最後の戦闘①
『察知スキル』。
戦闘において商人である俺が出来る仕事は、戦闘以外だった。
つまり、支援。
しかし回復魔法も支援魔法も使えない俺は……別の方面から支援していかなくてはならない。
その内の一つが――敵の察知。
迫る敵を真っ先に見つけ、先手を打つことが出来るのは大事な仕事だ。
……だと思っている。
そしてそれを担うのが、この察知スキル。
PK職が付近、またPK職がクエスト中に出没した時、存在する方角を教えてくれる。
さっきの音もこれが原因だ。
「……雑に買いすぎたかな」
呟く。
でも……もう、決めた事だ。
十万Gのポーションを、俺は一気に開封する。
《クリティカルアップポーションを使用しました》
《オフェンスアップポーションを使用しました》
《ディフェンスアップポーションを使用しました》
《マジックディフェンスアップポーションを使用しました》
《スピードアップポーションを使用しました》
《オール・ステータスアップポーションを使用しました》
「……ふう」
息をつく。
我ながら、必死なもんだ。
しかしこれでも……アイツらに勝つのは厳しい。
精々一パーセント上がった程度。
それでも……ほんの少しだけでも、可能性を上げるんだ。
「行こう」
孤独な戦いへ。
PK職の方角を示す場所に、俺は進む。
☆
「……いやあ、まさかこのゲームでまた行商クエストを見る事になるとは」
「おい黙れ!もし近くに居たらバレるだろうが」
「ハハハ!!もし気付かれたとしても余裕だろ!」
「……まあ、そうか。何たって俺らPK職二人対一人、プラスお荷物だもんな」
「そうそう、ぶっちゃけ馬鹿としか思えねえな。それか――よっぽどのNOOBか」
……全て、筒抜けだよバカが。
しかしこんな会話を聞いても、イラつかなくなったのはそれはそれで堕ちたもんだ。
だが今は、冷静な事に越した事はない。
「……っ!おい。居るぞ。一人だ」
「了解。って一人かよ」
不意に黙ったと思えば、そんな事を言うPK職。
くそ――あっちも感知系スキル持ちかよ!
完全にバレる前に、先手を打たなければ。
「――っ」
足を踏み出そうとして、戸惑う。
……本当に、やるのか?
勝算はほぼゼロ。
プレイヤーとの戦闘なんて、一度も経験が無い。
最後だから――そう思ってここまで来たが。
モンスターですらまともに戦えず逃げて寄生していた俺が、あんなヤツらと?
――『どうせ勝てない』――――
ああクソクソ!!!
この土壇場で、何時もの癖だ。
『どうせ』、『どうせ』――決意を固めたはずなのに、また俺に現れる。
いつもそうやって、逃げてばかりで――
「――!おい、あそこだ!!」
まるで針を刺されたかのように、心臓が鼓動する。
――クソッ!何やってんだ俺は!!
「ああああああ!」
声を上げる。
黙ったままでは、さっきの思考に戻りそうになったからだ。
強引に、声の方向へ足を走らせる。
「――ぐっ!」
瞬間、飛んでくる矢。
寸でで避けようとするものの――間に合わない。
その一矢は、俺の肩を貫いた。
ほのかな痛覚と、減少するHP。
「見っけ」
「……つーか。『商人』かよ!ハハハ!!」
目の前に居るのは、弓を構えて俺に向く男と、笑いながら小刀を持った男。
……前衛、後衛綺麗に分かれている上……
《??? level20》
《??? level20》
目を凝らすと見える、PK職を示すハテナマークのプレイヤー。
俺と同じレベルだ。
まだ俺より格下なら……望みはあった。
「……何で、こんな……」
……勝てる気が、しない。
ああ駄目だ、考えるな!
敗北のイメージは捨てろ!
「っ――らああああ!」
半ば自棄で、俺は小刀使いに斧を振り上げながら突っ込む。
迷うな。
止まっているよりマシだ――何としても、身体を動かせ。
集中して——前を見ろ。
二人相手だろうが、PK職だろうが……嘆くんじゃない。
全神経を——今は、アイツらを『殺す』事だけに注ぎ込め!!
「ぶっ!おいおい突っ込んできたぞ、レイ!」
「ああ」
揺れる視界で、矢先が俺に向くのが分かった。
手を引いて、手を放して――矢が俺の方へ直線に飛んでくるだろう。
なら――跳べ!!
