ラロシアアイス・辺境

《目標地点に到着しました!》


《ラロシアアイス・辺境に移動しました》




「ちょっと行ってくるよ」


「あ、はーい☆」



目の前には、見たことのない景色があった。

雪原の中、ポツンとある建物、


一風変わった少女――ハルと別れ、俺はそれに足を運ぶ。



「……パーティープレイも良いもんだな」



呟く。

実際、敵以外で他のプレイヤーと同じフィールドに居るのはかなり久々だ。


ハルの職業、魔弓士についても色々聞けたし。実際にモンスター相手に協力できたおかげで、大分見れた。

また整理しておかないと。


……それにしても、ハルの動きは綺麗だった。魔弓士独特の魔法の矢は、中々見れるものじゃないだろう。

生配信?をやっているらしいし、彼女のファンは多そうだ。


特徴的な話し方と見た目とは裏腹に振る舞いは大人で、会話からもその頭の良さが伺える。

プレイスタイルも練られていて、そしてあの弓捌き。


そのギャップに心惹かれる者も多いだろうな。



「もう終わりか」



クエストも無事クリア目前。

無事PKKも成功した事で、なんとか到着する事ができた。

今回の敵は、今まで出会った者達のおかげで大分余裕で立ち回れた気がする。


消えるスキルの存在、飛来する矢を潰す感覚――これまでの経験と知識は裏切らなかった。

でも、まだ完全じゃない。

ハルの存在のおかげで、敵の目標がブレていたんだ。結果、相手の初動がかなり鈍っていた様に見える。

俺一人でもう一度闘えと言われれば……さっきよりは苦戦する事になるだろう。



……まだまだ俺も、経験とスキルが足りない。

もっともっと、色んな敵と闘わないと――



《辺境の宝石職人の家に入りますか?》



「――お、『はい』……と」



反省に耽りながら荷車を押すと、いつの間にか建物の前に着いていた様だった。


アナウンスの通りだと、やっぱりここが目標地点の宝石職人なんだな。



《辺境の宝石職人の家に移動しました》



「あら?珍しいお客さんだね」



木造の、ランタンで照らされた小さな作業場。

暖炉の傍、機械が並ぶ作業机に座る老婆が居た。



俺がそこに入ると同時に、そこの彼女が話しかけてくる。



「どうも」


「!それはラロシアストーンじゃないか!」



俺の横にあった荷車を見て、老婆は目の色を変える。



「ラロシアアイスの商人から預かりまして、これを行商して欲しいと……」


「あらまあ!勿論全部買うさね」


「それは良かった」



まあ、ゲームのクエストだから分かってはいたが。

こうして商売が成功すると嬉しいもんだ。



「……ああ、そうさね。これだけあるんなら――あんた、ここから一つ選んで持って行きな」



《クエスト達成報酬を以下から選んでください》




【力の氷宝玉の指輪】

【知力の氷宝玉の指輪】

【器用の氷宝玉の指輪】

【敏捷の氷宝玉の指輪】

【体力の氷宝玉の指輪】

【精神の氷宝玉の指輪】




彼女の言葉と共に、アナウンスと表示される画面。


そして、その一つに目を向けると――






【力の氷宝玉の指輪】


STR+30  必要筋力値20


ラロシアアイスの特産品の一つ、ラロシアストーンを加工して作製された

指輪。

氷結晶を象った造形が美しい。


装備時、ステータスを上昇させる。


レアリティ:5


製作者:ロアス(NPC)





……ぶっちゃけ、俺にはこの指輪の正確な価値は分からない。

ただ――ステータスの上昇効果はかなり高い?と思う。

一度のレベルアップで三ポイントステータスが上がると考えると十レベル分だ。

これは他の器用でも体力を選んでも、同じ伸び幅だった。



これまで指輪とか腕輪とか――そういうアクセサリー系の防具は装備した事も無いし、取得した事すらなかった。

価値が分からないのもそのせいだ。

うーん、どうしたもんか。

普通なら力か器用か敏捷だろうけど……



「そういやハル、知力がカツカツだとか言ってたな」



魔弓士はその職の性質上――INTとDEX両方に振っていく必要がある。

魔法と弓を両方扱っている様なモノだからな。


して、武器である魔弓はINTを結構要求されるらしく、DEXとの両立が大変らしい。



「……決めたよ、ロアスさん」



元々、このクエストは本来俺は受けられなかったモノ。

彼女が居たから受注出来て、クリアも出来たんだ。

商人である自分を全く蔑まず――最後まで一緒にプレイしてくれた聖人。


それにたしか、彼女の報酬は十万Gのみと言っていた。

俺の報酬はその二倍。かつこの指輪だ。他所から見れば不公平だろう。



何より――俺が装備するより、ハルが着けた方がきっと似合うだろうしな。



「それでいいのかい」


「はい」


「……フフ、そうかい。それじゃ――またいつでも来な」



《『氷宝玉の原石の行商』クエストを達成しました!》


《報酬として『知力の氷宝玉の指輪』を取得しました!》


《報酬として200000Gを取得しました!》


《ラロシアアイス・辺境がマップに追加されました!》


《経験値を取得しました!》


《通常フィールドに戻ります》


《ラロシアアイスに移動しました》

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