思わぬ遭遇②
事の発端は十分前。
『パーティ募集してるクエストに、適当に乗り込んでみたら?』
『確かに。ハルちゃんってRLじゃだんだん有名になってきてると思うし、知っている人も居るかもよ』
『やべえハルハルと同じパーティーになれるとか裏山すぎる』
『ちょっとログインしてくるか』
『俺も俺も!』
「あははー☆そうしようかな?」
正直、私はそんな有名人だとは思っていないが。
……うーん、どうしましょうか。
でも。コメントの反応的にもう決まりかな。
リスナーのパーティーに入れたらファンサービス?にもなるし。
「それじゃ、ランダムで募集依頼掛けてるとこに申請したいと思います。あ、もちろん生配信NGだったらやめとくね☆」
『はーい』
『俺だったら挙動不審になりそう』
『ランダムってどうやるの?』
「えっと、そこはリスナーの皆さんにお願いしたいな☆皆適当に数字をコメントしてもらって、その十番目の人の数字の所に、新着で行きたいと思います☆」
これなら変な所にはいかないだろう。
まずそんなパーティーなら配信NGだろうし。
『了解』
『どうしようログインしようかな』
『もう遅いってw』
「それじゃ――」
『1』
『11』
『俺』
『30』
『↓』
『100』
『30』
『15』
『した』
『新着の一番最後』
『100』
一斉に流れるリスナー達のコメント。
……意外と、ROM専と呼ばれる方々は多いのだ。
「……決まったかな?」
『おい誰だふざけてるやつ』
『数字だって言ってんだろうが!』
『ん?十番目だよな?』
『うわあ』
『大丈夫か?これ』
「あはは~☆えっと、新着の一番下だよね?えっと……」
□
特殊クエスト『氷宝玉の原石の行商』
グリーンソルデに居る宝石職人に、ラロシアアイスの特産品である氷宝玉『ラロシアストーン』の原石を行商して欲しい。
パーティーメンバー報酬:100000G
現在のパーティーメンバー:商人一名
パーティーリーダー :ニシキ
□
新着、一番下。
そのクエストは見たことも聞いたこともないもの。
そして――その職業名。
『おい、パーティーリーダー『商人』だぞ!?』
『道理で新着の最後な訳だw』
『とんだ地雷パーティーじゃねえかw』
『あーあ。十番目にコメした奴土下座かな?』
『いやだったらやらなくていいんだよ』
「い、いや、ハルが言った事だから良いですよ☆コメ十番の人も気にしないでくださいね」
『流石ハルちゃん』
『ハルハルマジ女神』
『土下座しなくてもいいのか!?』
『お前はやっとけ』
『どうなることやら』
コメが荒れそうだったのでフォローしておく。
……それにしても、『商人』かあ。
このゲームにおいて、不遇とされている職業の中でも特に不遇らしいそれ。
生産職の制限である片手武器制限、前衛なのに職業の特性上ステータスをDEXに振らなければならないかみ合わなさ。上位互換である『探索者』の存在。オマケにGだけは多く取得できるせいか、PK職にもよく狙われる『カモ』だ。
不遇職、寄生職、疫病職……そう呼ばれている。
このゲームにはまだ転職の情報は出回っていない。
一番最初の選択で『商人』を選んだプレイヤーは、RLに一体何人残っているのだろう。
少なくとも――私は、今初めて『商人』という職業を見た。
《『氷宝玉の原石の行商』の募集に申請しました》
「……それじゃ、早速申請しました。受理を待ちたいと思います☆クエスト中はコメント返し出来ないかもしれません、ご了承をー☆」
『がんばれー』
『ヤバい奴だったらすぐ離脱するんだぞ!』
『それにしても、見たことないクエストだよな……』
『特殊って付いてるしな。商人専用クエストみたいな?』
『商人が消え失せたせいで出回ってないんだろ』
コメントが流れていく中。
ふと――そのパーティーリーダーの名前を思い出す。
『ニシキ』。
……何処か、現実世界で見た事のあるような名前。
何となく、それが引っかかったまま――
《申請が受理されました》
《パーティーリーダーのチャンネルに移動します》
「申請、受理されました!行ってきます☆ミ」
私は、その商人の元へと飛んだ。
☆
……で。
今――その突っかかりは完全に取れた。
花月『錦』。いつも苗字でしか見ないせいか、忘れていたわ……
目の前にいるのは、キャラクリエイトのキの字もない花月君だ。
このゲームのキャラクリエイトは、元の自分の容姿から色々と手を加えるパターンと、完全に最初から作っていくパターンがある。私は後者。
最初からといっても、ある程度ガイドがあるので私はあまり苦労しなかった。
……面倒な人や自分の容姿を合わせたい人は前者なんだけど――いくら何でも、手加えなさすぎでしょうが!
「!よろしく、えーっと……は、ハルホシ、ミさんかな?」
「え、あ、あー!えっと、ハルです」
「そ、そっか。よろしくハル」
花月君そっくりにたまたまキャラクリエイトして、そして名前もたまたまニシキになった――そう考えたいけれど、可能性が低すぎる。
……まあ、彼に私だとバレなければ大丈夫。
完全に年下だと思ってるし!まあそりゃそうか。
立場が逆転してるが、別に私はそこまで上下関係に拘らないから良い。ゲームだし。
『ハルホシミwww』
『何かハルちゃん変じゃない?』
『緊張してるのかな』
『ハルホシミちゃんがんばえー!』
『この商人羨ましいわあ』
……コメントで我に返る。
平常心平常心。
目の前の彼は、私の知っている花月君じゃないんだ。そう考えよう。
「あ!あの、生配信?してるんですけどー☆良いですか?」
「……配信って――あの生配信機能かな?」
「そうでーす☆」
いつもよりキャラに寄せて、彼と話す。
……何時もなら普通なのに――キツい。
ダメダメ、リスナーがいるんだから。
「そっか。別に良いよ。パーティー組んでくれるのなら」
「ありがとうございます☆」
「こちらこそ。もうずっと誰も来なかったんだ」
「ああ、あはは☆」
大丈夫、大丈夫……私はゲームのハル☆ミ。
そう自分に言い聞かせながら会話を続ける。
「それじゃ――早速始めていいかな?この感じだともう来ないだろうし」
「はーい☆」
「はは」
苦笑した後、NPCらしい人物に走っていく『ニシキ』君。
……キツいわ。
『何か、普通の人だな』
『ちょっと慣れ慣れしいけどな』
『羨ましい……』
『俺も商人だったらワンチャンあったのか……』
『超不遇を取るか、ハルハルを取るか……究極の二択』
《パーティーリーダーがクエストを開始しました》
《クエスト開始に伴い、専用フィールドに移動します》
《クエストを開始します》
コメント、そしてアナウンス。
ほぼ同時に――私は、彼と二人のフィールドへ飛んだ。
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