深夜のPKK
「……いないな」
その警告音がした直後、辺りを慌てて見渡すが――それっぽい者は居なかった。
スライムに熱中し過ぎて後ろからズバッと……なんて洒落にならない。
……もし、前戦ったPK職が扱っていた『消える』スキルを使っていたらとも考えたが、それならもうやられているはずだしな。全く殺気も感じないし……
「どうするかな」
呟く。
時間はもう二時を超えた。
どうやら俺に対して来ている訳でも無さそうだし。
わざわざ飛び込むリスクは?
もし負けたら?
「まあ、いいか――」
素直になれよ、俺。
闘いたいんだろ――『PK職』と。プレイヤーと。
《HPポーションを使用しました》
《MPポーションを使用しました》
減ったHPとMPを回復。
準備を整える。
湧く衝動を胸に、俺は抑えていた手を放した。
……俺も、中々におかしくなってしまったらしい。
☆
可能性は、二つあった。
PK職が、獲物を探している途中か。
そして、獲物を既に『狩っている』最中か。
それは、遠目に確認出来た。
「――『ストーン――きゃあ!!」
「ううっ――」
答えは後者のようだった。
襲われているのは……『元』三人のパーティ。大きな杖を持った魔法士の様なプレイヤーが一人と、俺と同じく『片手斧』を持ったプレイヤー。生産職だろうか。そして――最後の一人は、既に霧状の光となっている。
……RLにて魔法は武技と異なり発動が瞬時に行われず、『待機時間』が必要となる。『詠唱』と呼ばれるが――その『詠唱』中に攻撃を食らうと、魔法の発動は無効になるのだ。
目の前の状況は、まさしくそれ。
「ははっ、魔法なんて発動させるかよ!」
「おらあ!!」
PK職の方は、小刀を持った二人組の男。
その両方が、獲物をまさしく『翻弄』している。
スピードを活かした詠唱の妨害と、回避。
片手斧使いのプレイヤーの攻撃も全く通っていない。
PKながら、とても見事な連携だ。
そして――それに耐えきれず片手斧の彼女が、今霧状になった。
すでに死亡した一人に加え、もう一人も死亡。
残りは、魔法使いの彼女のみ。
「ぎ、ぎんちゃん!!……や、やだ――」
怯えた様な声を出す彼女。
正直、どう見てももう勝ち目は無い。
……全滅までに、間に合って良かったよ。
「ははっ、観念してくれよ」
「……死ね――がっ!?」
「……!?」
魔法使いに向かうPK職二人。
その内一人に俺は、片手斧を投げた。
目標は首元。
距離と重量――そして『過去』の経験から、投擲。
……あの時、投擲の有用性はよく分かった。
だから、インベントリへそれ用に何本か斧を入れておいたんだ。
そして――初発は成功した様で。
「――どこだ!?」
「クソッ――」
「え?え?」
狙い通り混乱するPK職達。
魔法使いの彼女も同様に混乱しているが――別に良い。
もしこれに乗じて彼女が反撃なんてしようものなら、また注目が彼女に向かってしまう。
俺の狙いは――投擲した『何者か』へと、狙いを向けさせる為。
距離は大体十メートル。
幸い遮蔽物が多いフィールドだから、身を潜めるのには困らなかった。
「……チッ、どうする?」
「ああウゼー……どうせヒーロー気取りのプレイヤーだろ。俺が見てくるから、その魔法使いヤッとけ」
「りょ」
どうやら、二人は二手に別れるらしい……感知スキルは持ってない様子。
俺も二人相手に勝機があるとは思っていないから、都合が良い。
「――ぐっ!!クソッ、早くソイツ止めろ!」
「――あ、ああ!……って、商人かよ!?」
魔法使いの元へ移動すると同時に、彼女へついた小刀使いへ投擲――命中したものの、直前で気付かれたせいか急所は外してしまう。
……そして、もう一人のPK職に位置がバレた。
バラした――という方が正しいが。
『商人』。その情報だけで、相手に油断を誘う事が出来るからな。
