思わぬ遭遇③
道中。
そのクエストは、ラロシアアイスの辺境?まで動く荷車を護衛するというものだった。
道中にはラロシアアイスのレベル20から25までのモンスターが出てくるけど、数もそこまで多くないし楽だ。
行商っていうから何かと思ったけど、ただの運搬クエストって感じかしら。
「『ファイアアロー』!」
《経験値を取得しました》
「『スラッシュ』」
《経験値を取得しました》
「『ウインドアロー』!」
《経験値を取得しました》
何匹目かのモンスターを倒し、ルートで言えば三割ぐらい進んだ所。
「……凄いな、滅茶苦茶楽だ」
「あはは~☆お役に立てて良かったです」
「いやあ、初めて見る敵も居たけどおかげで助かったよ」
『そうだろ?何たってハルハルだからな』
『この男も運良いよなあ』
『ハルハルは攻撃も補助も両方熟せるから本当やりやすそうw』
コメントを見ながら一安心する。
どうやらいつも通り出来ているらしい。
流れで言えば、花月……いや、ニシキ君が前衛で敵を引き付けながら私が後ろからダメージを与える。私の補助魔法もあって余裕だ。
……正直、彼は目に見えてパーティでの戦闘には慣れて無さそうだった。
動き自体は普通なんだけど……何かこう、ぎこちない。
「……そういえば、君はどうしてこのクエストに?」
「え?えっと……」
『あ』
『やべえ』
『コメ番が新着最後だったんですよー☆……とか言えないよなw』
『がんばれハルちゃん』
「何となく、です☆」
「はは、そっか。まあでも、本当に組んでくれて助かったよ。正直諦めかけてた」
「いえいえ~☆」
『ハルちゃんスマイルで誤魔化せたな!』
『可愛いなあ』
実際新着の一番下って事は……相当待っていたのだろう。
でも、理由は分かる。
『商人』だからだ。
ニシキ君は――辛くない、だろうか。
「……ハルは優しいな。商人と組んでくれるなんて」
「へ!?いやいや、そんな……」
「君みたいな人が沢山居てくれたら――――っ!」
ふと、会話の途中で彼が急に周りを見渡す。
『どうした?』
『何かあったのか』
『……そういや、忘れてたけど商人の行商クエストって――』
「……やっぱり――このクエストも来るか……」
「え、え?」
「ごめん、ハル。拙い事を聞くけど――PK職には、会った事あるか?」
そう問うニシキ君の目は、さっきまでとは違っていた。
PK職。プレイヤーキラーを主に活動する、このゲームの悪役のような存在。
名前だけは知っているわ。でも――
「い、いえ」
「そっか。俺の察知スキルで今、このフィールドにPK職の存在が知らされた。もうすぐこっちに来るだろう」
「え……え?」
「怖いかもしれないが――これだけ、お願いしても良いかな」
「は、はい」
どうやら――PK職が、私達の元へ向かっている、らしい。
私達を、キルする為に。
鼓動が高鳴っていく。
ゲームではあるが――怖かった。これまでそんなプレイヤーには会った事無かったから。
『おいおい大丈夫かよ……』
『商人とタッグでPK職とPVPとか、勝率無さすぎだって』
『どうするんだ』
『この男マジ許せん』
『別に商人は悪くないだろw』
荒れるコメントも、見る余裕も無い。思考が出来ない。
私は頷く事しかできなかった。
でも――彼は、私と対照的に落ち着いているように見える。
そして。
「……『俺から、絶対に離れるな』」
それだけ私に言って。
不意に、彼は背をとる。
そして――あろうことか、
「――っ、もう来てるな……後方か。やっぱり後衛を狙うよな」
直後。
衝撃音と共に、折れた矢が落ちたのだ。
彼はそれをあたかも当然かのように行った後、独り言を呟く。
『おい、今何があった』
『は?』
『今、コイツ何やったんだ?』
『確かに、今矢が』
