深夜のPKK②
「……終わったか」
《100000Gを消費しました》
終わると同時に聞こえるアナウンス。
この黄金の一撃スキルは、消費する額を設定する事が出来る。
今回は設定額を十万Gに設定していたのだが……これもオーバーだった様だ。
元々減っていた小刀使いの三割ぐらいのHPバーを一気に削っていた。
急所に当たったせいもあるだろうけど。
「ちょっと勿体無かったか」
単なる好奇心で賭けるには少し多すぎたかもしれない。
まあでも、あの後戦闘が続けば――スピードによる差で負けていたかもしれない訳で。
とっととケリをつけるという意味でも、あの場面ではこれが正解だったのだろう。
リアルスキルなんて持ってない、まして商人である俺が、調子にのるべきではない。
……まあ、何にせよ勝ったんだ。忘れないうちに黄金の一撃設定額を半分の五万Gにしてと……
よし。
この充実感と一緒に、今日はログアウトを――
「……あの」
メニューを開こうとした瞬間――声をかけられる。
《レン 魔法士 level20》
……さっきのパーティの、生き残りの少女だ。
HPは後一割、MPはゼロに近い。
詠唱失敗の場合でもMPは消費されるから当然か。
あれだけ失敗してたらなあ……
両手に杖を持って、ダボダボのローブを着た如何にもな魔法使いの彼女。
そのせいか、顔の全貌は見えない。口元と背丈が小さいぐらいしか分からないな……
気のせいだろうか、何か既視感を覚える。
「……ありがと……ございます」
「……?ああ」
途切れ途切れにお礼を言われる。
……話すのが苦手なのか?
まあ、いいか。
感謝されるのに悪い気はしない。
PKの奴らと闘いたかっただけなんだけど、それならそれだ。
「あの時の土魔法?だよな、最高のタイミングだった。アレに助けられたよ。ありがとう」
「――!……」
何となくこっちもお礼を返したのだが、間違ったかもしれない。
皮肉みたいになってしまったか?
言った瞬間に、更に彼女が俯いてしまった。
……気まずいし、さっさと帰るか。
「それじゃ、気を付けてな。俺は時間だし落ちるよ」
「……!」
時間ももう夜遅く。メニューの時計を見た後、俺はログアウトを押す。
ちなみに戦闘フィールドで落ちた場合、強制で非戦闘フィールドに飛ばされログアウト扱いになる。
次ログインした時に戦闘フィールドで……なんて事故シチュエーションは起きない様になっているわけだ。
……ちなみに、負けそうになったからログアウトで逃げる――なんて事は出来ない。
非戦闘状態でのみログアウトボタンは押せて、更に十秒の非戦闘状態の維持を経てやっとログアウト出来るのだ。
「――!!あの時の――」
ログアウト、十秒手前。
彼女がハッとした様な顔で見上げた後、その声と共に――俺はこの世界から落ちた。
☆
「……最後、何か言ってたよな……」
VRデバイスを脱ぎ、俺は思い出す。
あの時の、とか何とか言ってたような……
「まあ、いいか」
だからと言って再ログインするわけにはいかない。
場所も違えば時間も……夜二時。
もう会うことも無いだろう、こんな広い世界なんだから。
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