最後の戦闘②



「っ——」


「『スラッシュ』」



前衛の消えた後衛職は、俺の思っている以上に脆いものだった。


守ってくれる小刀使いが消えた今——目に見えて動揺、混乱している。

俺も集中する相手が一人になった事で、大分戦いやすくなった。


狙いを定める視線。

矢を番える手の動き。

回避の為のステップも。


その全てが、最初とは段違いに見て取れる。

もはや攻撃は当たる気がしない。そして自身の攻撃を外す気もしない。




「――くっ、当たれよ!!」


「……」



高度な弓使いなら俺の行動を予測して偏差射撃なりなんなりするんだろうが……目の前のコイツは、お粗末なものだった。

俺の方向に、『ただ矢を放つ』だけだ。


そんな攻撃なら、跳ぶまでも無く軽いステップで避けられるもの。

PTでの後方射撃に甘んじて、一対一なんて想定していなかったんだろう。



「ぐっ、くっ——」


「『スラッシュ』」



矢を放った隙に、武技を入れる。

コイツの攻撃はもう――当たる気がしなかった。


弓使いのHPゲージが二割を切る。


もうすぐ。



あと、ほんの少しで――












――――『俺は最後に、コイツらに勝って終われるんだ』――――













ふと。



そう——思ってしまった。

油断、してしまった。



背後の影に。

弓使いの、密かに浮かべた口の湾曲に。

殺意が迫る、その光に。


俺は——気付くことができなかった。





「――死ね」




それは、突如聞こえた。

絶対に優勢だったはずの俺のHPが——ごっそりと減る。


ドールによる復活後はHPが五割。

そして今は——三割となって。



「商人何かに負けるとか、流石にキツイわ」



どうすれば良い。

先に弓使いを?

それとも迎撃を?


頭が追いつかない。


さっきのセリフは何だ?

慌てるなよ、そうなったら終わりだろうが――――!!



《状態異常:毒となりました》



追い討ちの如く聞こえるアナウンス。

『状態異常』。

見ればHPバーが紫色になり、継続的に減り続けていた。



「ハハハ!やっと毒に掛かったか、ゲームオーバーだ!!」



目の前の小刀使いが嘲笑う。


今から攻撃しようにも、恐らく避けられて終わり。

弓使いを倒そうとも、後ろから小刀使いの攻撃を食らって終わり。



どうする?


答えが見つからない。

何か——この状況を打開する何かを。


見つけようとも、それは目の前の奴らに打ち砕かれる。



「っと、流石にもう食らわねえよ」


「——パワーショット!」



思考を巡らせながら、俺は武技を小刀使いに振り回す。

背後からの弓使いの武技の詠唱。


「っ——」



矢を避けるべく、俺はまたすんでで跳ぶ。


……しかし。その武技は、飛んでこなかった。




「……『パワーショット』」



「——ぐっ!?」



先程の詠唱は、『言っただけ』。


理解したのはもう、手遅れなタイミング。

一瞬見下した相手に――してやられた。



後悔と絶望を感じる前に、本物の矢が飛んでくる。



「ハハハハハ!!騙されてやんの!ざまあ!!!」


「おい、うるせーよレン」



体勢を崩して、避ける余裕などなく腹に矢が突き刺さった。

気付けなかった。


俺のHPは——もう、一割を切る。


たった一つの機会を前に、俺は――



「はは、ごめんって!もう見てらんねーわコイツ」



衝撃で倒れた俺を、PKの二人が見下ろす。


吹けば飛ぶような、紫色のHPバー。

攻撃の必要もない――そう嘲笑うソイツらに。



「クソがああああああ!!!」




叫ぶ。

その声は届いたのかどうか分からない。

分かっているのは、『意味がない』だけ。


何事も無かったかの様に、目の前から遠ざかっていくPK。

俺はそれを、眼が飛び出そうになるほどに睨みつけて――




《貴方は死亡しました》




二度目のアナウンス。

もうそれは――『敗北』を示すモノだった。



………………。


これで、終わりなのか?


あの少女は?


このまま――アイツらを行かして、蹂躙されるのか?


きっと彼女は笑われるだろう。

商人という職業で馬鹿にされた後、一ミリの容赦もなく殺されるだろう。

その時彼女はどうなる?

たかがゲーム。それでも。

そのゲームにあれだけ楽しそうにしていた彼女に、それが起こればどうなる?




ふざけるな――

『全て』を掛けてでも、俺はこのクエストを成功させるって言っただろうが。



例えそれが、だったとしても――

積み上げてきたソレは、何の為にあったんだよ!!!









――――『黄金ゴールド蘇生術リザレクションを使用しますか?』――――










俺の身体が塵状になる手前で。

そのアナウンスは、確かに俺の頭に鳴り響いた。


確かに聞き覚えのある言葉。



「『使う』」



『蘇生』――そのワードだけで、YESとするには十分な材料だった。

迷わずそれに答える。



《所持金の半分『6087820G』を失いますが、本当に――》



「『使わせろ!!』」


叫ぶ。

所持金の半分なんて構わない――これまでのRLの全てなんて、全部払い尽くしてやる。


どうせ、俺はこれで最後なんだ。

一刻も早く、復活できるのならそれでいい。


同時に――俺の身体が元通りになっていった。

HPバーは三割となっている。



《『6087823G』を消費しました》



聞こえるアナウンス。

それと同時に頭の中をぐるぐると回す。


『黄金の蘇生術』――聞いたことの無いスキルだ。恐らくさっきのPKを倒した時取得した?ものだろう。


それと――何かがあった。

微かな記憶の中で、それは聞こえている。



「――これは」



復活のモーションの中、スキル欄を開いてそれを見た。



「……本当に、『最後』には打ってつけだな」



笑う。

まだ、あのPK達の背は見えていた。

回復も何もしていない、油断に塗れたアイツらが。



「……行くか」



決着をつけよう。

俺の最後のRLに。



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