舐められて結構。
そういう意味では――この職業はPKKにピッタリだ。
「俺が行く!相手は雑魚だ!!」
「ああ――な!?」
「ストーンボール!」
魔法使いの杖が発光している。
俺に気を取られている隙に、詠唱を行っていた魔法使い。
それは無事に成功した様で――
「ぐっ!!」
「クソッ、要らねえ事しやがって――がっ!!」
彼女が生み出した巨石の球体が俺に向かっていた小刀使いに衝突、堪らず彼は吹っ飛ぶ。
もう一人が彼女を襲おうとするが――自分から目を背けた瞬間、俺はインベントリを開いていた。
彼女の目の前へ、タイミングを予測して用意していた三本目の片手斧を投擲。
……なんとか命中。これで少しは時間が稼げたか。
かなりHPも削れた。
魔法使いが反撃するとは正直思っていなかったが……良い方向に進んだ様だ。
「――」
吹っ飛んだ彼に走って近付く。
まだ起き上がってはいないのなら――絶好のチャンス。
彼女のおかげで、楽に殺せそうだ。
「くっそ――うわ!?」
「『スラッシュ』」
驚愕する小刀使い。
起き上がらせる間もなく、俺は武技を振るう。
スピードは活かさせない。
その刃を、勢いのまま首元へ。
確実に殺す。
「うっ――!!」
「『スラッシュ』」
「クソ――『エネミーバック』!!」
HP、残り一割となった所で――目の前から小刀使いが『消える』。
否――
「死ねや!!」
背後だ。
「――っ」
「『スティング』!」
一瞬反応が遅れたせいで、背中に小刀による武技を食らう。
厄介なスキルだ――だが軽い。
そして武技は、隙が大きいんだ。
ここが勝機。
背後の影を予測しろ。
敵の急所を。身体の向きを。
「――らあ!」
振り向き様、声を上げて回転の勢いのままに後ろに斧を振り上げる。
斧という武器は、重い刃を棒の先端にくっ付けたモノ。
つまり、強い『遠心力』が働くんだ。
前から後ろへ百八十度をぐるっと回って、その刃は襲い掛かる。
武技を使わなくとも、一割程度なら削り切れる。
「ぐっ――……」
狙い通り、首に刺さる刃。
鈍い感触と共に塵状になる小刀使い。
次は――
「――きゃあ!!」
「チッ、あと一発――はあ!?何で死んで――」
抵抗空しく、やられている魔法使い。
アレから小刀使いが向かってこないと思っていたが――彼女をなぶっていた様だ。
俺が一人キルした事で、こちらに向く彼。
「……来い、怖いのか?」
挑発。
これで釣れたら良いが……
「チッ……クソが、舐めんじゃねえぞ!!」
走って来る小刀使い。
雑魚である商人の俺に、そう言われたのが気に障ったらしい。
……良い機会だ。
試しに、『アレ』を使ってみよう。
乗ってくれた礼として。
「『スプリント』!!」
小刀使いが叫ぶと共に、身体に緑のオーラの様なものが浮かんだ。
そして――その走るスピードが、二倍以上に早くなる。
恐らくAGI関連を上昇させるスキル。
スピードじゃ元々勝てないが、更に勝てなくなったか。
だが――
「――『ダブルエッジ』!!」
俺の腹に向けて緑の線が二つ――それに小刀の刃が乗る。
同時に俺は――斧を振りかぶる。
避けるのは、不可能。
なら――逃げない。
『小刀』の威力は――よく知っている。
正々堂々、受けてやるよ。
「――!?何を――」
俺の腹に、刃が二度刺さる。
完全に食らったせいか、HPは元々の七割から三割まで減ってしまった。
しかし、生きている。それだけで十分。
そして――俺は、もうコイツの首を掴んでいる。
がっしりと、逃げない様に。
この一撃を成功させる為に。
さて。
お前は――何処まで減ってくれるかな?
「『黄金の一撃』」
俺は――その黄金に光る斧の刃を、小刀使いに打ち込んだ。
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