ボス討伐へ


「今日はどうするかな」



朝。

珈琲を入れて、適当に作った朝飯にありつく。

あいかわらず、今日もアラーム前に起きてしまった。


まあ昨日も休みだったし。

そういえばあれから、行商クエストもやらずに寝たんだっけ。

勿体無い事したな……でも、疲れてたから仕方ない。


サクリファイス・ドールなんて棚ぼたもあった訳だし昨日一日ぐらいはいいだろう。



「……やっぱ、ないか」



暇つぶし程度に、俺はRLの動画を適当に探す。

それも、『PK職』の動画を。


そしてそれは無かった。一つぐらいはヒットするかと思ったが……駄目らしい。


そんな美味しい話は無いって事だ。

実際、攻略本を見る様なものだし……



「お、あった」



次に探したのは、ラロシアアイスのフィールドボスの情報、及び動画だ。

どうやら、フィールドボスは挑む人数によって変わるとのこと。


パーティー人数が二人から三人なら大きい鹿のモンスター。

強烈な突進、角を飛ばしたりもする。

オマケに何か氷を創り出し飛ばす、魔法のような攻撃も。

中々厄介そうだ。俺はソロだから関係ないけど。


そして四人から五人なら更に大きい鷲のモンスター。

上空からの急降下攻撃、雪の竜巻をぶつける攻撃……見ていてとにかく派手だった。

またパーティーも派手に吹っ飛ぶ。動画でもコイツが一番多かった。

凄く厄介そうだ。俺はソロだから……うん。



そして、最後――『パーティーの人数が一人の場合』。


見えたのは、たった一つ。

『人』の影だった。


それだけ見て――俺は、パソコンを閉じる。



「楽しみは取っておこうか」



何となく、それは勿体ない様な気がして。

俺は――VRデバイスに手を伸ばす。



『GAME START』



《ニシキさん、RLの世界へようこそ》



ログイン。

さっさとボスへ――とはいかない。

まずは装備を整えないとな。


昨日拾ったサクリファイスドールは……一応持っておこう。

売ってしまうのもアリなんだが、それは二個以上になってからでいいかな。


今の所持金じゃ黄金の蘇生術の方が安いぐらいだし。

サクリファイスドールは需要が高く……日々価値が上がっている様にも見えるし、持って置く事にした。





……俺の今の手持ちは三十万G。

鋼等級のNPC売り防具は、一つ一万G。

そして防具は頭、腕、胴体、腰、足の五つで五万G。


余裕で一式が揃えられる訳だ。

むしろ余裕過ぎて、一つの部位ぐらいはプレイヤーメイドのものにしても良いかもしれない。

まあ、取り合えず値段だけ見て決めよう。



トレード提示板にて、並ぶ装備と睨めっこする俺。

やがて、それが目に入った。




「……これとか良いな」




【敏捷のスチールアーマーメイル+1】


装備可能条件 level20以上 STR20以上


AGI+10 DEF+25 MDEF+15


属性[ステータス上昇]付与品。

鋼から造られた鎧。

鉄防具よりも格段に防御性能がアップした。

またステータス上昇効果を持つ。


レアリティ:3


製作者:オレンジ

製作者コメント:――


価格:150000G



武器よりも大分安いし、中々付与属性も強い。

AGIプラス十ってのは今のAGI不足の俺にはありがたいものだ。


……決めた、買ってしまおう。



《敏捷のスチールアーマーメイルを購入しました!》

《150000Gを消費しました》



ごっそりと減るG。

仕方ない、これもボス討伐の為だ。





《スチールアーマーヘルムを購入しました!》

《スチールアーマーアームを購入しました!》

《スチールアーマーベルトを購入しました!》

《スチールアーマーシューズを購入しました!》

《スチールアックス×2を購入しました!》


《60000Gを消費しました》



トレード提示板を離れた後は、NPCから装備を購入。

胴装備以外の防具、そして鋼等級の片手斧を投擲用に二つ。


これだけ買ってもプレイヤーメイドの装備には足元にも及ばないのを見ると、それの価値の高さが伺える。



「……バフポーションはいいか」



流石にこれ以上出費を重ねると止まらなくなりそうだ。

また一文無しになってしまっては、黄金の一撃が使えなくなってしまう。



と、いう事で。

新しい装備に慣れた後、ボスに挑むとしよう。




《経験値を取得しました》



『ギイ……』



試し狩りでアイススライムを相手して、感覚を掴む。


やはりAGIが10も上がると何となく体が軽くなった気がするな。

防御も大分上がったし、ダメージもかなり減っていた。



『グルゥ……』



アイスウルフも相手して。



『キイイイイィ!!』



身体が温まって来た所で、バーバヤーガとアイスベアーも相手した。

ちなみにレッドアイススライムは見ていない。

やっぱりレアモンスターだったんだな。



「……よし、こんなもんでいいだろ」



ラロシアアイスのモンスターを粗方相手し終わった。

新しい防具、スチールアックスの投擲にも慣れた。


戦う準備は出来ただろう。

後は――ボスの元へ向かうのみ。






《ここより先に進むと、ボスフィールドに移動します》


《よろしいですか?》



はい、今度は大丈夫です。



《パーティメンバーを確認》


《ボスフィールドに移動します》



それより先に足を進めると、特殊フィールドへと移動した様だった。

雰囲気が変わり、明るい雰囲気だったラロシアアイスが暗く、黒くなっていく。


歩けば歩くほど、その光は消え失せ――



『……』



終着。

円形の大きな場所が見える所へ到達する。まるで決闘場だ。

そして――その中央には、『人』の影があった。



《??? level30》



間違いなく、あれがフィールドボス。

大きなローブを羽織り、顔は見えないが。

黒い靄が身体から溢れ、何とも言えない禍々しい雰囲気を纏っている。


そして片手には、その黒い靄を凝縮した様な何かを握っていた。

……これまでにはない、新しいタイプの敵だな。



《フィールドボスに挑戦しますか?》


《制限時間は30分です》



その決闘場へと、足を踏み入れると聞こえるアナウンスと選択肢。

てっきりすぐに戦闘が始まると思ったが、存外待ってくれるらしい。


というか、制限時間があるのか。三十分だが……実際相手次第で長くも短くもなる。

短期決戦で終われば良いが――どちらだろうな。


さて。

せっかく待っててくれるのなら、初撃の準備だけしておこうか。



「……よっと」



インベントリからスチールアックスを取り出し地面に落とす。

そして――選択肢、『はい』を選んだ。



《Battle Start!》



アナウンス、そして。



『――』



そのボスの手の黒い靄が――唐突に、『弓』の形へと変化する。



「――っ!!」



瞬間。

ソイツは凄まじい早さで弓構えた後、俺の元へ矢を放つ。


体勢を崩しながらも――何とか避ける、が。



『――』



再度弓を構えるボス。

……どうやら休息は、一秒も与えるつもりはないらしい。

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