報酬確認、遭遇




「……中々増えてるな……」



あれから久しぶり?にRLにログインした。

久しぶりといっても一日も経ってないんだが。

それだけこれに染まっているって事だろう。


VR酔いの恐怖も少しあるが、大丈夫だ。

なったことはないが、二日酔いもあんな感じになるんだろうな。

……もう無茶はやめておこう。



「えーっと――スキルがまず増えて、後はラロシアストーン、亡霊の魂?か。欠片って書いてあるけど」



とりあえず増えているモノを確認。


……うん。

半分以上初耳のモノだ。



「分かるのは、ラロシアストーンだけか」



ラロシアストーン。

ハルとのクエストで、指輪に変わったそれ。



「……ああ、クエストも増えてる」





『氷宝玉の指輪の取得』



おめでとう、君は世にも珍しい氷宝玉を手に入れた。

宝石加工職人の元へ行き、氷宝玉の指輪を手に入れよう。



必要マップ:『ラロシアアイス・辺境』

必要アイテム:『ラロシアストーン』

報酬:氷宝玉の指輪





この通り。

別に行商クエストの用になっているわけでなく、ただの交換だけのようだ。


『氷宝玉の指輪』。

ステータスが大幅に上昇する有用なアイテム。

……前はハルにあげたけど、また手に入る機会が来るとは。


また後であの婆さんの所に行かないとな。



「で……次はスキルか」




《スキル説明:高速戦闘スキル》


戦闘中に一度だけ、MPを半分消費し3秒間だけ二倍のスピードで動く事が出来る。



……。

書いている事は単純明快。


しかし――滅茶苦茶強いぞ?これ……

MPを半分消費とあるが、今のところほぼMPは余ってばかりだからな。


武技は消費の少ないスラッシュが主体だし。

出し得みたいな技だな。戦闘中一度だけだけど。

……早く試したい。



「……で。次々……」



試すのは最後のコレを見終わってから。

えっと……




【亡霊の魂の欠片】


ラロシアアイス・フィールドボスが落とした物。


見た所、何かの武器の一部に見える。

同じ物を幾つか集めたら完成するかもしれない。




……一応見た目としては、黒い塊にしか見えないのだが。

説明文の通りだと、何個か集めたら武器が完成するのか。


確かに自在に武器の形を変えてたから、もしかしたら……使っても無い片手斧にもなるのかな?

何にせよ――恐らく今の俺の装備よりは強そうだ。

なんたってあの亡霊の武器だし。



「……何からしよう」



指輪も取りたい、スキルも試したい。亡霊の武器も完成させたい。

色々ありすぎて迷ってしまう。


……まあ、順当に指輪から行こうか。





「……で、どうやって行くんだ?これ」



そう思ってラロシアアイスのフィールドに佇んで十秒程。



「……あった」



マップを見れば、確かに『ラロシアアイス・辺境』が追加されていた。

場所で言えば――アイスベアーとバーバヤーガの辺り。


たしかハルとのクエストの時、そんなアナウンスが聞こえてたっけな。

そうと決まれば、早速向かうとしよう。





《ラロシアアイス・辺境に移動しました》



「……そういえば、これ行商クエストじゃないんだったな」



クエストといえば行商クエストのイメージがあったせいで、ここまで来るのに変に身構えてしまった。

警戒するに越したことはないんだが。専用フィールドでもないみたいだし。

……まさか、この辺境までPK職が来る事はないだろう。



《辺境の宝石職人の家に入りますか?》


前と全く同じ場所に行くと、そのアナウンスが流れる。

ロアスさんの家。

……よく見たら、表札にもしっかりそう書いてあった。


はい、と。


《辺境の宝石職人の家に移動しました》



「……ニシキ。また来たのかい」


「!……名前、憶えてくれたんですね」


「もちろん。ここに来る者なんてそうそういないさね」



……良く知らないが、俺以外にも結構プレイヤーが来ているんじゃないのか?

