報酬確認、遭遇
☆
「……中々増えてるな……」
あれから久しぶり?にRLにログインした。
久しぶりといっても一日も経ってないんだが。
それだけこれに染まっているって事だろう。
VR酔いの恐怖も少しあるが、大丈夫だ。
なったことはないが、二日酔いもあんな感じになるんだろうな。
……もう無茶はやめておこう。
「えーっと――スキルがまず増えて、後はラロシアストーン、亡霊の魂?か。欠片って書いてあるけど」
とりあえず増えているモノを確認。
……うん。
半分以上初耳のモノだ。
「分かるのは、ラロシアストーンだけか」
ラロシアストーン。
ハルとのクエストで、指輪に変わったそれ。
「……ああ、クエストも増えてる」
□
『氷宝玉の指輪の取得』
おめでとう、君は世にも珍しい氷宝玉を手に入れた。
宝石加工職人の元へ行き、氷宝玉の指輪を手に入れよう。
必要マップ:『ラロシアアイス・辺境』
必要アイテム:『ラロシアストーン』
報酬:氷宝玉の指輪
□
この通り。
別に行商クエストの用になっているわけでなく、ただの交換だけのようだ。
『氷宝玉の指輪』。
ステータスが大幅に上昇する有用なアイテム。
……前はハルにあげたけど、また手に入る機会が来るとは。
また後であの婆さんの所に行かないとな。
「で……次はスキルか」
□
《スキル説明:高速戦闘スキル》
戦闘中に一度だけ、MPを半分消費し3秒間だけ二倍のスピードで動く事が出来る。
□
……。
書いている事は単純明快。
しかし――滅茶苦茶強いぞ?これ……
MPを半分消費とあるが、今のところほぼMPは余ってばかりだからな。
武技は消費の少ないスラッシュが主体だし。
出し得みたいな技だな。戦闘中一度だけだけど。
……早く試したい。
「……で。次々……」
試すのは最後のコレを見終わってから。
えっと……
□
【亡霊の魂の欠片】
ラロシアアイス・フィールドボスが落とした物。
見た所、何かの武器の一部に見える。
同じ物を幾つか集めたら完成するかもしれない。
□
……一応見た目としては、黒い塊にしか見えないのだが。
説明文の通りだと、何個か集めたら武器が完成するのか。
確かに自在に武器の形を変えてたから、もしかしたら……使っても無い片手斧にもなるのかな?
何にせよ――恐らく今の俺の装備よりは強そうだ。
なんたってあの亡霊の武器だし。
「……何からしよう」
指輪も取りたい、スキルも試したい。亡霊の武器も完成させたい。
色々ありすぎて迷ってしまう。
……まあ、順当に指輪から行こうか。
☆
「……で、どうやって行くんだ?これ」
そう思ってラロシアアイスのフィールドに佇んで十秒程。
「……あった」
マップを見れば、確かに『ラロシアアイス・辺境』が追加されていた。
場所で言えば――アイスベアーとバーバヤーガの辺り。
たしかハルとのクエストの時、そんなアナウンスが聞こえてたっけな。
そうと決まれば、早速向かうとしよう。
☆
《ラロシアアイス・辺境に移動しました》
「……そういえば、これ行商クエストじゃないんだったな」
クエストといえば行商クエストのイメージがあったせいで、ここまで来るのに変に身構えてしまった。
警戒するに越したことはないんだが。専用フィールドでもないみたいだし。
……まさか、この辺境までPK職が来る事はないだろう。
《辺境の宝石職人の家に入りますか?》
前と全く同じ場所に行くと、そのアナウンスが流れる。
ロアスさんの家。
……よく見たら、表札にもしっかりそう書いてあった。
はい、と。
《辺境の宝石職人の家に移動しました》
「……ニシキ。また来たのかい」
「!……名前、憶えてくれたんですね」
「もちろん。ここに来る者なんてそうそういないさね」
……良く知らないが、俺以外にも結構プレイヤーが来ているんじゃないのか?