「――っ!」
「な!?」
俺の背後スレスレに、矢が通過していく。
その風を感じながら――俺はそのまま小刀使いへ。
「――『スラッシュ』!」
「――っと」
透かさず武技を放つ。
間合いは完璧。
タイミングも、阻む弓使いの攻撃も無い。
なのに。
「おっせーんだよ、お荷物野郎が――」
避けられた。
それも、余裕で。
職業の差が、露骨に俺を覆っていく。
でも、迷っていられない。
視界の片隅。もう一度――矢先が見えた。
どうする?避けるか?そのまま攻撃するか?
「『スラッシュ』」
今度は、目の前で小刀使いが武技を放つ。
青い軌跡。やるしかない!
「『スラッシュ』!!――ぐっ!うっ!!」
小刀使いの武技と、弓使いの攻撃を同時に食らいながら前に武技を放つ。
当然、俺と同じく避けられないはずだ。
「――ッ!バカかよコイツ!おい援護!!」
堪らず俺の攻撃を食らい、衝撃で体勢を大きく崩す小刀使い。
ナイフよりも、ずっと斧の一撃は重いからな。
ここが攻め時――俺は再度斧を振り上げる。
「『パワーショット』!」
「ぐっ!!」
弓使いの武技だろう——鉛のような重い射撃が、俺の腹に命中する。
衝撃で身体が仰反ろうとするが——
「ああああああ!!らああああ!」
ここで退けば——もうチャンスは無い!!
文字通りの死ぬ気で、俺は小刀使いに覆いかぶさって、前へ声と斧を振り上げる。
泥臭くても良い。
どれだけ醜くても良い。
絶対に殺せ。例え——『俺が死んだとしても』!!
「『スラッシュ』!!」
「——この……『パワーショット』!」
「——『スラッシュ』!!ぐっ——!!」
反撃出来ない小刀使いに、武技で滅多打ちにする。
合間に弓使いの攻撃が入るが構わない。
ひたすらに、目の前の敵に斧を振り続けて。
「クッ、ソが——!!」
もう少し。
目の前の敵のHPゲージは、もう手の届く所までに来ていた。
割合にして、約一割――
……しかし。
俺は、自分のHPは見ていなかった。
「『パワーショット』!」
《貴方は死亡しました》
不意に、俺の身体が軽くなる。
そうか——俺のHPはゼロになったのか。
「……チッ、馬鹿かよコイツ――」
「はあ、無駄に疲れ——」
その声を聞く度に、今まで起こらなかった様な『何か』が暴れている。
それは、怒りでも悔しさでもない。むしろ真逆。
これから起こる事、それが楽しみで仕方ないんだ。
ドクンドクンと何かが蠢く。
油断、している所悪いな。
俺は――これで、『最後』なんだ。
《サクリファイス・ドールを使用して復活しますか?》
即回答――『「YES」』。
まだ機会は、失っちゃいない。
『サクリファイス・ドール』……それは、RL内では五十万Gを超えるレアアイテムだ。一戦闘に一回限り使用出来て、その場で復活する事が出来る。
聞いた所によれば、トッププレイヤー達がここぞという時のみ使用するアイテムらしい。
先程のポーションとは比にならない価格だが――その効果も同様に比にならない。
そしてその価値の高さが、相手の油断を生む。
まさか俺が、この場でそれを使うなんて――と。
「――」
息を殺しながら復活を行う。
度肝を抜かせてやろう。
商人如きに殺されるのは——どんな気持ちなのか、凄く興味が湧くな。
「『スラッシュ』」
「——ッ!!?」
「はぁ!?――」
復活の瞬間——小刀使いの空いた背中に、武技を放った。
残り一割……背後・不意の攻撃によるダメージボーナスも加わって。
《???を倒しました》
俺は初めて——PKK(プレイヤーキラーキル)に成功した。
何とも言えない心地良い感覚。
そんな、初めて味わうそれと共に――
《◇◇――◆――――を獲得し――》
《▼▽―――△――――獲――した》
《『◇◇』『◇◆』『▼△』を――――事で――特――――――スキル『▼▼▼』『■■■』を獲得――――》
頭の中にノイズが走る。
きっとそれは、アナウンスなのだろう。
だが。
それに意識を向けては駄目だ。
――今は、戦闘以外の情報は邪魔なモノ。
絶対に集中を切らしてはならない。
目の前の敵にのみ頭を回せ!
「な、何だよ――!?」
驚愕する弓使いの横で、塵になりゆく小刀使い。
「お前っ、『ドール』まで使って、必死かよ!」
「……」
相手の言葉は聞くな。
容赦無く、敵を殺せ。
一切の隙を見せるんじゃない。
精神は一定に。抑揚は付けず、ただ戦闘に集中するように。
『あと一人』。
もう一度――俺は息を吸い込んだ。
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