぇ!?」



降雪の中、私の声が響いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る