狩り
《行商クエストⅡを達成しました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました!任意のステータスにポイントを振ってください》
《報酬として十万Gを取得しました》
《報酬として経験値を取得しました》
《通常フィールドに移動します》
《ラロシアアイスに移動しました》
流れるアナウンス。
これまで決して聞くことの無かったそれを、二回も聞いていた。
身体が欲していたモノも、いつの間にか満たしているのが分かる。
「……ふう」
DEXにポイントを振った後、息を吐く。
非現実なVR世界が、身に染みた。
あの時の戦闘が、まだ頭の中に残っている。
何らかのスキル――
俺の前から突如PK職が消えた時は焦ったが、同時に興奮した。
目に見えない敵を見破った快感はたまらない。
……まあ、あれは足音と第六感で予想した、それが偶然、運よく当たっただけだ。
それからはあの高速の攻撃。あとほんの少し対応が遅れていたら、形勢はあっちのモノだっただろう。死んでいたのかもしれない。
もし死んでいたら、黄金の蘇生術で復活してたとは思うが。
ギリギリの戦闘。駆け引き。
そして、『商人』として戦えていた事。
その全てが、楽しくてしょうがなかった。
「……これから、どうするかな」
メニューから、時刻を確認して呟く。
見ればもう――とっくに日付が変わっていた。
普通は寝る時間だったが、もう少し遊んでいたい気分だ。
「狩りでもするか」
丁度ここはラロシア・アイス。狩場適正レベルは二十以上。
ちなみに始まりの街のフィールドはレベル十まで、グリーンソルデはレベル二十まで。
まあそれは、戦闘職の話なんだけどさ。つまり格上。
昔の俺なら絶対に行かないだろうが、何となく今は格上にでも殴り掛かりたい気分だった。
☆
白い雪が降る雪原フィールド――ラロシアアイス。
光景通り、モンスターもそういった種類が多い。
白熊のモンスター……アイスベアーであったり。
藁を被って杖を持った、黒い人型のモンスター……バーバヤーガであったり。
《アイススライム level20》
何て、考えていたら遭遇。
ラロシアアイスの戦闘エリアでは一番最初に見るであろうそれ。
氷のように綺麗に透き通ったスライム……アイススライム。
スライム――その響きだけで油断されがちだが、レベルは20以上確定、攻撃方法も様々だ。
五十センチ程の体長から繰り出されるそれに、多くのプレイヤーがやられている。
「――っ!」
俺は、飛んできた氷柱を危うく避ける。
危ない、普通に食らう所だった。
アイススライムの攻撃方法は氷柱を吐き出す遠距離攻撃、単純なタックルによる近距離攻撃の二つ。
『……』
じっと、俺の方を見るアイススライム。
『来ないのか?』と言っている気がした。
……考えすぎか。
「らあ!」
初撃。
片手斧を、アイススライムが遠距離攻撃のモーションに入った瞬間に投擲する。
『ピギイ!!』
あ、食らった。
どうやら成功したらしい。
「――!」
『ピィ……』
一喜している暇も無く、氷柱を飛ばしてくるアイススライム。
怒ったのか、勢いがさっきより早い気がする。
「スラッシュ!」
『――ギィ!』
もう一度、氷柱のモーションに入ったのを確認してスライムに向けダッシュ――片手斧を拾う。
そのまま武技を振るえば命中した、しかし――
「ぐっ」
『ピィ!』
その隙を逃さず、俺に向けてタックルをするスライム。
避ける間もなく食らってしまう俺。
その衝撃のままスライムから距離を取った。
「……流石に痛いな」
見ればHPゲージは一割削られている。
一応STRに振っているとはいえ、やっぱり生産職。防御は薄いよな……
「行くぞ」
でも――対するアイススライムのHPは、後八割。
俺がミスさえしなければ、このままいけば倒せるな。
……案外、一人でも何とかなるかもしれない。
☆
「はあ、はあ……」
あれから少しの時間が経過。
俺のHPは残り三割。
対するアイススライムは――後五割。
どうして逆転しているのか?