これだけクエストで行っているわけだし。


まあ、ゲームだし。そういうセリフが設定してあると考えよう。



「それで、何か用があって来たんだろ?」


「はい、実はまたこれが手に入って……加工して頂けないかなと」



そう言ってから、俺はインベントリからラロシアストーンを見せる。

少し驚いた様な顔をする



「……おや、また持って来たのかい。中々拾えるものじゃないんだがねえ」


「はは、そうなんですか」



拾ったというよりかは、ボスを倒して奪い取った……って感じなんだが。



「そうさね。ニシキには特別にやってあげよう。街の奴らからの評判も良いからね」


「……?ありがとうございます」


「何不思議そうな顔してんだい、アレだけ悪党を懲らしめてるのはアンタだろ?」



一応、このゲームのNPCには好感度ってものがある。

正直これまで気にする事も無かったから忘れてたが。


というか、PK職を倒したらそれが上がるってのも初めて知った訳で。



「それは、どうも」


「んじゃ――はい、選びな」



《クエスト達成報酬を以下から選択して下さい》




【力の氷宝玉の指輪】

【知の氷宝玉の指輪】

【器用の氷宝玉の指輪】

【敏捷の氷宝玉の指輪】

【体力の氷宝玉の指輪】

【精神の氷宝玉の指輪】



……実の所、もう決めてある。


俺が欲しいのは――



「それでいいのかい」


「頼みます」


「そうかい。それじゃ――受け取りな」



《『氷宝玉の指輪の取得』クエストを達成しました!》


《報酬として『器用の氷宝玉の指輪』を取得しました!》


《通常フィールドに戻ります》


《ラロシアアイス・辺境に移動しました》



「ありがとうございました――」



そう言いながらワープしていく俺。

笑って見送ってくれたロアスさんを見て、NPCであった事を忘れていた自分に気付く。



「VR技術ってのは凄いもんだな……」



何度目か分からない台詞を苦笑いしながら吐き、俺はインベントリのそれを確認した。





【器用の氷宝玉の指輪】


DEX+30  必要DEX値20


ラロシアアイスの特産品の一つ、ラロシアストーンを加工して作製された指輪。

氷結晶を象った造形が美しい。


装備時、ステータスを上昇させる。


レアリティ:5


製作者:ロアス(NPC)





DEX。

それは戦闘の際、武器のコントロール、投擲に大きく関わってくる。


急所に攻撃を叩きこむ時、斧を投擲する時。

……感覚ではあるが、やはりDEXが上がるとやりやすくなっている気がする。

微量でも、積み重ねれば大きな違いだ。


俺のプレイスタイルもあって、DEXはかなり重要なステータスだ。

モンスターからのドロップGが増えるのも勿論大事だが。



「よし……と」



俺の指に似合わない綺麗な氷宝玉の指輪を装備。

これで器用値が三十も増えるのだから、かなり強いよな、これ。



「それにしても……俺の好感度が高いなんてな」



誰もいないフィールド。

指輪を眺めながら、呟く。


誰かの為に、PKKをやってきたわけじゃない。

……でも、それが誰かの為になるのなら嬉しい事だ。


NPCであっても、それは変わらない。

もしそれがプレイヤーであったのなら、尚更に。

こんな俺でも、誰かの為になれるのなら――



「……行くか」



物思いに耽る自分を無理矢理覚めさせ、ロアスさんの家から離れる。


そして。



「――!?」



不意に、背中を冷たい感覚が通った。

あの時――俺の腕を斬られた時のような。


殺意。


それも――多くの。



《??? level55》


《??? level38》


《??? level35》


《??? level40》



「やっと、気付いてくれたようだ――」



それは、血の様に紅く、長い髪。

男で、見た目は青年だ。

声はそれ程大きくないが、頭の中に響く声。

左手に盾を、右手に剣を持つ彼。



そして、その後ろには――



「早く終わらせてよ、『レッド』」

「ハハハハハ!!オレ、商人なんて初めて見たぜ!」

「煩いダスト」



三人。

名前を隠している事から、PK職のプレイヤーというのは確定だろう。

まあ――見ただけでそれは分かっていたが。


……とにかく。


俺は今、絶体絶命だ。



「まあまあ落ち着け――すまないな、急に」



普通に話しているだけなのに、脅されている様な。


レベル55。でも、それだけじゃない。

周りの三人も相当だが――この紅い髪の男だけは別格だ。

只者ではないオーラ。格上なんてモノでは無いそれ。


そんな、レッドと呼ばれる男が――もう一度口を開く。



「私達に協力してくれないか?『ニシキ』」



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