エピローグ:変化する世界



《ラロシアアイスに移動しました》




「はぁ、やっとあそこから出れたか」



時間にしてはそこまで何だが、体感時間が長かった。

プロチームが全員ああって事は無いんだろうけど――『圧』が凄い。



「レッド、か」



『蛆の王』。その中で一番レベルの高い彼。

周りの三人とは比べ物にならない強さを感じた。


もし、俺が同じレベルであったとしても、勝てるかといえば――



「……もっと、強くならないとな」



この先、次のフィールドから、彼らの様な強敵が待っている……そんな気がした。


でも。

それが――楽しみで仕方がない。



「次は、何をしようかな」



辺境の入り口から歩き、ラロシアアイスの街へとゆっくり歩いていく。

次の計画を考えながら、強くなる為の方法を考えながら。



「……まあ、まずは亡霊を余裕で倒せるようにならないとな――」



亡霊の魂の欠片も集めないといけないし。

後……この左腕も普通の状態でも使える様になりたい。

そして出来れば黄金の一撃と蘇生術を使わない様にも……懐が痛いから。



……そんな感じに、やりたい事は山積みで。

そして、そんな『昔』とは全く異なるこの状況が――まるで、夢みたいだ。


惰性でしかプレイしていなかった頃とは大違いだよな。



《ハル☆ミ様からフレンド申請が届きました》



「――!びっくりした……ハルからか」



物思いに耽る間もなく、そんな通知が来る。


フレンド申請なんて……いや、本当に何時振りだ?

シルバーに会う、そのもっと前か?


こんな通知音だったっけな……



「えっと――確か、フレンド申請一覧から……」



本当に久しぶりすぎて、フレンド申請の受諾の方法すら忘れかけていた。

流石に悲しすぎない?



《ハル☆ミ様がフレンドに登録されました》



「……よ、良し。これで追加され――」




その時。

ハルが登録されたかどうか、確認をしようとした時。

フレンド一覧を開いた、そんな時。






「……え?」





思わず、俺は目を擦る。

VR空間で、目が霞む事なんて無い事は分かっている。


でも――今、俺の目の前の『それ』に、どうしても理解が追い付かなかった。




「皆、戻ってきてたのか……はは、そっか」




フレンドリスト。

そこには、ずっと『オフライン』の商人のフレンド達しかいなかった。


しかし、今は――その半分程が、ハルと同じ『オンライン』に戻っている。


それをやっと理解出来た時、思わず笑いがこぼれてしまった。



『「あ、今更ですが、フレンド登録ありがとうございます☆今後もよろしくお願いしますね☆」』


『「いやいや。こっちこそ、ありがとうな」』


『「へ?」』


『「はは。いや、何でもない」』


『「?何か良い事でもあったんですか?レアアイテムとか?」』



その後、ハルから飛んでくるチャット。

チャット越しでも、声が上ずっていたのが分かったのだろう。




『ああ。レアアイテム所じゃない……とびっきり嬉しい事に、『今』気付けたんだ』




きっと――それは、普通の職業で、普通に遊んでいるプレイヤーなら当たり前の事なんだろう。


でも、俺には……『商人』の俺には、この上ない程嬉しい事だった。




『変化する世界』。




シルバーに会ったあの日から、俺は変われた。

そしてこの世界も、同様に変わっていく。


たかがゲーム。しかし、俺にはもう――『それ以上』のモノだ。






『「それでもし良ければ、一緒にクエスト行きませんか?☆特殊クエストが出たんですよ!☆」』


『「ああ、勿論行くよ。俺なんかで良ければ」』


『「何言ってるんですか、『商人は最強』、さっき通りがかりの商人さんが言ってましたよ?」』


『「はは、それは良いな」』


『「あはは☆でしょ?」』


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