『シルバー』

《行商クエストⅠの募集に申請しました》


《申請が受理されました》


《パーティーリーダーのチャンネルに移動します》



俺の申請は一瞬で受理され、その商人の場所に移動させられる。


視界がぐるっと変わり、また同じ場所に降り立つ。

膨大なプレイヤーが居るRLだ。チャンネルは勝手に振り分けられるが、クエスト募集などに申請、受理されると依頼者の元に強制移動となる。


……この感覚も、何か久しぶりだ。

『商人』ってだけでずっと拒否られていたからな。



《始まりの街に移動しました》



そこには、目に見えてアタフタしている女の子がいた。


そのアバターは……綺麗な銀のロングヘアーに、かなり整った可憐な顔。

俺より一回り小さい身長に、スタイルは少し痩せた……スレンダーというよりは病弱な感じの印象を受ける。


可愛いとも美人とも言える彼女は、どうやら俺を探している様だった。一応パーティーメンバーの場所はマップに表示されるんだけど……恐らく初心者のせいか、知らないのだろう。



「……あ!!」



目を合わせると同時に、その少女は俺を見て声を上げる。

名前は『シルバー』。髪色の通りだな。


前のギルドでも、ここまで外見のクオリティが高い女性プレイヤーは居なかった。

何となく彼女は……透明感、みたいなものがある。


はは、ギルドのアイツらにそんなもんあるわけないか。

隙あらば俺のGを集るような奴らに――



「……あの……ニシキさんですよね?」


「!あ、ああ。ごめん」



ふと前のギルドメンバーを思い出していた所、控えめに声を掛けられる。

駄目だ駄目だ、今はこの貴重な商人とのクエストなんだから。



「良かったー。あの、私このクエスト初めてで!というかゲーム自体も全然始めたばっか何ですけど——」



つらつらと喋る彼女。

それは……まるで今まで話せてなかった分を、放出しているような感じだった。


まあそりゃそうか……今や、商人ってだけで除け者だからな。

パーティーに入れてもらえる事も無いんだろう。

昔、まだ俺達が不遇と言われていなかった頃は、困る事なんて無かったんだが。


それにしても……こんなアバターでも商人は不遇なのか。世知辛いもんだ。



「大丈夫だよ、多分」



勿論……真っ赤な嘘だ。

行商クエスト——それは、商人専用のクエスト。


商人プラス護衛でパーティを組み、NPCから積み荷を載せた荷車を受け取り、ゴールまで運ぶことができればクリア。いわば運搬クエストだ。


文面だけ見れば簡単だが――その実は容赦のないクソゲー。

理由として……『PK職』の存在にある。



PK……プレイヤーキル。俺達プレイヤーを殺す行為。

そしてそれ専用に、PK職と呼ばれる職業がある。

文字通りPKを得意とした、対人戦闘に特化した職業。


PKを行う事で経験値を得て、あらゆるものを奪って行く者達。

俺達商人の天敵とも言えるそれ。俺達が得たゴールドを容赦なくかっさらっていく存在だ。


そしてこの行商クエストでは……そのPK職が、ほぼ確定で出没する。

、PK職がパーティを組んで現れるのだ。


戦闘が得意でない商人が、対人の戦闘に特化したPK職に勝てるわけがないのは明らかであり。

また護衛として他の職業を雇えるのだが、それでも商人という荷物を抱える訳で……勝敗は見える。


報酬は豪華だが……拘束時間も長い上、失敗の確率が高すぎる。


結果——そのクエストは一瞬で過疎になった。商人が、延々と護衛募集を掛ける悲しい状況。

この少女もその一人であり……護衛募集に手をあげたのが、この俺と言う事になる。



「――!……頼もしいですね!」



尊敬のような眼差しが痛い。

分かっている、本当の事を話すべきだ……でも、見栄を貼ってしまった。



「それじゃ、早速——」


「ちょ、ちょっと待った!!」



迷わずクエストを始めようとする彼女に、叫んで制す。



「ちょっと……準備してくるから、待っててくれ」


「あ、分かりました!待ちます!」



そう言うと、敬礼のポーズを取る彼女。

本当に元気な子だ。……商人には、勿体ないな。


さて。

俺に出来る事は――精一杯、奴らに対抗する準備をする事。


どうせ自分は辞めるんだ。

最後の最後に商人である彼女に会えた奇跡。

準備は——これ以上ない程に、贅沢にやろうか。

確率はほぼゼロに等しいが、ほんの少しでも上がるのなら――





「ごめん、待たせたな」


「いえいえ!それじゃ行きましょうか」


「ああ」



少女とクエストNPCの元へ歩く。

……行こう。


彼女にとっては初めての行商クエストへ。

俺にとっては、RL最後の行商クエストへ。

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