『救世主』④
☆
『私達の配信に、助っ人として出て頂けませんか……?』
『……ああ。分かった。すぐ行く』
若干の戸惑いはありそうだったが、何も聞かずに彼は了承してくれた。
「――おい!まだかよ!」
「……今、連絡が取れたので。もう来てくれます」
「ったく。本当に『使える』んだろうな!?一回挑戦して使えなかったらすぐ外すから」
「……はい」
虫酸が走るような彼の台詞に、我慢して私は答える。
……本当にごめんなさい。花月君……
☆
それから直ぐに、彼は現れる。
私の隣に居る
《ニシキさんがパーティーに参加しました》
「……ここで合ってるな?よろしく――」
「おっ!初めてみたわ『商人』!あ、ストップ!素人はあんまり喋んな」
「……あ、ああ――分かった」
彼に心の中で謝罪しながら、その会話を眺める。
このカズキングというプレイヤーは、配信者という立場がそうでないプレイヤーより『上』だと思っている。素人という口ぶりからしてそうに違いないわ。そんな事あるわけないのに。
……だから、花月君への当たりは――私以上に酷い。
「いやあ、本当にお前リスナー増やせんの?地味だし雰囲気ねーし、何かモブAって感じで……何?『あの』商人?知らねーよ!」
「……」
「おっ、でも何かちょっとだけリスナー増えてんな……やるじゃん素人なのに!しかも商人……っははは!おもしれー」
「……ああ」
「ま、お前は適当に尻尾辺り攻撃しといて。俺の視界の隅で頼むわ、邪魔だけはすんなよ!……っし!んじゃ行くか、野郎ども!!」
「……ああ……」
徐々に花月君の目が、死んでいくのが分かる。相手にしたらダメだと悟ったのね。
あっちのコメント画面には、ニシキ君の事を知ってる様な者がいるようだ。肝心のカズキングは……興味も無さそうだけど。
……ごめんなさい、巻き込んで……
「――ハル。気にしなくて良いから」
「!は、はい!」
俯く私の肩を、ポンと叩く花月君。
苦笑いでそう言う彼は、私に同情してくれているのだろう。
その言葉で――沈んでいた心が軽くなった。
……現実では、私は彼の上司なのに。
今は――とっても貴方が頼もしい。
「大変だな、配信者ってのは」
「……ぁ、あはは☆そうですね☆」
小さく私に呟く彼。
こっちの『ハル』の口調に戻って――同じく私は小声で返した。
『ハルハル~大丈夫か~』『ニシキ呼んだのは良い判断だな『あれでも対人は良いけど対mobは……』『俺達はちゃんと見てるからな~いつでも一緒だぜ☆』
『きっしょ×ね あ、××キングの話しな』『おいニシキ、アイツ×せ お前そういうの得意だろ?』『×れ 責任は俺が取る』
「……あ、ありがとう、みんなー☆」
見えていなかった……いや、見る余裕が無くなっていたコメント画面。
私を応援?してくれるリスナーに手を振り――大分軽くなった足取りで、私はラロシアアイスを進んでいった。
☆
『氷雪の大鹿』
ラロシアアイス・最深部……パーティーが二人から三人なら――『氷雪の大鹿』が待ち構える。
大鹿の攻撃パターンは突進、角の突き上げ……何より厄介で特徴的なのは、魔法の氷弾による遠距離攻撃だろう。
それは、アイススライムの様な単純な攻撃ではない。
一から三までのランダムな連弾、またはチャージしての三発同時射撃。
そしてその全てに追尾性能、直撃すれば状態異常、加えて防御時には破裂による衝撃プラス微量ダメージ。
もしギリギリで避けられたとしても、近くにいる場合は破裂でタダでは済まない厄介なもの。
そしてこれは――近距離相手には行わない。
つまるところ、パーティーの『盾役』が要となる。その立ち回りが下手であれば、大鹿は簡単に後衛に向いて蹴散らしてしまうだろうから。
このモンスターは、盾役の基礎、応用、心構え……それら全てを教えてくれるはずだ。
何よりも――大鹿の体力が、三割を切ってからは。
(次ページへ続く)
※RealLifeOnline攻略wikiより抜粋
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