……それは、コイツが突如自己回復を始めたからだ。
HPを三割切った瞬間、周りの雪を取り込むようなモーションと共に回復を行う。
「こんな能力あるのかよ……」
『ピギピギ』
俺が攻撃を行わない間、それを行う様で。
アイススライムが攻撃した瞬間に攻撃する――そんなカウンター的な俺のスタイルには、ガン刺さりだ。
焦って攻撃しようにも、逆にカウンターをかまされる。
「……プレイヤーより厄介だよ、お前は」
『ピギイ』
五割を超え、六割にまで達しようとしているアイススライムのHP。
俺はそれを眺めながら――立ち尽くしていた。
「やっぱ、楽には勝てないよな」
息を深く吸う。
集中しろ。きっと今から、とんでもなく疲れる。
最後まで根を上げるなよ。
「――」
『!』
自己回復を続けるアイススライムに突っ込む。
反応し、氷柱を吐き出すモーション。
まず一発。
「スラッシュ!」
『ピギイ!』
命中。問題はここから。
俺の武技を食らった直後――アイススライムがタックルのモーションに入る。
このまま行けば、俺のスピードじゃ間違いなく食らってしまう。
どこに来るか分かればカウンターも出来るが、如何せんコイツの攻撃はランダムなのだ。足、腹部、頭――プレイヤーと違って読めない。目線なんて無いしな。
だが――読めないのなら、『賭ける』。
「――スラッシュ!」
確率は三分の二。
スラッシュ――その攻撃範囲は、振り上げでギリギリ俺の頭から腹まで。
振り下げで腹から足まで。
どう頑張っても全てはカバー出来ない。
だが精一杯引き付ければ、その二つはカバー出来る。
かなり集中力はいるが――武技は、ある程度は速度を調整できるからな。
意味があるかは分からないが……少なくとも今の状態なら必要だ。
腹に来るならそのままのスピードで。
頭、足に来るなら遅らせて。
アイススライムの攻撃よりワンテンポ早く、俺は武技を発動させれば良い。
そう考えた。
出来るかどうかは別として――
『ギイ!!』
賭けは頭、腹の上攻撃。
そして――アイススライムは、『頭』に来た。
俺は動く腕を抑えながら、タイミングを見計らう。
――ここだ!
『ピギイ!!』
大きな悲鳴を上げるアイススライム。
最初の賭けは、俺の勝利。
しかしそれで終わりじゃない。
「まだまだ、これからだな」
長い戦闘、集中を切らしてしまえば終わり。
俺はもう一度、息を吸い込んだ。
☆
「ピギイ!!」
「……終わった」
《経験値を取得しました》
《アイススライムの欠片を取得しました》
《1000Gを取得しました》
合計十回程の賭けを経て、俺の『負け』は三回程。
完璧とは程遠いが――勝てたのだから良いだろう……
「何とかなるもんだな」
『前』の俺は――やる前から格下に逃げていた。
こうして同格、格上に挑むなんてもっての外だ。
達成感なんて微塵も無い、ただの作業。
しかしさっきの狩りは、退屈など無い戦闘。
PKKとはまた異なる達成感、というか。
「でも……流石に効率悪いか」
やはり商人でソロプレイとなると、かなり時間がかかる。
パーティプレイならきっとこんなに苦労もしないだろう。
……だが。
無いものねだりしても無駄だ。商人としてプレイしている時点で、そこは割り切ろう。
俺が今やる事は――職業の不遇を嘆くことじゃない。
少しでも狩りの効率を上げていく事だ。
『……』
休憩もほどほどに。集中が切れちゃ本末転倒だからな。
一分程度でリポップするアイススライムに、俺は再度向かっていく。
☆
『ピギイ!』
《経験値を取得しました》
「……ふう」
三匹目のアイススライムを倒して、俺は息をつく。
ぶっ続けでやったせいか少し疲れた。
でもおかげで、武技を遅らせる感覚も大分慣れたな。
「って、もう一時かよ」
メニューから時計を開いて時間に驚く。
流石に明日に響くよなあ……
「落ち――」
《――◇◇!◇◇!◇◇!》
――ふと。
ログアウトを押そうとした手前で。
その聞きなれた警告音が、俺の耳に響いた。
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