『救世主』⑥
「『ナイスショット』、ハル。また頼めるか?」
「……!は、はい!ありがとうございます……」
『流石っすニシキさん!!』『コイツ投擲スキルどんだけ上げてんだ……』『や、やっぱりコイツはやってくれると思ってたよ』『お前ら手のひらくるくるすんなw』
……どう見ても、アレは私の失態なのに。
フォローしてくれる彼の優しさが、こんな今でも心に染みる。
『BIIIIIII!!!』
でもまだ、ヘイトは自分のまま。
氷塊を生成していく大鹿。
「……じゃ――やろうか。大丈夫、何とかする」
「はい!」
しかし彼は、そのまま私の前に立つ。
……『また頼めるか』――その台詞は、嘘じゃない。
信じるわ、ニシキ君を。
「『ファイアーアロー』!!」
『――!!』
私が炎の矢を放つと同時に、氷塊を射出するボス。
それら二つは交錯し、矢は大鹿へ到達。氷塊は――
「――らあ!!」
手に持つ斧で、氷塊を迎え撃つ彼。
破片が散らばり、ダメージを食らうニシキ君。
「に、ニシキさん!」
「俺は良い、攻撃の手を止めないでくれ」
「!は、はい!」
『行けるか?』『頼むぞニシキ!』『頑張れハルちゃん~!』『あともうちょい!!』『つーかアイツはいつまで寝転がってんだよ……』
「――ッ!!」
「『ファイアーアロー』!」
二発目の氷塊を粉砕していく背を前に、私は矢を番える。
コメントによる応援が増え、流れる中。
長い長い戦闘は、まだ続く。
☆
「――!」
「『ファイアーアロー』!」
息を付かせない連続攻撃。
回復する間も無く、氷塊の破片でニシキ君のHPはもう三割を切りそうだ。
でも――そんな彼のお陰で、着々とダメージは蓄積していく。
体力にして、後二割を切りそうだ。
「……大分、掴めてきたな」
『――――!!』
「――ッ!」
彼はそう呟いた後、斧を振る。
その後――確かに、氷塊は斧と衝突したのに。
そっくりそのまま、それは『逆方向』に飛んで行ったのだ。
『は?』『え?』『何が起こった?』『今、確かに当たったよな?』『氷が意味不明な挙動してて草』
そのまま、追撃の氷塊に衝突……遠くで破裂した。
「に、ニシキさん?」
「何でもない。運良く『反射』が発動しただけだ――追撃頼むぞ、ハル」
「は――はい!『ファイアーアロー』!」
『何だそれ』『もしかして反射スキルの事か?』『いや、あれって確率クソ低スキルじゃん』『そもそもこんな攻撃に試す度胸ねえよw』
『――BIIII!!!――――!』
次は、氷塊の三連打。
ニシキ君は――それに堂々と立ち向かう。
「――ッ、らあ!!」
まるでタイミングを合わせる様に地面を踏み、彼は斧を振りかぶる。
やがて、また一発目の氷塊が彼の一撃に衝突――そして、『戻った』。
『また返却されていって草』『何これ?』『いや何が運良くだよ』
飛来する二発目にそれが当たり、破片で最後の氷塊も破裂する。
「ふぁ、『ファイアーアロー』!」
『――――BIIIIIIIII!?』
私の攻撃で、あの大鹿が怯む。
それが示すのは――残りHPが二割を切った事。
「行ける……!」
『聖騎士なんていらなかったわ』『実質二人パーティーじゃねえか!』『もうちょいもうちょい!』『ふぁいと~!』『いや~最初はどうなる事かと……』
『……あのさお前ら、フラグって知ってる?』
コメントと同時に、何となく――嫌な予感が過る。
その因子は大鹿ではないわ。
『もう一人』。パーティーに居る――
「……お、お前らもう手出すな!!主役は俺なんだ!止めは俺が刺す!」
寝転がっていたカズキング。
大鹿が怯んだ瞬間――立ち上がった彼が大声を発する。
……その足は、震えているけれど。
「……はは、まずいな」
「お前ら見とけよ――『聖撃』!!」
苦笑いで嘆くニシキ君。
止める者など当然いない。
目が眩むほどに白く光る剣が、怯んだ大鹿に到達するが――
「……し、死ねよ!!お、おらあああ!」
『うわあ……』『だっさ』『全く減ってねえWWWWW』『つかまずくね?アイツに行くぞヘイト』
聖騎士は強職であり――防御も高く回復も出来る『盾役』。
しかし、それに攻撃力も備えていればゲームバランスがおかしくなる。
つまり……彼の一撃は、『注目』を集めるには良いのだが、HPを減らすのには向いていないという事。
今必死に行っている攻撃も、僅かなダメージしか通っていない。
『BIIIII……!』
……よって、今。
HPが二割からほぼ減っていない大鹿が――彼にその角を向ける。
巨足を踏み鳴らし、雪が舞う。
同時に何か青いオーラの様なものを纏い、頭を下げた。
あれが突進か何かの、前動作だとしたら――
『――――BIIIIIII!!』
「ひ、や、やめ――!!ぐあああああああ!!!」
予感は当たり、その大きな角と巨体が彼を轢いていった。
《カズキング様は死亡しました》
『死んだWW』『まずいって!あの突進パーティー全員に行くまで止まらねえぞ』『ほんと要らん事しかしねえなアイツ!』『×××』『良い感じだったのにいいい』
彼など最初から居なかったかのように、地面を駆ける大鹿。
そして――その突進は止まらない。
私達の方に向けて、それは進んでいるのだ。
遠距離攻撃を仕掛けるかと思ったら逆――これは、本当にまずいわ。
「……ハル」
「は、はい!」
「お願いがあるんだ。聞いてくれるか?」
隣り。
そんな、彼の真剣な表情。
断る理由も無かった。
「も、勿論です!何でしょうか――」
「――俺を、撃ってくれ」
「はい……えぇ!?」
降雪の中、私の声が響いていった。
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