決闘を終えて



《ダスト様との決闘に勝利しました》



決闘が終了し、右腕の感覚が戻っていく。



「……ふう」



息を吐く。

ああ、楽しかった。


やっぱり、プレイヤーとの戦闘は楽しい。

駆け引きや張り詰めた雰囲気、お互いの手を出し合うあの感じ。


ただ――今回の勝利は、完全に俺のスキルの初見殺しだった。

黄金の一撃の反射、黄金の蘇生術のブラフ。


プロゲーマーに会って、次に勝てるかどうかと言えばノーだ。

あのスピードは、目が慣れるなんてモノじゃない。

まだまだ経験が足りない。パワースウィングは今回使えなかったし――




「……嘘だ……負けて、ねえ――俺は負けてねえ!テメエは一回、死んだはずだろうが!!!」




戦闘の余韻に浸る間もなく、ダストはそんな事を言う。

ちなみに、戦闘後状態異常は治ったもののHPはそのままだ。

そして彼のHPは、恐らく1?残っている。HPゲージが見えない程に細くて分からないが。

決闘ではキル扱いにはならないんだな。


で。


……俺は、一体彼に何て言えば良いだろうか。



「何で、何でだよ!!こんなもん無効だ!!俺様が負けるわけが――」


「は、はは……またやったら別だって。そう気を落と――」


「あぁ!??テメエ、ころ――ッ!!」



掛ける言葉を間違えたなんて思う間もなく――彼は、HPがゼロになった。

後ろに居た『蛆の王』メンバーの、弓矢の一撃によって。


驚愕の表情のまま、光の塵となっていくダスト。



「……敗者は黙ってて」


「ありがとうトラッシュ。全く……それ以上、恥を上塗りしないでくれるかな」


「ははは……な、仲間に厳しいんだな」



ゴミを見る様な目で見る少女と、冷酷にそう言うレッド。

プロってのは、そういうモノなのだろう……多分。



「君のお陰で、配信は大荒れだ。番狂わせにも程があるね」


「はは、吹っ掛けたのはお前達だろ」


「フフ、返す言葉も無い」



お陰で楽しい戦闘が出来たから、俺としては全然良いんだけどな。



「で?どうする、満身創痍の俺を――キルするか?」



笑って、俺はそうレッドに言う。

手を広げるジェスチャーをすれば、彼は笑った。



「まさか。これ以上チームを汚す訳には行かないからね」


「そうしてくれると助かるよ。……行って良いか?」



……正直、後ろの二人が滅茶苦茶睨んでくるせいで居づらいんだよ。

俺、何も悪い事してないはずなんだけどな……



「ああ。最近焦り過ぎたのが裏目に出たね……参った参った。また、やり直しだ」


「……精々頑張ってくれ。今日は楽しかった、ありがとな」


「――楽しかった、か。君の様なプレイヤーは初めてだよ」



意外そうな顔をするレッド。

……正直、俺は良い思いしかしてないから、少し申し訳ない。



「フフ。君とはまた、闘う事になるかもしれないね」


「はは、その時は宜しくな」



空を向いてそういう彼に、俺は笑いながらそう言って――辺境の出口へと歩く。

背中に、三つの濃厚な視線を感じながら。





……全く、ここまで綺麗に流れていったってのに。




「……――――死ね――!!」




背を向けた後――突如背後に迫る、殺気が一つ。

正直な所、バレバレだった。

恐らく蘇生アイテムを使ったのだろう。


そして尚、『スプリント』も『雷脚』も何もバフの掛かっていない彼の動き。

申し訳ないが……彼の一番のスピードを体感した直後の今、一番仕掛けては行けないタイミングだったな。


実に『悪』っぽくて、俺は好きだけどさ。



「――『パワースウィング』」


「ぶッ!!?……」



用意していたそれを、振り向き様カウンター代わりに放つ。

きっと、怒りで我を忘れて正確な判断が出来ていないのだろう。

クリーンヒットしたダストの身体は、面白い程に吹っ飛んでいった。



「……それじゃ」



……もう、後ろの彼らを見るのが怖い。さっさと出よう。

『蛆の王』。そのプロチームを背にして。



俺は、そそくさと出口へと向かった。



《ラロシアアイスに移動しました》





「……まさか、こちらが負けるとはね」



ラロシアアイス・辺境。

『蛆の王』、リーダーの彼は、低い声で呟いた。


減っていくリスナー、罵倒の嵐で荒れるコメントを見ながら。



「こんな事なら、自分がやるべきだった」


「ッ――やめ――……」


「黙ってて、死にぞこない」



その横の少女は、彼に向けてそう言う。

……先程まで暴れていた、金髪の少年の身体を踏みながら。



「まあ、後悔しても遅いね。……あの依頼は一応、達成出来たから良しとしよう」


「……あのバカみたいな威力の攻撃と、変な蘇生の事?」


「ああ。商人の『隠しスキル』、か。依頼主もこんな回りくどい事をしなくても良いと思うんだが。彼ならきっと二つ返事で聞かせてくれるだろう」


「良いんじゃない。G貰えるし。どうでも良いけど」


「フフ、少ないけどね」



笑って彼は彼女に言う。



「……久々に見たよ、アレだけ戦闘を楽しんでいるプレイヤーは」


「え、きも。レッド、あの男に惚れたの?」


「……フフ、羨ましくなっただけだ。じゃ――行こうかトラッシュ。ガベージ。……ダスト、君もだ」


「チッ――クソ……」



地面に転がる彼は、未だに悔しさと恥ずかしさが混じった表情で立ち上がる。



「……私達が彼にやられた事で、『商人』という職業は良くも悪くも注目を浴びるだろうな」


「ほんと、不愉快。ダストさえいなければ――」


「フフ――完全に私の自業自得だ。また『やり直し』だね」



彼らもまた、この辺境から消えていった。


そして彼の言葉通り、この一大事件は拡散される事になる。

『商人』が、PK職プロゲーマーを決闘で破った、と。


それは偶然、幸運だった事と捉える者が大半だった。

しかし――その逆と考える者も現れる。


『蛆の王』失墜と共に――彼の職業の名が、少しずつ広がっていく。

『ニシキ』――その名もまた、少しずつだが広まっていく。



……波紋の中心の彼は、それを知る由も無いが。

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