特殊クエスト


《行商クエストⅡを開始しました》



今日も、グリーンソルデからラロシアアイスまでの行商クエストⅡだ。

行商クエストⅢはまだ解放されていない――恐らく、第四の街に到着しない事には解放されないだろう。


『第四の街』――前のギルドでも、未だ到達者は居なかった。

何やら、フィールドボスを倒さないとそこには到達出来ないらしい。


「……まだまだだな、俺は」


暇が出来たら、試しに挑んでみても良いかもしれない。

まあその前にラロシアアイスのモンスターを余裕で相手出来るようになってからだが。



《グリーンスライムを倒しました》


《経験値を取得しました》




グリーンソルデのモンスター、グリーンスライムを倒す。

……アイススライムと戦った後だと、かなり弱く感じるな。


ちなみにスライムの弱点は無い。……その代わり、全体的に弱いから全身弱点みたいなものか。

故に新武器の有難さはまだ分からなかった。



「……そろそろか」



行商の道のりの半分が経過。

何時もなら、もうすぐ奴らが現れる。





道を進み、これでもう八割の距離を歩いている。

なのに。



「……何で、感知スキルが反応しない?」



あの音が、聞こえない。

いや――違う!



感知スキルが反応しないイコール、敵が居ない訳じゃない。

あの時敵が『消えた』様に――感知スキルが効かないスキルを持っているのかもしれない。




「――っ」




息を潜める。

未だ敵は見えない。


荷車を背にしているものの遮蔽物が少なすぎて俺は丸見えだ。


そして――風を切る音が、耳を貫く。



「ぐっ――!?」



突如。

その矢は、俺の足に迫る。

避ける暇など無い、気付いた時には刺さっていた。


ゲージは九割。

つまり一発で一割減る事になる。



「……どこだ――がっ!!」



ポーションを、インベントリから取り出す暇も無い。

容赦ない高速の矢が俺の腕に刺さった。


残り八割。あと八発で俺は死ぬ。当たり所が悪ければ、もっと早く。


未だ敵は見えない。察知スキルの音も聞こえない。

しかし……微妙だが、敵の矢の方向は分かってきた。何とかスピードも慣れてきた。



「どうする――」



厄介なのは――俺が矢を避けた場合でも、このクエストが失敗するという事だ。


行商クエストは、俺がこの荷車を無事に送り届ける事。

つまり――俺がもしこの矢を避ければ、この荷車にダメージが入る。

それが続けば、荷車が破壊。クエスト失敗。そうなれば死と同じというわけだ。




「――ぐっ!!」



落ち着く暇さえない――左足に矢が突き刺さる。

残り七割。 


独特な風を切る様な音がしてから、およそ一秒程。


避けるのなら、この音が聞こえたら跳べば良いんだが――背の荷車の為にそれは出来ない。

恐らく何らかのスキル。

何百発も打てるモノじゃない――が、かと言って俺は十発食らえば死ぬ。



「くっ……」


一方的な攻勢だった。

きっと、この矢の向こうのPK職は俺を狙いながら笑っているのだろう。


これまでの敵とは異質の、姿形が見えない敵。



「――うっ」



右足。



「がっ――」



左腕。



「――ぐっ」



腹。


成すがまま、見えない敵の思惑通り矢を食らう。

残りHP、後三割。



このままでは――俺は絶命する。




「……」




慌てずに、深呼吸を行う。

緑溢れるフィールドの小鳥の鳴き声と、流れた緩やかな風の中。


……感じろ。その中に紛れ込んだ、異質な殺意の目を。

矢の方向、その音を。


隠れている弓使いの位置は――




「――」




風を切る音。

未だ、敵の姿は見破れていない。



が――




「っ!……やっと、捕まえた」




俺のHPは、あれから減っておらず――残り三割。

どうして減っていないのか。

それは――俺が、飛んできた矢を斧によって潰したからだ。



斧の刃は厚く、重い。

持ち方を少し変え――刃を横向きにする事で、多少予測位置がズレても当たる様にした。

斧だからこそ出来る芸当だ。


アレから無抵抗で矢を受け、殺意、そして音からある程度の方角と位置は予測出来る様になった。

こうして無効化に成功した今――もう確実に感覚は掴めた。




「……」



だが、油断は禁物。

集中を切らさぬ様、呼吸は常に一定に。


何時でも、その殺意を感じ取れる様に。



「――っ」



再度、飛んできた高速の矢を刃で潰し、払う。

俺にはもう――その手は通用しない。



