閑話:商人スレの英雄達

掲示板回:抗戦する者達

【商人】RL商人専用スレ 十五G目 【最強】



200:名前:名無しの商人

こおりのクマさん強すぎ

俺は一体、後何回やり直せば良い……?


201:名前:名無しの商人

>>200

アイスベアーは動作が遅いからちまちま通常攻撃繰り返せ

平常心でひたすら殴り続けろ


202:名前:名無しの商人

バーバヤーガ、途中まで行けるかと思った瞬間にクマ召喚してワロタ


〇ね!!!!!!!1!


203:名前:名無しの商人

>>202

アイツ自分の力で勝ったみたいな顔すんのマジでムカつくよな


204:名前:名無しさん

お前ら、何か赤いスライム出て来たんだけど知らない?ちなみに瞬殺された


205:名前:名無しの商人

>>204

確かラロシアアイスのレアモンスターだな

滅茶苦茶すばしっこいけど一発当てたら勝ちらしい


確かドロップ超豪華だぞ、もったいね~w


206:名前:名無しの商人

それデマだぞ、俺たまたま攻撃当てれたと思ったら1も減ってねーの


207:名前:名無しの商人

アイツ、攻略情報によればHPは低いんだけど防御がすげー高いんだよ

半端な火力じゃ通らない


つまり商人はカス火力


208:名前:名無しの商人

悲しくなるからやめて



◇◇◇



「はは、皆頑張ってんな」



俺はしがない商人、レベルは26。

アイスベアーも相手出来る様になり、少し調子に乗っている……かもしれない。


最近、またニシキがプロゲーマー相手に勝ったとかでスレが大荒れしていたが、今はもう落ち着いた。

ちなみに例の動画はすぐに消されており、見れていないのが惜しい所。その時はスレ内にPK職と検証組と商人が入り乱れる混沌カオスになっていた。楽しかったといえば楽しかったが。


もう現れる検証組とやらも、俺達からは情報が得られないと分かってくれると良いが……彼は本当に、俺と同じ職業なのか不思議なぐらいだ。何か特別なスキル?を持っているらしいし。


◇◇◇



209:名前:名無しの商人

最近復帰した者です


みなさん行商クエスト?ってクリアされましたか?

途中のPK職が強すぎて全然なんですけど……何か攻略法とかありますか?


210:名前:名無しの商人

何そのクエスト?


211:名前:名無しの商人

知らないクエストですね


212:名前:名無しの冒険者

>>209

おい親切な俺が教えてやるよ

商人とかいう俺達の下位互換がPK職とやり合える訳ないだろ?


あのニシキとかいうのが特別なだけwwコイツ等全員ザコでーすwwwwww


213:名前:名無しの商人

>>212

おっ!毎日のお勤めご苦労!

よく来たな、ゆっくりしていけよ


214:名前:名無しの商人

コイツ何だかんだいってこの板の古参だよな

ツンデレか?この昨今じゃ受け悪いぞ

時代は一周回ってツンツンだから


◇◇◇



「……行商クエスト、か」



久しぶりにそれを聞いた気がする。

この通りこの板では、それはもはや禁句だ。


勿論アレから、彼の影響を受けて数々の商人達が挑んだ。

だが――結果は惨敗。

毎日の様に繰り返される失敗報告を受け、いつの間にかそのクエストは無かった事にされかけている。



◇◇◇


215:名前:名無しの商人

そもそも何で俺達がPK職とやらなきゃいけないんだよって感じだよな


216:名前:名無しの商人

一応護衛ってのがあるんだよ

本来は俺達は守られる側だっての


誰もマッチングしねーけど!


217:名前:名無しの商人

俺達、一応護衛される側だったんだっけな……今普通に戦ってるけど

商人ってなんだよ()


218:名前:名無しの商人

……じゃ、今日もし行商やるって言ったらお前ら集まる?