『まさか撃ち落としたのか……?」
『そんなわけねーだろwwwww』
『じゃあ何なんだよこれ』
『ハルちゃーん!!』
阿鼻叫喚のコメント同様。
私は、その時何が起こったのか分からなかった。
でも――分からない、じゃなくて理解できなかったが正しい。
今彼は、確かに私に飛んできた矢を斧で潰した。
避けるでもなく、食らうわけでもなく、潰したのだ。
「……ハル、俺の前に移動して――声は出すな」
「……!」
針を刺すような彼の声。
圧倒された私は、コクコクと頷いて言う通りに移動する。
「――来るぞ」
囁くように、小さく彼は私に告げた。
でも――周りには、全く気配も無い。人も居ない。
しかし彼には、まるで見えているかのような。
「――『スラッシュ』!」
「がッ――――!?」
そして、次の瞬間。
またもや、後ろへ不意に武技を発動した彼の一振りは――空振りする事なく、その透明の空間に衝突した。
直後、そこから現れる小剣を持ったプレイヤー。
完全に不意打ち、そして致命打だったようで、その小剣使いが衝撃から地面に転がっている。
『さっきから訳分かんないんだけど』
『今絶対空振りしてたよな』
『確かPK職のスキルで消えるスキルがあったはず』
『え、んじゃなんでそこ居るって分かったの』
『何が起こってるんだ?』
『知らねえよ、コイツ何が見えてんだよ』
『頭オカしくなりそう……』
「――っ、近いな。……まあでも先、やろうか」
彼はまた、当たり前の様に飛来する矢を潰して、追い打ちの如く怯んだ小剣使いの前へ立ち、斧を振り下ろす。
訳が分からない。
でも――今起こっている事は、偶然なんかじゃない。それだけは分かる。
☆
『この商人怖すぎるww狂い無く首と顔を狙ってる』
『何で当然の様に矢を無効化してんの???』
『PK職涙目wwwざまあw』
『何だよコイツ……』
『ハルちゃーん!!』
あれから、一方的過ぎる戦闘が繰り広げられていた。
さっき、私とモンスターと戦っていた時とは――正直、見違えるものだった。
あの何とも言えないぎこちなさ。
それが全て取れて、今が『本来の動き』のような。
一撃一撃が全て綺麗に急所に入り、敵の攻撃は最小限の動きで避けている。
スピードは無いはずなのに、小剣使いよりも早く見える。
そして、何よりも――そんな動きをしているのに、油断も、慢心も感じられなかった。
目の前の敵のHPが尽きるその時まで、一切の集中も途切れる気配がない。
決して驕らず、敵を『絶対に倒す』……そんな意思を、嫌でも感じる程に。
段々動きが悪くなる敵に対して、ニシキ君は寧ろ動きが良くなっている。
当然、勝敗はもう決まっていて――
「――何なんだよ、お前は――――!!」
それは、HPゲージがほぼゼロになった小剣使いの台詞だった。
何もかもが予想と違う、そんな結果が待っていたような。
手玉に取るつもりが、相手の掌の上で踊らされていたかのような。
「……商人だ」
それだけ言って。
彼は――最後の一撃を振るった。
『本当に勝っちまったぞ……』
『コイツヤバくない?さっきから』
『バケモンだな』
『そういや矢も飛んでこない』
『もう破棄したんだろ……前衛いないしこんなんもう負け確定。というか何発も矢を潰されて戦意喪失しただろうしな』
『信じて送り出した暗殺者が商人に死体にされた件について』
流れるコメント欄。
そして――
「――お待たせ、見苦しい所を見せちゃったな」
目の前には、PKKに成功した彼が振り返っていた。
笑っているわけではない。でも――
『楽しそうな』彼の表情。会社では決して見せた事のない顔に。
私はそれに――ほんの少し、胸が高鳴った。
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