『救世主』③


――――――


――――


――




彼の職業……『聖騎士』。

それ自体は、かなり強い職業だ。

攻撃力はそこまでだけど防御力が高い前衛職で、役割で言えば盾。

そして何といっても、スキルによる隙の無い回復を出来る事が一番の特徴だ。


敵の攻撃を集めながら、高い防御で耐えて、更に回復まで自分で行える。

ヒーラー要らずとまでは言わないが、パーティーに一人いればかなり楽になるだろう。

実際、トッププレイヤー達のパーティに入る事も多い職業だ。



でも。


あくまでそれは、使い手による。

例えばいくら自分が硬くて回復できるといっても……ガードもせずに攻撃を食らい続ければ、あっけなく体力は無くなる。


そしてまた、『ヘイト』を稼いでくれないとモンスターの攻撃はこちらに向く事になる。

私は『魔弓士』……防御なんてもってのほか、避けるのが手一杯だ。

そうなってしまえば、崩れるのは目に見える。

アタッカーの私は攻撃が出来ず、被弾。前衛がヘイトを稼いで対象を移してくれない限りモンスターのHPは減らないまま。

そしてやっとヘイトが彼に移ったと思えば、攻撃を食らってカズキングは死亡。



《貴方は死亡しました》


《パーティが全滅しました》


《通常フィールドに移動します》


《ラロシアアイスに移動しました》



やがて、そのアナウンスが流れるのは当然の事だった。



「あ、あはは☆残念でしたね」


「……はあ……何でオレが攻撃止めてる間に削り切れねえの?」


「え……」


「ったく、ほらもう一回行くぞ!」


「いや、一回でもう終わりって――」


「はあ?お前のせいで失敗したんだから、責任取れよ!」



正直、もう言い返す気力も無くなってしまった。

これは――何を言ってもダメな相手だと。


段々と、RLなのに楽しくなくなっていく。頭が痛くなってくる。



『××××××』『コイツマジで×××』『通報していい?あ、規制コメントじゃなくてコイツな』



「……ぁ、あはは☆大丈夫ですよ☆」



ふとコメントを見れば、規制だらけだけど……おかげで頭痛がマシになった。

小声でそうリスナーに手を振って言う。



『は、ハルハル……』『ハルハルは全く悪くないぞw』『こういう奴は当たったらホント最悪だよな~』



コメントで励まされる。

……もう少し、耐えれば彼も諦めるだろう。





《貴方は死亡しました》


《パーティが全滅しました》


《通常フィールドに移動します》


《ラロシアアイスに移動しました》



これが、三回目の失敗。



「あーーもう!また失敗かよ!」


「……ごめんなさい」


「『聖騎士』で配信者の俺と組めてる事はスゲー事なんだぞ?なのに何で、あんなの一匹倒せねーんだよ!!」


「……ごめんなさい、私じゃちょっと力不足で」


「……はあ……これじゃリスナーに示しつかないだろ!ったく……オレは全く悪くねえのに」



……頭、痛い。


なんで私、ゲームでこんな事なってるんだろ……

リスナー達にも申し訳ないし、私自身も全く楽しくない。



「あ、あの……」


「ああ!?」


「二人なのが駄目だと思うので、パーティーを募集してみたら――」


「――あのさ、分かるよな?俺達配信者の中に『素人』が入っても邪魔なんだよ」


「え……」


「それでクリアした所で、今リスナーが増えるか?増えねえだろ。リスナーの視界に邪魔なもの増やしてどうすんだ?」


「でも、今まで失敗――」


「ああ!?それはお前のせいだろ!」


「……ごめんなさい」


「ったく……」



駄目。

もう、こんな事なら、安易にコラボなんてするんじゃなかった。


辛い。


段々と精神が擦り減っていく。

自分の話が全く相手に伝わらない。

終わりが見えない。

リスナーにもこんな姿見せたくないのに。

こんな配信を見て楽しいわけがないのに。




弱々しく握る自分の手を、俯いて見る。



「――!」



……そんな時。

まるで私に、自分の存在を知らしめるように。




――『彼』がくれた、指輪が見えた。




「……あ、あの」


「あ?」


「……リスナーさんが、増えたら良いんですよね?」


「はあ?そりゃそうだろ」


「……今、私の知り合いに……間違いなく、リスナーさんが増える方が居ます。戦力にもなります。……その方をパーティーに誘わせてくれませんか」




……心の中で、『彼』に謝る。



ごめんなさい。


でも――今の私には、貴方しか、居ない。


この状況に、この配信も……この私自身でさえも、全てを救ってくれる可能性があるのは。




祈るように、その指輪を手で抑えた。



(お願い。助けて――)



「!おいおい誰だよそれ!そんな奴――早く言えよ!」



祈りが通じたのかは分からない。


でも――私の言葉は、彼の興味を引いたようだ。

……巻き込む事にもう一度謝りながら、私はその名を言った。





「……『ニシキ』さん。の方です」

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