ラロシアアイス・攻略③
ラロシアアイスにて、かなり進んだ場所。
雪はさらに強く降り、プレイヤーも少なくなっていく。
ここまで来ると、モンスターもかなり手強くなって来る様だ。
《アイスベアー》
《バーバヤーガ》
レベルは25から27。
この二体のモンスターが、このフィールドの主なモンスター達だ。
アイスベアーはまんま白熊。
リアルなら多分出会ったら死んでるであろうそれは、中々に厄介。
近距離攻撃だけ……なんて高を括っていたら大間違いだ。
普通に雪玉を投げて――そしてこれがかなりのスピードで飛んでくる。
次に近距離攻撃。巨大な腕で殴打、鋭く長い爪での引っ掻き。
殴打はスピードが遅い代わりに高威力、引っ掻きはスピードが早い代わりに低威力という感じだろう。
何回か引っ掻きを食らってしまったが、HPは三割減った。一発でだ。
殴打の場合、まともに食らえば多分半分以上の損傷になるだろう。恐ろしい。
次にバーバヤーガ。
こいつもアイスベアーと同じレベル帯なのだが、見た目が変わっている。
本体は小さい猿のような外見。
ふわふわと浮かぶ大きい雪玉の上に座り、そして手に持った小さい杖で炎の玉を飛ばしてくる。
結論から言おう。
コイツ『自体』は楽勝だった。
まず遠距離攻撃しかして来ない。
攻撃も単調で、炎の玉を飛ばしてくるのみ。
そして一応距離を一瞬で取るようなスキルもあるのだが……連発は無い。
正直――ここまでで一番楽だ。
そう思っていた。
HPが……三割を切るまでは。
「くっ……」
『キキキキキ!!』
『グルルルル!!』
嗤うバーバヤーガともう一つの鳴き声。
コイツの一番厄介な所は――アイスベアーを召喚する所だ。
HPを三割まで減らすと、同時に炎の玉を付近のアイスベアーにぶつける。
そして……あろうことか、そのアイスベアーはこのバーバヤーガではなく俺に向かってくるのだ。
「……はあ、はあ」
アイスベアー、そしてバーバヤーガもといクソ猿。
この二体を同時に相手していかなければならない。
『キキキキキィ!!』
何といってもこの嘲笑うかの様な声。
神経を逆撫でして――本来の動きを奪おうとしている。
こういう時こそ、深呼吸だ。
「……」
息を吐く。
落ち着けよ俺。
この状況で、自分は何をすべきか?
そうだ。
まずはこの――うっとおしい援護射撃をするクソ猿を倒すべきだよな。
「――っ」
炎の玉。
雪玉を投げる動作に入るアイスベアー。
後者を一度忘れ、炎の玉に神経を集中させ――
「らあ!」
炎の玉に、ラケットの要領で斧の刃を振る。
衝突。そして――
《Reflect!》
『キィ!!』
跳ね返った炎の玉が、クソ猿にぶち当たる。
その後は直ぐに跳んで、雪玉を避ける。
「……来い」
心なしか悔しそうな顔をするクソ猿に――俺は笑ってそう言った。
☆
『キイイイイィ!!』
けたたましい悲鳴を上げて、クソ猿もといバーバヤーガは死んだ。
そして何故か、アイスベアーも何処かへ行く。
《経験値を取得しました》
《バーバヤーガの杖を取得しました》
「……終わった」
思いがけない来襲だった。
この辺りのプレイヤーが少ない理由が分かった気がする。効率悪いし危険だし。
しかし――良い所もある。
バーバヤーガの炎の玉は、反射させやすい。
アイススライムの氷柱が反射確率二割とすれば、バーバヤーガはその三倍の六割。
確率だけでなく、テニスで玉を跳ね返す感じで動作がやりやすいのだ。スマッシュみたいな……気持ちいいんだよな。
何より――『後衛職二人に襲われる』状況の練習になる気がした。
プレイヤーも周りに居ないし、最高の環境と言えるかもしれない。
『キキキ』
遠くで鳴くバーバヤーガ。
俺はそれに刃を向けた。
☆
これで、三体目のバーバヤーガ。
大分慣れてきた。
そして一つ、面白い事を発見した。
『キキキキキ!』
『グルルル!!』
「っと!『スラッシュ』!!」
《Reflect!》
バーバヤーガの火の玉を、武技にて跳ね返しても反射が起こる事。
タイミングは計りにくいが――その分、威力がかなり上がっている。
『キイ!!!』
《経験値を取得しました》
《反射スキルのレベルが上がりました》
《片手斧スキルのレベルが上がりました》
同時に二つ上がった。
ギルドに居た頃、ろくに戦闘に参加させてもらえなかったから違和感を覚えていたが。
ソロでやると、ここまで上がりやすいんだな……まあ、全部一人でやってるから当たり前か。
――『「それでは」』――
不意に、ギルドから追放された時の風景を思い出す。
……思い出したくもない事程覚えてるってのは嫌なもんだ。
「ストレス発散に付き合ってもらおうか」
最初と違い、身体も暖まってきた。目も慣れた。
バーバヤーガを『一体』相手にするのは、余裕になってしまったんだ。
もっと、緊張感のある戦闘がしたい。
あの時の嫌な顔が、見えなくなるぐらいのモノを。
そういえば――あのギルドマスターの戦闘スタイルも、火魔法使いだったっけ。
『『キキキキキ!!』』
積もった雪を雪玉にして、醜い顔をしたバーバヤーガの顔面に投げつけた。
それを二体同時に。
ここからは、ハードモードだ。
☆
「『スラッシュ』!!』
《Reflect!》
武技で反射させる炎の玉と、腕の数センチ横を通り過ぎる炎の玉。
視界の隅、雪玉のモーションに入るアイスベアー二体。
『キキキキキ!!』
『『グラア!!』
「――っ!」
クロスする形で飛んでくる大砲の玉のような雪玉二つ。
最低限の動きで後ろに避けて、再度迫る炎の玉に備える。
「――らあ!」
《Reflect!》
《Reflect!》
タイミングを見計らい、二つ同時に当てれば――上手くいった様で、両方反射して飛んでいく。
そして――
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》
消えるアイスベアー。
倒れるバーバヤーガ。
×二体。
「……!?」
本来なら、今すぐにでもステータスにポイントを振る場面。
だが――俺は、それが出来なかった。
『ピギイ』
目の前には、このラロシアアイス、最も序盤に出会うモンスターが居た。
ここには場違いな鳴き声。
しかし。
確かに、形はスライムだ。
ただ――『色』が違う。
《レッドアイス・スライム level28》
『ピィ!』
「何だコイツ……」
アイススライムとは違い、真っ赤な身体。
来ないのか?と言いたげなそのスライム。
確かに、ここ辺り周辺はアイスベアーとバーバヤーガだけだったはず。
……分からない。レベルも頭一つ抜けて上だ。
ただ――戦う価値は、ある気がした。
「『スラッシュ』――な!?」
何もして来ないそのスライムに、武技を放つ――が。
アイススライムの比ではないスピードで避けられた。
そして。
「ぐっ!!」
迫った赤い残像――瞬時にカウンターを食らう。
重い衝撃。減るHP。
『ピイ』
追撃するでもなく、ただ鳴いて佇むスライム。
『こんなもんか?』
そう言っている様に。
「……本腰、入れる必要があるな」
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