219:名前:名無しの商人

えっ


220:名前:名無しの商人

ど、どうしようっかな~


221:名前:名無しの商人

おいおいオフイベかよ


恥ずかしい///


222:名前:名無しの商人

俺はパスだわ

そういうのはちょっと


223:名前:名無しの商人

アタシは集まれるよ(はぁと


224:名前:名無しの商人

んじゃ、二十時にパーティー募集かけるわ~どうせ誰も入んないだろうしなw



◇◇◇



「……どうするかな」



その後も流れていく文字を眺めながら俺は呟く。

モンスター相手にあれからやって来たが、行商クエストは別だ。


何となく、気が向かなかったから。

この板の住人と同じように、『無いモノ』として扱っていた。



……もし、一人じゃなかったら――

『もしかしたら』。

そんな言葉が、俺の頭をぐるぐる回っていく。



◇◇◇


230:名前:名無しの商人

>>224 

了解 


◇◇◇



悩んだ末――俺は、そう打ち込んだ。










301:名前:名無しの商人

お、もう八時じゃん

がんばれよ~


302:名前:名無しの商人

行商かあ……

昔は護衛役に他職が居てくれた事もあったっけな


303:名前:名無しの商人

>>302

マジで最初の一週間ぐらいだろそれw

俺は未だに「えっ戦えないんすか……?^^;」って言われた事気にしてるよ


304:名前:名無しの商人

俺も思い出さない様にしてたけどお前のせいでトラウマが……クソが

アイツらちょっと戦闘出来るからってすげーー下に見てくるんだよな

いやまあ俺は何も出来ないんですけどね、それがまたキツイ


305:名前:名無しの商人

あああああああああああああああああああ!!!!!

クソクソクソクソくそあああああ



おっおっおっおっおおっ!?!?っスラッシュ!!wwwwスラッシュ?????wwwww



306:名前:名無しの商人

あ~あ、まーた商人が一人壊れちゃった


だから行商クエストの話は嫌なんだ



◇◇◇



「……あの時とは、違うんだよな」



荒れる?掲示板を見ながら、俺は呟いていた。

あれから――俺達は強くなった。

諦めていた戦闘に注力して、ラロシアアイスのモンスター相手でも戦えるようになった。


だから――




職業専用クエスト『行商クエストⅠ』


グリーンソルデに居る商人へ、荷車を運搬し行商して欲しい。


パーティーメンバー報酬:50000G


現在のパーティーメンバー:商人二名

パーティーリーダー   :商人一号




時刻は二十時八分。

少し遅れたのは……正直な所、だれか入っているか確認してから入りたかったからだ。


自分の卑屈な所だ。

……でも、二人になって誰も入ってこず、居た堪れない雰囲気にはなりたくなかった。



「……三人か」



俺は、それに手を伸ばす。



《『行商クエストⅠ』の募集に申請しました》


《申請が受理されました》


《パーティーリーダーのチャンネルに移動します》





「……お、来たかな。これで最後か」


「……よろしく」


「……はは、分かってはいたが男三人か」



言っちゃ悪いが、全員『地味』だった。

勿論俺も含めて……生産職のオーダーメイドなんて装備はない、通常の装備。


アイアンアーマーメイルに、アイアンアックス。

モブの中のモブ。


……ちょっと面白くなってしまう程に、『圧』が無い。



「あっ、お前今笑ったな?」


「全員酷い装備だよな」


「ははは、仕方ないって」



俺達は笑う。

三人が、同じ考えだった事に気付いたから。



「んじゃ、行くか!準備はいいな?」


「おう!」


「よっしゃー!行こうぜ」



声高らかに、俺達は歩き出す。

久しぶりの、そのクエストへ。

雑談を交えながら、時には笑い合って。



そうだ……俺は、一人じゃない。

パーティーなんだ。三人で力を合わせれば、もしかしたら――――――――







――――――


――――


――





《貴方は死亡しました》


《パーティが全滅しました》


《行商クエストⅠに失敗しました》


《通常フィールドに移動します》


《始まりの街に移動しました》






……それは、あっと言う間だった。


太刀打ちできなかった。

レベルは俺達と同じでも――雲泥の差だった。


一人でも三人でも変わらない。

そう思わせられる程に、一瞬だった。

装備、スキル、プレイヤースキル。

『戦闘』から逃げていた者と、それを生業とする者。

差が出るのは、当たり前だった。



「……あー、お疲れ」


「……やっぱ無理だよなあー!分かってたわ!」


「はは……」



三人、笑いながら声を掛け合う。



「……んじゃ、ありがとな~」



《そうきゅう様が離脱しました》



「……俺も落ちるわ~んじゃ」



《商人一号様が離脱しました》



「はは、そりゃそうだよな~」



一人になっても、笑い飛ばす様に呟く。

やっぱ、あいつらは強いよな。


負けて当然、ゲーム的に勝てる方がおかしいって。



「……はは」



笑いながら。

歩くスピードが上がる。

無理やり歪ませたその口と、痛いほど握った拳。



「…………」



……なんで。



……なんで、こんな――



「――クソッ!!!」



地面を足で蹴る。


人気のない、マップの端。

宛てのない怒り。



「はあ、はあ……」



息が切れる。それでもまだまだ消えないそれ。


なんで。



『今まで』も、そうだっただろ。


たかが、『ゲーム』だろ?


何――熱くなってんだよ、俺は。



《ログアウトします》



「……はあ」



帰ってきても、それは消えず。


天気予報には無かった大雨が、現実に大きく響いていた。


分からない。

俺は……一体『何』に、こんなにムカついているんだ?


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