最後の戦闘③

「はあ、まさかドールを使う羽目になるなんてな」


「ひひっ、必死だったなお前。ほら『商人』にいっぱい削られたHP、ちゃんと回復しとけ――」


「ああ!?てめえがもうちょっとちゃんとしてりゃ――」



呑気に会話を続けるPK。


気付いていない――恰好のチャンスだ。


最後の機会。

絶対に殺す。


片手斧を握り締め、対象の距離を測る。


大丈夫だ。

俺なら出来る――その為の、DEXだろ?




「えーっとあと一人は……ッ!?アイツ、生きて――」


「は――」




俺を察知するスキルを発動させたようだが。


もう、遅い。



「――ッ!?」


「はあ!?おい!!おい!」



握りしめた片手斧はもう無い。


その代わり――それは、弓使いの首に突き刺さっていた。

もう塵になっているようだから、地面にあるんだが。


背後+不意打ち+急所のトリプルパンチ。

一割を削るには大きすぎるぐらいかな。



「……お前、どうやって復活した?」



VRってのは凄いものだ。

表情から怒っているかがすぐに分かる。


……これを無視したら、もっとキレるだろうな。



「……チッ、無視かよ――だが、お前はもう武器を失ってんだ、分かるか?」



確かにそうだ。

俺の手には、もう武器がない。


対して小刀使いはその小刀を手に、臨戦態勢だ。



「ああ、うぜぇなクソが――商人の癖に足掻きやがって。……でも残念だったな、これで終わりだ」




目の前に、そいつは迫る。

勝ちを確信した顔で。



「――死ね!!」



俺は、あえてHPは残り三割から回復しなかった。


それは――相手の油断を誘う為。

もし全回復でもしてしまったら、相手は身構える。

今のように突っ込まず、回避中心の戦闘で来ていただろう。


それではいけない。

でも、あえて――俺が『瀕死』の状況を作れば。

甘い甘い、『蜜』を用意すれば。



敵は、俺に攻撃を当てに来る。

強引に――蜜を奪いにやって来る。

それで、『終わり』なのだから。



「――ッ」



ひりつくような殺意が刺さる。

俺は、それから逃げない。進んで前へ足を踏み出す。


そうだ。

俺は――次の『攻撃』を、絶対に当てる必要がある。

次の次もその先もない。これを外せば俺は死ぬ。



予測しろ――敵の挙動を。

一寸違わず目標まで。

その『拳』を、絶対に外すんじゃない。




「っ――」



攻撃動作の中――たった一つの点。


一瞬の隙だ。

秒に満たない刹那の連続、小刀使いの動きを読んで――俺は『それ』を発動する。



それは、

正真正銘――!!





「――――『黄金の一撃ゴールド・クリティカル』!」




その小刀が、俺の首を掻っ切ろうとする前に。


眩しい程の黄金色の軌跡が――俺の拳と共に、小刀使いの腹へ伸びて到達。

五割あった小刀使いのHPは、もうゼロになっていた。



「……へ?」



それは、コイツにとってはあっけない終わり。

俺にとっては――これまでのRLの、全ての終わりだ。


……きっとそれは、誰にも分からないだろうが。


小刀使いは、情けない声と共に光の塵と変化していく。

『負けた』と理解するのは、リスポーンした後だろう。



《『6087820G』を消費しました》



全てを終えた後、聞こえたアナウンス。




『黄金の一撃』――戦闘中一度だけ発動でき、所持金を設定した額だけ消費して攻撃するスキル。


そして当然、掛けた金額に応じてそのダメージ量は変わる訳で……だから俺は、所持金全てをつぎ込んだ。


その結果がさっきの通り。もし欲が出て少しでもGを残そうとしていれば、もしかしたら小刀使いのHPは削り切れなかったかもしれない。



「……終わったんだな」



勝ったんだ、俺は。

あいつらに、勝てるとずっと思っていなかったPK職に。

そしてあの少女に、俺は――



VRの空を見上げる。

それはいつもと同じな光のはずなのに……やけに眩しい気がした。

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