『救世主』④




『私達の配信に、助っ人として出て頂けませんか……?』


『……ああ。分かった。すぐ行く』

 


若干の戸惑いはありそうだったが、何も聞かずに彼は了承してくれた。



「――おい!まだかよ!」


「……今、連絡が取れたので。もう来てくれます」


「ったく。本当に『使える』んだろうな!?一回挑戦して使えなかったらすぐ外すから」


「……はい」



虫酸が走るような彼の台詞に、我慢して私は答える。


……本当にごめんなさい。花月君……






それから直ぐに、彼は現れる。

私の隣に居るに少々驚いていたものの、すぐにパーティー申請を飛ばしてくれた。



《ニシキさんがパーティーに参加しました》



「……ここで合ってるな?よろしく――」


「おっ!初めてみたわ『商人』!あ、ストップ!素人はあんまり喋んな」


「……あ、ああ――分かった」



彼に心の中で謝罪しながら、その会話を眺める。


このカズキングというプレイヤーは、配信者という立場がそうでないプレイヤーより『上』だと思っている。素人という口ぶりからしてそうに違いないわ。そんな事あるわけないのに。


……だから、花月君への当たりは――私以上に酷い。



「いやあ、本当にお前リスナー増やせんの?地味だし雰囲気ねーし、何かモブAって感じで……何?『あの』商人?知らねーよ!」


「……」


「おっ、でも何かちょっとだけリスナー増えてんな……やるじゃん素人なのに!しかも商人……っははは!おもしれー」


「……ああ」


「ま、お前は適当に尻尾辺り攻撃しといて。俺の視界の隅で頼むわ、邪魔だけはすんなよ!……っし!んじゃ行くか、野郎ども!!」


「……ああ……」



徐々に花月君の目が、死んでいくのが分かる。相手にしたらダメだと悟ったのね。


あっちのコメント画面には、ニシキ君の事を知ってる様な者がいるようだ。肝心のカズキングは……興味も無さそうだけど。


……ごめんなさい、巻き込んで……




「――ハル。気にしなくて良いから」


「!は、はい!」



俯く私の肩を、ポンと叩く花月君。

苦笑いでそう言う彼は、私に同情してくれているのだろう。

その言葉で――沈んでいた心が軽くなった。


……現実では、私は彼の上司なのに。


今は――とっても貴方が頼もしい。



「大変だな、配信者ってのは」


「……ぁ、あはは☆そうですね☆」



小さく私に呟く彼。

こっちの『ハル』の口調に戻って――同じく私は小声で返した。



『ハルハル~大丈夫か~』『ニシキ呼んだのは良い判断だな『あれでも対人は良いけど対mobは……』『俺達はちゃんと見てるからな~いつでも一緒だぜ☆』


『きっしょ×ね あ、××キングの話しな』『おいニシキ、アイツ×せ お前そういうの得意だろ?』『×れ 責任は俺が取る』



「……あ、ありがとう、みんなー☆」



見えていなかった……いや、見る余裕が無くなっていたコメント画面。


私を応援?してくれるリスナーに手を振り――大分軽くなった足取りで、私はラロシアアイスを進んでいった。










『氷雪の大鹿』



ラロシアアイス・最深部……パーティーが二人から三人なら――『氷雪の大鹿』が待ち構える。

大鹿の攻撃パターンは突進、角の突き上げ……何より厄介で特徴的なのは、魔法の氷弾による遠距離攻撃だろう。


それは、アイススライムの様な単純な攻撃ではない。

一から三までのランダムな連弾、またはチャージしての三発同時射撃。

そしてその全てに追尾性能、直撃すれば状態異常、加えて防御時には破裂による衝撃プラス微量ダメージ。

もしギリギリで避けられたとしても、近くにいる場合は破裂でタダでは済まない厄介なもの。


そしてこれは――近距離相手には行わない。

つまるところ、パーティーの『盾役』が要となる。その立ち回りが下手であれば、大鹿は簡単に後衛に向いて蹴散らしてしまうだろうから。


このモンスターは、盾役の基礎、応用、心構え……それら全てを教えてくれるはずだ。


何よりも――大鹿の体力が、三割を切ってからは。


(次ページへ続く)


※RealLifeOnline攻略wikiより抜粋

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