これだけクエストで行っているわけだし。
まあ、ゲームだし。そういうセリフが設定してあると考えよう。
「それで、何か用があって来たんだろ?」
「はい、実はまたこれが手に入って……加工して頂けないかなと」
そう言ってから、俺はインベントリからラロシアストーンを見せる。
少し驚いた様な顔をする
「……おや、また持って来たのかい。中々拾えるものじゃないんだがねえ」
「はは、そうなんですか」
拾ったというよりかは、ボスを倒して奪い取った……って感じなんだが。
「そうさね。ニシキには特別にやってあげよう。街の奴らからの評判も良いからね」
「……?ありがとうございます」
「何不思議そうな顔してんだい、アレだけ悪党を懲らしめてるのはアンタだろ?」
一応、このゲームのNPCには好感度ってものがある。
正直これまで気にする事も無かったから忘れてたが。
というか、PK職を倒したらそれが上がるってのも初めて知った訳で。
「それは、どうも」
「んじゃ――はい、選びな」
《クエスト達成報酬を以下から選択して下さい》
□
【力の氷宝玉の指輪】
【知の氷宝玉の指輪】
【器用の氷宝玉の指輪】
【敏捷の氷宝玉の指輪】
【体力の氷宝玉の指輪】
【精神の氷宝玉の指輪】
□
……実の所、もう決めてある。
俺が欲しいのは――
「それでいいのかい」
「頼みます」
「そうかい。それじゃ――受け取りな」
《『氷宝玉の指輪の取得』クエストを達成しました!》
《報酬として『器用の氷宝玉の指輪』を取得しました!》
《通常フィールドに戻ります》
《ラロシアアイス・辺境に移動しました》
「ありがとうございました――」
そう言いながらワープしていく俺。
笑って見送ってくれたロアスさんを見て、NPCであった事を忘れていた自分に気付く。
「VR技術ってのは凄いもんだな……」
何度目か分からない台詞を苦笑いしながら吐き、俺はインベントリのそれを確認した。
□
【器用の氷宝玉の指輪】
DEX+30 必要DEX値20
ラロシアアイスの特産品の一つ、ラロシアストーンを加工して作製された指輪。
氷結晶を象った造形が美しい。
装備時、ステータスを上昇させる。
レアリティ:5
製作者:ロアス(NPC)
□
DEX。
それは戦闘の際、武器のコントロール、投擲に大きく関わってくる。
急所に攻撃を叩きこむ時、斧を投擲する時。
……感覚ではあるが、やはりDEXが上がるとやりやすくなっている気がする。
微量でも、積み重ねれば大きな違いだ。
俺のプレイスタイルもあって、DEXはかなり重要なステータスだ。
モンスターからのドロップGが増えるのも勿論大事だが。
「よし……と」
俺の指に似合わない綺麗な氷宝玉の指輪を装備。
これで器用値が三十も増えるのだから、かなり強いよな、これ。
「それにしても……俺の好感度が高いなんてな」
誰もいないフィールド。
指輪を眺めながら、呟く。
誰かの為に、PKKをやってきたわけじゃない。
……でも、それが誰かの為になるのなら嬉しい事だ。
NPCであっても、それは変わらない。
もしそれがプレイヤーであったのなら、尚更に。
こんな俺でも、誰かの為になれるのなら――
「……行くか」
物思いに耽る自分を無理矢理覚めさせ、ロアスさんの家から離れる。
そして。
「――!?」
不意に、背中を冷たい感覚が通った。
あの時――俺の腕を斬られた時のような。
殺意。
それも――多くの。
《??? level55》
《??? level38》
《??? level35》
《??? level40》
「やっと、気付いてくれたようだ――」
それは、血の様に紅く、長い髪。
男で、見た目は青年だ。
声はそれ程大きくないが、頭の中に響く声。
左手に盾を、右手に剣を持つ彼。
そして、その後ろには――
「早く終わらせてよ、『レッド』」
「ハハハハハ!!オレ、商人なんて初めて見たぜ!」
「煩いダスト」
三人。
名前を隠している事から、PK職のプレイヤーというのは確定だろう。
まあ――見ただけでそれは分かっていたが。
……とにかく。
俺は今、絶体絶命だ。
「まあまあ落ち着け――すまないな、急に」
普通に話しているだけなのに、脅されている様な。
レベル55。でも、それだけじゃない。
周りの三人も相当だが――この紅い髪の男だけは別格だ。
只者ではないオーラ。格上なんてモノでは無いそれ。
そんな、レッドと呼ばれる男が――もう一度口を開く。
「私達に協力してくれないか?『ニシキ』」
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