掲示板回:打倒する者達
600:名前:名無しの商人
スレ進みすぎだろ何があった……って思ったら愚痴だらけでワロタ
601:名前:名無しの商人
皆止まらなかったからな
今だけは自分語りを許してやる
602:名前:名無しの冒険者
お前ら敗者同士で慰め合いかよくっさwww
603:名前:名無しの商人
>>602
混ざりたいんか?ん?
604:名前:名無しの商人
昨日行商クエスト行ってた奴、何も書き込みが無いって事は失敗だろうな
605:名前:名無しの商人
仕方ないって、俺達はアイツじゃねーんだから
606:名前:名無しの商人
そりゃそうだろw
あ!俺はちょっと用事があってな!
607:名前:名無しの商人
>>605嘘乙
まあどうせニシキも何か特別なスキル的なのがあるから行けてるんじゃない?前に色々検証組が騒いでたし
ますます道が遠のいていく
608:名前:名無しの商人
うむ、ただアイツはまた別だと信じたいけどな
何にせよ俺達が適う相手じゃないってこった……PK職は
あーあ、何か見ただけでアイツらが即死するスキルが欲しいわ
……でも、モンスターに善戦してるだけ凄いと思うぞ俺達
609:名前:名無しの商人
確かに
商人最強!商人最強!
◇◇◇
「……」
一日経って――何時ものように夜、掲示板を見る。
毎日楽しみにしながら見てたそれも、今は全く面白くない。
むしろ不快だ。……何故かは分からないが。
とにかく、昨日のあの惨敗からおかしくなっている。
――だから。もう一度、俺は『それ』を、試してみたくなっていた。
◇◇◇
610:名前:名無しの商人
今日も行商やる奴いたら、二十時に募集かけてるわ
611:名前:名無しの商人
は?
612:名前:名無しの商人
>>610
おいおい正気かよw
◇◇◇
「まあそうだよな」
昨日と同じ様に募集をかければ、否定的なレスがすぐにつく。
……もし誰も来なければ一人でも行けばいい。
「準備、するか」
昨日のように希望は持たず。
自分に出来る事――『全部』を、ぶつけてみる事にした。
このイライラを治めるには、それが一番だと思ったから。
☆
《商人一号様がパーティーに加わりました》
《そうきゅう様がパーティーに加わりました》
「……はは、またお前らかよ」
「昨日ぶりだな」
「ま、行けたらラッキーぐらいで来た」
二十時丁度――集まったのは、昨日と同じ二人組。
「……んじゃ、行くか」
「ああ」
「行こう」
昨日とは違い、雑談も無い。
正直――ありがたかった。
今は、このクエストだけに集中したかったから。
《行商クエストを開始しました》
《クエスト開始に伴い、専用フィールドに移動します》
《クエストを開始します》
☆
「……!来たぞ、右だ」
「了解」
「……はあ、まあ居るよな」
やがて、『感知持ち』がそう言う。
俺は――震える右手を握り締めた――――――――
――――――
――――
――
《商人一号様が死亡しました》
《そうきゅう様が死亡しました》
「――はあ、はあ……ッ!!」
飛来する矢を何とか避け、聞こえたアナウンスで二人の死を確認する。
……日を改めた所で、当たり前の様に何も変わらなかった。
敵のパーティーは片手剣を持つ前衛に、弓使い、回復職の後衛二人。
一方の俺達は――前衛?もどきの三人。
俺達の職業名を見た途端笑われ、遊ばれる様にHPを減らされていった。
そんな油断塗れの奴らにさえ――俺達は、太刀打ち出来なかった。
「……『パワーショット』!」
「あー、うざ。さっさとヤれよ」
「ハハハ、面白れー!無様すぎんだろ!」
そして今、俺は一人。
前衛と回復職は、矢を避ける俺を見てまた笑っていた。
「――ぐッ!!」
「お、当たった」
「ラスト一発だぜ!」
急いで体勢を立て直し、弓使いを睨み付ける。
油断しているようだが――前衛の後ろから俺を狙っており、不意打ちも許されない。
……でも。
「おいおい、まだ向かってくるのかよ」
「ハハ、商人様の雄姿をバカにすんなって!」
「はあ、そろそろ死ねっての……『パワーショット』!」
《貴方は死亡しました》
