決闘を終えて
☆
《ダスト様との決闘に勝利しました》
決闘が終了し、右腕の感覚が戻っていく。
「……ふう」
息を吐く。
ああ、楽しかった。
やっぱり、プレイヤーとの戦闘は楽しい。
駆け引きや張り詰めた雰囲気、お互いの手を出し合うあの感じ。
ただ――今回の勝利は、完全に俺のスキルの初見殺しだった。
黄金の一撃の反射、黄金の蘇生術のブラフ。
プロゲーマーに会って、次に勝てるかどうかと言えばノーだ。
あのスピードは、目が慣れるなんてモノじゃない。
まだまだ経験が足りない。パワースウィングは今回使えなかったし――
「……嘘だ……負けて、ねえ――俺は負けてねえ!テメエは一回、死んだはずだろうが!!!」
戦闘の余韻に浸る間もなく、ダストはそんな事を言う。
ちなみに、戦闘後状態異常は治ったもののHPはそのままだ。
そして彼のHPは、恐らく1?残っている。HPゲージが見えない程に細くて分からないが。
決闘ではキル扱いにはならないんだな。
で。
……俺は、一体彼に何て言えば良いだろうか。
「何で、何でだよ!!こんなもん無効だ!!俺様が負けるわけが――」
「は、はは……またやったら別だって。そう気を落と――」
「あぁ!??テメエ、ころ――ッ!!」
掛ける言葉を間違えたなんて思う間もなく――彼は、HPがゼロになった。
後ろに居た『蛆の王』メンバーの、弓矢の一撃によって。
驚愕の表情のまま、光の塵となっていくダスト。
「……敗者は黙ってて」
「ありがとうトラッシュ。全く……それ以上、恥を上塗りしないでくれるかな」
「ははは……な、仲間に厳しいんだな」
ゴミを見る様な目で見る少女と、冷酷にそう言うレッド。
プロってのは、そういうモノなのだろう……多分。
「君のお陰で、配信は大荒れだ。番狂わせにも程があるね」
「はは、吹っ掛けたのはお前達だろ」
「フフ、返す言葉も無い」
お陰で楽しい戦闘が出来たから、俺としては全然良いんだけどな。
「で?どうする、満身創痍の俺を――キルするか?」
笑って、俺はそうレッドに言う。
手を広げるジェスチャーをすれば、彼は笑った。
「まさか。これ以上チームを汚す訳には行かないからね」
「そうしてくれると助かるよ。……行って良いか?」
……正直、後ろの二人が滅茶苦茶睨んでくるせいで居づらいんだよ。
俺、何も悪い事してないはずなんだけどな……
「ああ。最近焦り過ぎたのが裏目に出たね……参った参った。また、やり直しだ」
「……精々頑張ってくれ。今日は楽しかった、ありがとな」
「――楽しかった、か。君の様なプレイヤーは初めてだよ」
意外そうな顔をするレッド。
……正直、俺は良い思いしかしてないから、少し申し訳ない。
「フフ。君とはまた、闘う事になるかもしれないね」
「はは、その時は宜しくな」
空を向いてそういう彼に、俺は笑いながらそう言って――辺境の出口へと歩く。
背中に、三つの濃厚な視線を感じながら。
……全く、ここまで綺麗に流れていったってのに。
「……――――死ね――!!」
背を向けた後――突如背後に迫る、殺気が一つ。
正直な所、バレバレだった。
恐らく蘇生アイテムを使ったのだろう。
そして尚、『スプリント』も『雷脚』も何もバフの掛かっていない彼の動き。
申し訳ないが……彼の一番のスピードを体感した直後の今、一番仕掛けては行けないタイミングだったな。
実に『悪』っぽくて、俺は好きだけどさ。
「――『パワースウィング』」
「ぶッ!!?……」
用意していたそれを、振り向き様カウンター代わりに放つ。
きっと、怒りで我を忘れて正確な判断が出来ていないのだろう。
クリーンヒットしたダストの身体は、面白い程に吹っ飛んでいった。
「……それじゃ」
……もう、後ろの彼らを見るのが怖い。さっさと出よう。
『蛆の王』。そのプロチームを背にして。
俺は、そそくさと出口へと向かった。
《ラロシアアイスに移動しました》
☆
「……まさか、こちらが負けるとはね」
ラロシアアイス・辺境。
『蛆の王』、リーダーの彼は、低い声で呟いた。
減っていくリスナー、罵倒の嵐で荒れるコメントを見ながら。
「こんな事なら、自分がやるべきだった」
「ッ――やめ――……」
「黙ってて、死にぞこない」
その横の少女は、彼に向けてそう言う。
……先程まで暴れていた、金髪の少年の身体を踏みながら。
「まあ、後悔しても遅いね。……あの依頼は一応、達成出来たから良しとしよう」
「……あのバカみたいな威力の攻撃と、変な蘇生の事?」
「ああ。商人の『隠しスキル』、か。依頼主もこんな回りくどい事をしなくても良いと思うんだが。彼ならきっと二つ返事で聞かせてくれるだろう」
「良いんじゃない。G貰えるし。どうでも良いけど」
「フフ、少ないけどね」
笑って彼は彼女に言う。
「……久々に見たよ、アレだけ戦闘を楽しんでいるプレイヤーは」
「え、きも。レッド、あの男に惚れたの?」
「……フフ、羨ましくなっただけだ。じゃ――行こうかトラッシュ。ガベージ。……ダスト、君もだ」
「チッ――クソ……」
地面に転がる彼は、未だに悔しさと恥ずかしさが混じった表情で立ち上がる。
「……私達が彼にやられた事で、『商人』という職業は良くも悪くも注目を浴びるだろうな」
「ほんと、不愉快。ダストさえいなければ――」
「フフ――完全に私の自業自得だ。また『やり直し』だね」
彼らもまた、この辺境から消えていった。
そして彼の言葉通り、この一大事件は拡散される事になる。
『商人』が、PK職プロゲーマーを決闘で破った、と。
それは偶然、幸運だった事と捉える者が大半だった。
しかし――その逆と考える者も現れる。
『蛆の王』失墜と共に――彼の職業の名が、少しずつ広がっていく。
『ニシキ』――その名もまた、少しずつだが広まっていく。
……波紋の中心の彼は、それを知る由も無いが。
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