《片手斧スキルのレベルが上昇しました》


《反射スキルを獲得しました》



聞こえるアナウンスを流しながら、俺は何度も飛来する矢を潰していった。




行商クエスト。


そこで渡される荷車は、そこはゲームという事で『勝手に走る』ようになっている。

俺達がせっせと荷車を押して歩く必要は無い。


その代わりそういった動作を俺達がした場合、補助行為として荷車のスピードが上がるようになる。

押す意味が無いって訳じゃないのだ。


ただ今回は、流石にずっと荷車を守っている。

俺一人、かつ相手は遠距離だ。



「流石に、諦めたか」



数はもう数えていない。

ただ、かなりの量の矢を潰してきた。

しかしここに来て――その攻撃が止まった。


途中から何回か矢の飛んでくる間隔が長くなった事から、MPも底をついて、回復を挟んでいたのだろう。



……もう、ゴールは目の前。

後五分もしない内に俺はクエスト達成だ。

相変わらず敵は見つけられなかったが――このクエストは『目的地までこの荷車を届ける事』。

何もPK職を無効化するだけが答えじゃない。



「――っ」



ゴールに足を踏み入れようとした瞬間――殺意を感じる。


幾度となく攻撃を受け続けたおかげで、何となく『来る』のが分かった。



「……来い」



最後、当たっても死にはしない。

クエストも失敗にはならない。


なら――少しぐらい、遊んでもいいだろう。




『――』




風を切る音と共に、俺の元へ矢が飛んでくるのが分かった。

直前に違う音が聞こえたのは、スキルの発動音か何かだろうか。


何にせよ――『近くにいる』。

これまで、飽きない時間を過ごさせてくれた礼だ。


どうもありがとう。

最後に1000Gのカウンターをプレゼントしようか。




「――らあ!!」



俺は、タイミング、方角を合わせ――斧を『投擲』した。

その刃は矢を砕き、更に勢いを殺す事なく飛んでいく。



「―――――うあッ!?――」



遠くから聞こえる断末魔。

……まさか、当たるとは思わなかった。

ちょっと驚かせるぐらいの、軽い反撃のつもりだったんだが――



《投擲術スキルを獲得しました》



「はは……スキルまで手に入ったか」


ま、まあ良い。このクエスト中だけで二つスキルが手に入るとは思ってなかったけども。


何にせよ、これでクリアだ。

俺は――その終点に、足を踏み入れる。








《行商クエストⅡを達成しました》


《経験値を獲得しました》


《報酬として十万Gを取得しました》


《報酬として経験値を取得しました》


《通常フィールドに移動しました》


《ラロシアアイスに移動しました》



「いやあ今日も助かるよニシキ。君はとても優秀だ!」



何時もの様にクエストNPCの商人に荷車を渡す。

満面の笑顔で受け取る彼を見ていると、こっちまで嬉しくなる。


それが俺の行いで生まれたものと考えると達成感が凄い。

多額の報酬、PKの撃退……勿論それらも大きな理由だが、この達成時のNPCの反応もRLの魅力の内に入る。

一人の商人として、このゲームに入りこんでいるんだなと実感できる瞬間だ。


これだからRLはやめられない。

技術の進歩は凄いもんだ。



「商人の間で君の噂が広まっているよ。グリーンソルデ、始まりの街でも」


「はは、それはどうも」



ゲームのNPCとはいえ、こう言われると嬉しい……


……んん?

こんな会話、今まで無かったような――



「そこで、頼みたい事があるんだが――」


「え?」



《特殊クエスト『氷宝玉の原石の行商』が発生しました》



「……へ?」


「また、準備が出来たら教えてくれ。いつでも待っているぞ!」


「は、はあ……」



ここにきて――初めてのクエストが発生した。





特殊クエスト『氷宝玉の原石の行商』



グリーンソルデに居る宝石職人に、ラロシアアイスの特産品である氷宝玉『ラロシアストーン』の原石を行商して欲しい。



報酬:200000G+???

 


※パーティー専用クエスト

※失敗時、50000G消失





……まず、内容自体はいつものように運搬すればいいらしい。


しかし――報酬がかなり豪華な分、失敗時には五万G失ってしまう。

……と。そこまではいい。

そこまでは。



「パーティー専用、か……」



その一文。

俺は、頭を抱えるのだった。

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