「――がッ!!」
「チッ、コイツ死に際に……」
「ッうぜー!まあいいや、さっさと荷車壊そうぜ」
もう避けられないと分かったから、俺は死に際に手に持つ斧を投擲した。
最期の一撃は、狙い通りに前衛の首に命中。
……俺達が死に物狂いで削った彼のHP、半分。
それに加えて先程の一撃で四割。
それ以外の仲間は全く削れていない。
本当に――笑えてくる弱さだよな、俺。
「あーあ、『商人』ってマジで弱いんだな」
「な?回復縛り余裕っつたろ」
「俺一人でも行けそうだわ」
目の前、荷車へと去っていくPK職。
俺は――現れるその選択肢を見つめて、覚悟を決めた。
《サクリファイスドールを使用しますか?》
『「ああ、使わせてくれ」』
なけなしの俺のG。
装備もあれからアイアンからスチールへと変えた。勿論NPC品だけど。
そして残った、全Gを投入したこのアイテム。
日々上がっていくその価値――今や、需要は増え続けてその額は百万G。
何やってんだろうな俺。
そんな高級アイテムを、こんな所で使っちまってさ。
「……ッ――は?マジ?」
「おいおい復活しやがった!」
「まさかこんなとこで使ったのか?アレ」
いや、そりゃ引くよな。
分かるよ――状況的に、使っても勝ちっこ無いって。
不意打ちもせず――完全に無駄な『復活』。
百万Gの『無駄遣い』。
……でもさ。
ここで使わなきゃ、後悔する気がしたんだ。
「ぶっ、いや何もしないんかい!」
「……何か気味悪いんだけど」
「さっさとヤるか――『パワーショット』!」
弓使いが、矢先を俺に向ける。
その時――俺の脳裏に、ある場面が浮かぶ。
俺を変えてくれた――『彼』の姿。
◇◇◇
100:名前:名無しのプレイヤー
矢を斧で防いでんだけどwww
101:名前:名無しのプレイヤー
どうやってんだよコレ
102:名前:名無しのプレイヤー
片手斧ってこんな使い方出来たのか……
◇◇◇
『あの時』の動画と、当時のスレを思い出す。
ニシキがハルハルの生配信で戦っていた、その姿。
飽きる程見た、それでも飽きなかった。
……勿論、PK職が商人に倒されるっていう爽快さもあるが。
飽きない理由は――何よりも、それが『勉強』になったからだ。
「――え、今……」
「嘘だろ?」
「い、いやいやまぐれだって!」
目の前の奴らが、驚きで固まっている。
……モノは、試してみるもんだ。
今、確かに――俺は、矢を刃の『腹』で落とした。
ニシキの動きを真似しただけだが。
何十回、何百回と見て、考察して――自分なりに動きを理解したつもりだ。
でも――今、成功して分かる。
きっとこれは偶然。
次やれって言われても――出来る気がしないけど。
「らああああああああああああああ!!!」
虚勢でも良い。
今は――声を上げるんだ!!
前に進め!
武器を構えろ!!
舞い降りた反撃の機会を、決して無駄にするんじゃない!
「――ッ!?」
大声を上げた事が、好を成した。
一瞬、前衛が怯んだからだ。
「『スラッシュ』!!」
そのまま、俺は接近――彼に武技を放つ。
「ぐッ――」
「ガっ――」
武技が彼を襲い、無事に到達。
同時に、背後の弓使いの攻撃を食らう。
体勢を立て直す時――ようやく構える回復職の姿が見えた。
「――させるかよ!」
「――ッ、『ヒーリン――うあ!!」
俺の斧により、彼の詠唱を妨害。
何度も練習してきた投擲が役に立った。
「はっ、や、やった――」
今、俺は――自分でも不思議な程に闘えている。
そして……やっと、分かった。
今まで無かった、ムカついていた理由が。
「――……そっか」
脈動する鼓動を抑えながら、目の前を見渡す。
それは、紛れもなく俺が作り出した風景だ。
……彼がPK職を圧倒した動画を、馬鹿みたいに見た日々。
……住人に影響を与えたニシキの様に、自分も彼らにモンスターを狩る知識を与えた。
……そして今、無謀にも彼の様にPK職に勝ちたいと思っている。
馬鹿だよな、俺。
ずっと――彼に憧れていく内に。
いつのまにか自分は――
正直になれよ、俺。
俺も――アイツみたいになって、認められたいんだろ?
やがては商人を見下して来た奴ら全員、この俺が見返してやるんだろ?
――だから。
もし、今。
仮に……ここに立ってるのがアイツだったらさ。
あの『ニシキ』が――
「あああああああああ!!」
「ッ――パワーショット!」
また大声を上げて、俺は弓使いに向けて走る。
「ぐッ――」
「『アサルトブレード』!!」
「ぶッ!!」
当然の様に、『二度目』は無かった。
弾かれる事なく矢は俺の体に到達――そして体勢が崩れた所へ追撃の片手剣の武技。
「はあ、はあ……」
残りHP――二十パーセント。
対するは、PK職三人。
絶望的な現実。
「おらおら、さっきまでの威勢は何だったんだよ!」
「ッ――ぐッ!!」
「ぶっ、頑張れ~商人」
前衛の一振りが俺を襲う。
舐められているのだろう、彼しか攻撃してこない。
油断か回復もしていない――なのに。
……それでも、相手にならなかった。
避けようと思っても、彼の早さに間に合わない。
「おらあ!」
「がッ――」
残りHP、十パーセント。
終わりはすぐそこに。
……分かってたよ。
俺は、アイツみたいにはなれない。
彼から幾ら学んでも、俺には無いモノが多すぎる。
戦闘スキル、身のこなし、底無しの集中力。
『
一括りすれば、これだろう。
ニシキにあって、俺に無いモノ。
悲しい事に……この仮想世界で、その現実は変えられない。
「ッ!」
「無駄だっての――!」
「かはッ――」
残りHP、五パーセント。
眼前に迫る、片手剣。
「ハハハ!残念だったな、ザコ職業が――」
俺は、諦めて目を閉じた。
やがて聞こえるはずのアナウンスに。
一瞬だけ見えた、その夢の『終わり』に――――
――――――
――――
――
……なのに、『ソレ』は聞こえなかった。
そして。
代わりに聞こえたのは――
「『パワーショット』!!」
「――ぐっ!!……コイツは――死なせねえ!!」
「っ、死なせて溜まるかよ――らあ!!」
「がッ――!?」
そこで俺は、目を開けると――
「――『スラッシュ』!!」
「ふ、ふざけんな――こんなとこで――回復は――あ――」
「はは、残念だったな……油断し過ぎなんだわ」
死んでいたはずの俺の仲間が、前衛を押し倒して武技を入れようとしている所だった。
そして敵の回復職も、もう一人の投擲で倒れている。
弓使いの武技も、仲間がその身で俺を庇ってくれた。
頭がそれを理解するのに、少し時間が掛かってしまったが――
「――え、お前らも『ドール』使ったのか!?って持ってたのか!?」
「ん?な、何だこのスキル……ってうるせえ!『あんな』の見せられて黙ってられっかよ!」
「本当にな、お前だけ頑張りすぎだっての」
消えゆく一人の前衛のPK職を前に、助けてくれた二人の仲間はそう言う。
嘘みたいだ。
本当に、やったんだよな。
「……チッ!クソがッ!!何やられてんだよ!!」
「ど、どうすんだよ……アレが居なきゃ……」
明らかに動揺する、残されたPK職二人。
俺はさっきの隙にポーションでHPを回復。
と、いう訳で……状況は三対二。
じりじりと、俺達は近付いて行く。
先程までも――前衛がこのパーティーを引っ張ってきており、後ろのコイツらはそこまでだった。
盾が消えた今、有利なのは俺達。
つまり。
たった今――この戦況は、ひっくり返ったんだ。
「……やるぞ、お前ら!」
「「ああ!」」
アイツじゃなくても。
俺が、アイツみたいになれなくても――
勝てるんだ。
『今』の、俺にある
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